会長・下村伊一郎先生インタビュー 第69回日本糖尿病学会学術集会の開催に向けて
第69回日本糖尿病学会年次学術集会が、2026年5月21日(木)から5月23日(土)まで大阪国際会議場にて、「IMAGINE いのち輝く糖尿病の医療・医学を共に目指して」をテーマとして開催される。今回会長を務める下村 伊一郎 先生(大阪大学大学院医学系研究科 内分泌・代謝内科学 教授)に、学術集会開催に向けての思いを伺った。
写真:第69回日本糖尿病学会年次学術集会 会長
下村 伊一郎 先生(大阪大学大学院医学系研究科 内分泌・代謝内科学 教授)

ゴールドスタイン教授とブラウン教授との思い出
留学先での「脂肪萎縮性糖尿病」の研究
――今回の特別講演では、松澤 佑次 先生(住友病院名誉院長・最高顧問)、熊ノ郷 淳 先生(大阪大学総長)といった国内の著名な先生方に加え、海外からは、ノーベル生理学・医学賞受賞者であるゴールドスタイン教授・ブラウン教授によるビデオ特別講演も行われます。
ゴールドスタイン教授とブラウン教授は、下村先生が留学先のテキサス大学で指導を受けた先生方と伺っておりますが、そんな先生方とのご留学時のエピソードや、印象に残っているお話などがありましたらぜひお聞かせください。
下村伊一郎先生:
ゴールドスタイン教授とブラウン教授は、LDLコレステロールの受容体を発見され、その発見をもとにスタチン製剤の開発につなげた業績で、ノーベル生理学・医学賞を受賞された先生方です。コレステロール代謝の研究においては、「SREBP」という転写因子も発見されています。
一方私は、留学前、大阪大学当科の前教授であられる松澤先生のもとで、肥満や内臓脂肪の研究をしており、「なぜ内臓脂肪が蓄積すると、あれほど多くの病気になるのか」ということに興味を持っていました。そういった研究の中で、実は脂肪組織が重要なタンパク質を分泌していることを見出し、それを「アディポサイトカイン」として概念化しました。その中の一つとして、ヒトの脂肪組織から発見したのが「アディポネクチン」という物質です。
しかしながら、ゴールドスタイン教授とブラウン教授は先ほどお話したような業績を残されており、当然のごとく私の留学先は、肝臓およびコレステロール代謝を専門にしている研究室でした。
――そうだったのですね。では、留学先の研究室で下村先生はどのような研究をされていたのでしょうか。
下村伊一郎先生:
私も留学当初は、ゴールドスタイン教授、ブラウン教授の指導のもとに肝臓やコレステロール代謝の研究をしておりましたが、一方で脂肪組織の研究もサイドプロジェクトとして進めていました。その中で、先ほど触れた「SREBP」という転写因子の研究を行っていたのですが、SREBPを脂肪細胞特異的に発現させるトランスジェニックマウスを作製したところ、脂肪組織ができないマウスが誕生したのです。そのマウスは、非常に重症な糖尿病と脂肪肝を発症しました。この「脂肪ができないことで重症な脂肪肝と糖尿病を発症する」という結果に、ゴールドスタイン教授とブラウン教授は大変興味を持ってくれました。
また、当時、もう一つのアディポサイトカインである「レプチン」がちょうど発見されたころでした。そして、前述の脂肪組織ができないマウスにレプチンを投与すると、糖尿病や脂肪肝が改善しました。脂肪組織が減少ないし消失することで引き起こされる「脂肪萎縮性糖尿病」という疾患がありますが、実はその本態は、脂肪がないことによってアディポサイトカインが欠乏することにあるのだろうということが分かりました。この研究成果がきっかけで、米国で臨床研究が始まり、実際に脂肪萎縮性糖尿病の患者さんにレプチンを投与すると病気が改善することが分かりました。このことが日米の実臨床でのレプチン治療につながっています。
私が帰国する際、ゴールドスタイン教授とブラウン教授が、「コレステロール代謝が専門の研究室で、よく脂肪組織の研究をやってくれた」と褒めてくれたのが一番の思い出です。今回、私が糖尿病学会学術集会の会長を務めることを話すと、先生方はすごく喜んでくださりました。また、先生方は数年前、自分たちの研究人生を振り返る「Excursion(遠足)」というレビュー論文を発表されているのですが、「自分たちがすごく楽しかった研究」を3つほど挙げており、その一つに私の研究を入れてくださったのです。
会長教室講演について
――今回の学術集会では「会長教室講演」というセッションがございます。現在ご準備の真っ只中だとは思いますが、見どころや内容について、差し支えない範囲で教えていただけますでしょうか。
下村伊一郎先生:
せっかく「会長講演」を行うのであれば、自分たちの教室がこれまでやってきたことを紹介するのに加えて、教室員の先生方にも参加してもらいたい。そのように考え、「会長“教室”講演」として企画しました。
これだけ大きな学会を運営することは、教室員の先生方にとっても大変なことが多いので、教室全員と楽しめるものに、またそれを学会に参加される方々にも共有できるものにしたいと思っています。具体的に何をするかは当日のお楽しみとしていただければ幸いです。
――学術集会ホームページで現在公開されているコンセプトビデオも、教室員の先生方で作成されたのですよね。
下村伊一郎先生:
そうなんです。コンセプトビデオも、先ほどお話ししたことと同じ思いで作成しておりますので、開催当日まではそちらをご覧いただけると嬉しいです。
Scientist is a big fun!
研究者でいることはこんなにも楽しい!
――今回のプログラム、またこれまでのお話からも、若手の先生方に対し、研究の重要性や「もっと研究に携わってほしい」という下村先生の熱意を感じ取っております。現在研究に取り組まれている若手の先生方への期待や願いをお聞かせいただけますでしょうか。
下村伊一郎先生:
今回、会長特別企画として、「Meet the Maestros: “Scientist is a big fun!”」というセッションを設けております。このセッションで発表される先生方は、日本だけでなくアジアや欧米を含め、本来であればお一人で特別講演をお願いするくらい大変ご高名な先生方ばかりです。そんな先生方にあえて、「Scientist is a big fun=研究者でいることはこんなに楽しいことなんだよ」ということを語り合ってもらうセッションにしています。
研究を続けていくことは大変なことも多いですが、出てきた結果が面白いことはもちろん、それに加えて、世界中の素晴らしい研究者たちに出会えます。お互いをリスペクトできるような友人たちとの出会いは、一生懸命研究を頑張ることへの何よりのご褒美だと私自身思っています。そういったことを、これからの世代の先生方にも感じ取ってもらえたら嬉しいですね。
またシンポジウムでは、「日本の糖尿病研究の未来 :Meet the Stars」というセッションも企画しています。これは、リリー賞、女性研究者賞といった学会賞を受賞され、これから糖尿病学会を牽引していくであろう中堅の先生方より、「これからこんな研究、取り組みをしていきたい」ということを大いに語ってもらう場です。「Meet the Stars」というサブタイトルをつけておりますが、これは、「Meet the Maestro」に登壇するのが長年第一線でご活躍されている先生方であるのに対して、こちらは今まさに日本の糖尿病研究を牽引していく先生方に講演いただく、というコンセプトです。登壇される先生方にとってはプレッシャーになるとは思いますが、どのような面白い話を聞けるか私たちも楽しみですし、若い先生方が「すごいな」と思えるような、刺激的なセッションになることを期待しています。
――ここまでいろいろなお話を伺いましたが、かつて下村先生が留学されたときのように、新しい出会いや発見のきっかけがあり、若手や中堅の先生方が感化されてより発展していくこと、そんな大きな期待に包まれているのが今回の学術集会であるというふうに感じました。
下村伊一郎先生:
実は、「Meet the Maestro」で登壇いただく、ソウル大学校のJae B Kim先生とは、私がテキサス大学に留学していた当時、彼はハーバード大学にいて、お互い顔も見たことがないまま、論文上で一番のライバルでした。そんな彼と私は、それぞれ韓国と日本に帰国した今では本当に親友になっています。そんなエピソードも含めて、「一生懸命、研究者でいることは楽しいこともあるんだよ」ということを感じていただけたらと思います。
第69回日本糖尿病学会年次学術集会
IMAGINE いのち輝く 糖尿病の医療・医学を共に目指して
Imagine, “Medicine and Care for Life-Shining People with Diabetes.”
会期
2026年5月21日(木)~23日(土)
※教育講演のオンデマンド配信を予定
会長
下村伊一郎(大阪大学大学院医学系研究科 内分泌・代謝内科学 教授)
開催地
大阪国際会議場
リーガロイヤルホテル大阪 ヴィニェット コレクション
その他、学術集会の詳細は、第69回日本糖尿病学会年次学術集会ホームページをご確認ください




