腹膜透析に見る循環器医療の新たな可能性

2025.01.24
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第30回日本腹膜透析医学会
シンポジウム4「心不全合併腎不全患者における腹膜透析の活用と展望」
発表日:2024年11月16日
演題:「利尿剤抵抗性心不全合併腎不全患者での腹膜透析の展望」
演者:村田智博 先生(三重大学医学部附属病院 腎臓内科)
共同演者:秋山言宇、大橋智貴、森睦貴、山脇正裕、齋木良介、小田圭子、鈴木康夫、片山鑑、土肥薫(各先生)

 近年、生活習慣の欧米化に伴う虚血性心疾患は増加し、高齢化により高血圧や弁膜症の患者も増加しており、これらの要因から心不全患者数が増えている。また、末期腎不全患者の高齢化も進んでおり、心不全を合併するケースが多く見られる。心不全の治療は、新規薬剤の導入、虚血性心疾患や弁膜症に対するカテーテル治療など、著しい進歩を遂げている。その一方で、利尿剤抵抗性を示す体液過剰症例では、管理が難しい場合がある。
 日本における急性・慢性心不全治療ガイドラインにおいて、慢性心不全に対する治療法として透析療法は明確に記載されていないものの、腎不全を合併する場合には治療の対象となり得る。
 このような背景のもと、三重大学医学部附属病院 腎臓内科の村田智博氏は、第30回日本腹膜透析医学会学術集会・総会(2024年11月16日(土)・17日(日)開催)にて、利尿剤抵抗性心不全合併腎不全患者への腹膜透析の有効性と課題について講演を行った。

心不全合併腎不全における「透析療法」の現在地

 日本循環器学会ガイドライン1)では、心不全のステージはA・B・C・Dの4つに分類されている。ステージC以降は心不全増悪の反復により徐々に治療抵抗性を示し、難治性・末期心不全となる。ステージC以降の薬物治療は、HFpEF(LVEF≧50%:左室駆出率が保たれた心不全)ではうっ血に対し「利尿薬」を、HFrEF(LVEF<40%:左室駆出率が低下した心不全)では「ACE阻害薬/ARB」「β遮断薬」「MRA」「SGLT2阻害薬」を基本薬とし、うっ血に対して「利尿薬」の併用が記載されている2)

 適切かつ十分な薬物治療をしたうえでの非薬物療法として「ICD/CRT(除細動器・心臓再同期療法)」「経皮的僧帽弁接合不全修復術」また「補助人工心臓」や「心臓移植」などが記載されているが、ここに「透析」についての記載はない。

 腎不全患者における心不全治療薬においては、CKD ステージ3では「β遮断薬」「ACE阻害薬」「ARB」「MRA」「ループ利尿薬」が推奨クラスⅠとなるが、CKD ステージ4-5になるとこれらの推奨クラスはⅡa・Ⅱbに下がる。

 非薬物療法である「血液濾過」「血液透析(HD)」「血液濾過透析」はクラスIIbの推奨となり、本文では「現時点では、限外濾過療法については、いかなる薬物治療によっても除水が困難もしくは不可能な症例で、本治療の禁忌がない症例にのみ適応があると考えられる」となっている1)

 また、腹膜透析(PD)が血液透析の欄にまとめて書かれていたり、限外濾過における禁忌として抗凝固療法が挙げられていたりする点などは、血液透析寄りの記載になっているように感じられる。

 ヨーロッパ(ESC guideline 20213))においては、進行した心不全の項で、利尿剤不応性の体液過剰である場合、末期腎不全の患者は腎代替療法が検討されるべき(should)と記載されている(推奨クラスⅡa)一方で、末期腎不全以外の利尿剤不応性の体液過剰である患者は、(透析をはじめとした)機械的除水が考慮される(may)という記載である(推奨クラスⅡb)。また本文中には、「機械的除水はよく行われる治療手段である」としつつも、「その効果は未解決である」と書かれている。

 アメリカ(2022 AHA/ACC/HFSA Guideline4))においては、機械的除水の方が利尿剤を増量していくより早期に体液の補正ができ、再入院を減らすといういくつかの報告がある。しかし、カテーテル挿入などの手技を伴うこともあり、今後、対象患者、除水の速度、vascular access、合併症予防、コストなど様々な点をさらに評価していかなければならないとしている。

 日本、ヨーロッパ、アメリカのいずれにしても、機械的除水は利尿剤不応性の心不全合併腎不全患者に対する治療法として考慮されるが、推奨度は高くない。その理由のひとつに考えられるのは、機械的除水である血液透析やECUM(体外限外濾過療法)にはシャントがあることによる心不全の増悪や、除水に伴う血圧低下などのリスクがあることだ。

循環器領域でのPD治療有用性の認知拡大が望まれる

 しかし、機械的除水のなかでも、PDについてはどうであろう。村田氏は次のように述べる。
 「PDには心不全管理において、複数の利点がある。PDは血行動態に対する影響が少なく、緩徐な除水が可能となるほか、心不全入院日数の減少、心機能の改善、ナトリウムふるい効果と血中ナトリウム濃度の改善、炎症性メディエーターの除去や有腹水症例における腹圧の軽減、カリウムの管理改善などのメリットがあるとされおり5)、私が行った検証においても、症例数は少ないもののいくつかの点で臨床的な有用性を実感できている」。

 以下は、2008年以降に村田氏が勤務する三重大学医学部附属病院で治療を行った心不全合併PD患者6例について、PDの有効性の検証を行ったものである。PDを導入した結果として、心筋収縮力(EF)、左房径(LAD)、左室心筋重量(LVMI)などは少数例での検証の限界で差は確認されなかったが、B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)は全例で改善が確認された。また、6例中2例はPD開始後、退院することなく死亡となったが、残り4例中3例において入院の回数もしくは日数の減少が確認され、1例は導入前後でほぼ変わりがない結果となった。

 心不全合併腎不全患者の治療としては、「①塩を入れない」「②塩を抜く」「③水を抜く」ことが原則となる。①は、減塩を主体とした食事制限、②は、ループ利尿薬などのナトリウム利尿薬、③は、トルパプタンといった水利尿薬による治療法が基本的なものとなる。

 このうち②、③について村田氏は、既に心不全において有用性が確立している「イコデキストリン透析液」による塩と水を取り除く効果6や「低ナトリウム腹膜透析液」によるナトリウムの除去7)、「高濃度ブドウ糖液」による自由水除去効果8)への期待を述べつつ、副作用や長期使用による生体適合性といった安全性の面を含め、さらなるデータ収集が望まれるとした。

 最後に村田氏は、以下のようにまとめ講演を終えた。
 「今後の課題として、まずは循環器医療の分野で、利尿剤抵抗性心不全に対するPDのメリットを認識してもらうことが重要である。日本では腹膜透析を受けている患者が極めて少ない中、なおかつ心不全合併、あるいは利尿剤抵抗性の患者も限られた人数である。治療法確立のためには、対象患者や治療目標、期待される結果を明確に設定したうえで、学会主導で良質なデータを収集し、有効性と安全性を発信していくことが必要と考えている」。

 PDは従来の治療法では対応が難しかった利尿剤抵抗性心不全合併腎不全患者に新たな希望をもたらす可能性がある。今後、研究の進展と制度の整備が進むことで、PDがより多くの患者に恩恵をもたらすことに期待したい。

文献

  • 急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)、日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン,2017
  • 2021年 JCS/JHFS ガイドライン フォーカスアップデート版 急性・慢性心不全診療
    日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン,2021
  • 2021 ESC Guidelines for the diagnosis and treatment of acute and chronic heart failure. Euro Heart J, Volume 42, Issue 36, p.3599–3726, 2021
  • 2022 AHA/ACC/HFSA Guideline for the Management of Heart Failure, Circulation, Volume 145, Number 18, 2022
  • Courivaud C et al Eur J Heart Fail, 14(5) 461-463, 2012
  • Savenkoff B et al. Nephrol Ther, 14(4) 201-206, 2018
  • Nakayama M et al. Perit Dial Int 44(2) 89-97, 2024
  • 山本忠司ら. 透析会誌37(12): 2069-2077, 2004
[ MIKOZAWA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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