1型糖尿病の最新情報 幹細胞由来膵島細胞移植によりインスリン依存から離脱 他【第84回米国糖尿病学会(ADA 2024)ダイジェスト3】

2024.07.03
 第84回米国糖尿病学会年次学術集会(ADA 2024)が、2024年6月21日~24日にオーランド コンベンション センターで開催された。発表された研究のダイジェストをご紹介する。

  1. CGM(持続血糖モニター)は糖尿病患者の格差を解消するために必要
  2. 吸入インスリンは1型糖尿病の治療で有望 半数以上は吸入インスリンの継続を希望
  3. 幹細胞由来の膵島細胞が1型糖尿病患者をインスリン依存から解放 移植を受けた患者全員がHbA1c 7.0%未満に低下 FORWARD試験
  4. 1型糖尿病の早期リスクモニタリングの必要性を指摘 1型糖尿病の自己抗体をもつ患者を早期ケア
  5. 加齢とともに発生するストレス反応がβ細胞の機能不全の共通因子
CGM(持続血糖モニター)は糖尿病患者の格差を解消するために必要
 CGM(持続血糖モニター)が、1型糖尿病患者のHbA1cを低下させ血糖管理を改善することが多く報告されており、米国糖尿病学会(ADA)は、1型糖尿病の診断後12ヵ月以内にCGMを使用することを推奨しているが、多様な集団に対する米国の医療保険の障壁が糖尿病の管理に影響を与えていることが浮き彫りになった。
 2015年2月~2021年9月にカリフォルニア大学サンフランシスコ校ベニオフ小児病院で1型糖尿病と診断された21歳までの小児270人を対象とした調査で、公的保険に加入している小児患者は診断後に平均6ヵ月以内にCGMを開始したが、民間保険に加入している小児患者は2ヵ月以内にCGMを開始したことが示された。診断後6ヵ月以内にCGMを開始した患者の平均HbA1cは7.5%だったが、それより遅く開始した患者では8.4%だった。
 「CGMを開始した時期により、患者のHbA1cに顕著な違いがあらわれた。CGMの開始と医療へのアクセスに対する障壁を解消するための政策と実践が必要だ」と、同大学小児内分泌科のMette K Borbjerg氏は述べている。

吸入インスリンは1型糖尿病の治療で有望 半数以上は吸入インスリンの継続を希望
 吸入インスリンの1型糖尿病成人での使用を調査したINHALE-3試験の結果が発表され、吸入インスリンが糖尿病管理を強化するインスリン製剤の代替となるソリューションとなる可能性が示された。
 米国の19の医療機関で17週間にわたり実際されたランダム化比較試験であるINHALE-3では、1型糖尿病の成人123人を対象に、吸入インスリン「アフレッザ(Afrezza)」とインスリン デグルデクによる通常治療の有効性を比較。
 その結果、吸入インスリン群は21%がHbA1cが0.5%以上改善したのに対し、インスリン標準治療群では改善は5%にとどまった。また、開始時にHbA1c値が7%以上であった患者のうち、吸入インスリン群では21%がHbA1c目標の7%未満を達成したのに対し、標準治療群では目標達成はなかった。
 また、吸入インスリンとインスリン デグルデクの併用に切り替えた患者のうち、HbA1cが0.5%以上改善したのは19%にとどまり、両者を組み合わせたインスリン療法がすべての患者に適しているわけではないことが示された。参加した患者の半数以上は、終了後も吸入インスリンの継続を希望した。
 「インスリン療法は現在、1日に複数回の頻回注射やインスリンポンプによる投与が行われているが、一部の患者には、利便性や使いやすさ、効果的な血糖管理のための新しいソリューションが必要」と、ワシントン大学糖尿病研究所のIrl B. Hirsch氏は述べている。

幹細胞由来の膵島細胞が1型糖尿病患者をインスリン依存から解放 移植を受けた患者全員がHbA1c 7.0%未満に低下 FORWARD試験
 幹細胞由来の膵島細胞を増殖させた後に点滴により移植する幹細胞由来膵島細胞VX-880の第1/2相試験であるFORWARD臨床試験から得られた新しいデータが発表された。VX-880により、1型糖尿病患者のインスリン投与の必要性が軽減または解消され、膵島の生理的機能と血糖管理を回復できることが示された。
 1型糖尿病で低血糖の自覚障害があり、1年間に2回以上の重症低血糖イベントを経験している成人12人(平均年齢 44歳、平均HbA1c 7.8%)のうち、VX-880の全量を1回点滴で投与された患者は、膵島細胞の移植と内因性インスリン分泌(Cペプチド)が確認され、重症の低血糖イベントがなくなり、インスリンの投与が減るか完全になくなり、全員のHbA1cが7.0%未満に低下し、血糖値が目標範囲内におさまった時間が70%超に増加した。
 180日目の追跡期間を完了した10人の参加者のうち、7人は外因性インスリンを使用しておらず、2人はインスリン使用量が約70%減少するなど、インスリン非依存という副次評価項目も達成した。  「VX-880の開発により、1型糖尿病の治療に革命を起こし、外因性インスリン投与以外の代替ソリューションを提供できるようになる可能性がある。この治療法が1型糖尿病治療の極めて重要な進歩となることを期待している」と、シカゴ大学外科および膵臓・膵島移植プログラムのディレクターであるPiotr Witkowski教授は述べている。
 1型糖尿病や膵臓手術後でインスリン治療が困難で血糖管理が不安定になっている患者、重度の低血糖の頻度が高い患者などに、膵島移植は有用だが、ドナー不足が深刻な課題になっている。

1型糖尿病の早期リスクモニタリングの必要性を指摘 1型糖尿病の自己抗体をもつ患者を早期ケア
 1型糖尿病の初期段階での自己抗体陽性者のモニタリングに関するガイドラインが提示された。国際的なコンセンサスにもとづき1型糖尿病の早期発見の利点が強調され、1型糖尿病の自己抗体をもつ患者の早期段階のケアの改善や、1型糖尿病の進行とリスクを予測するうえでのCGM(持続血糖モニター)指標の利点、1型糖尿病の進行の遅延、教育的および心理社会的支援の必要性などが指摘された。
 1型糖尿病のリスクと進行を予測するマーカー(膵島自己抗体(IAb)タイプS陽性)をもつ患者から収集された指標から開発されたCGMモデルは、1型糖尿病の診断と進行を予測するのに有用であり、2年以内に1型糖尿病を発症する確率は、低、中、高リスクのグループでそれぞれ4%、17%、51%であることが示された。
 「1型糖尿病の糖尿病性ケトアシドーシスなどの合併症のリスクを減らすために、早期スクリーニングとリスク監視が重要になっている」と、米国糖尿病学会(ADA)の最高科学・医療責任者であるRobert Gabbay氏は指摘している。
 米国糖尿病学会(ADA)は、35歳以上の成人および35歳未満の過体重で追加のリスク要因がある成人に対して、すべてのタイプの糖尿病のスクリーニングを3年ごとに実施することを推奨しているが、米国の成人の22.8%は1型および2型糖尿病が未診断になっているとしている。

加齢とともに発生するストレス反応がβ細胞の機能不全の共通因子
 1型糖尿病と2型糖尿病でのβ細胞の機能不全に共通する因子として、加齢とともに発生するストレス反応がある。β細胞の機能を損なう慢性的なストレス反応を制御するエピジェネティック調節分子を発見したと、複数の病院と研究所からなる非営利組織であるCity of Hopeが発表した。
 PET画像を使用して、体内のβ細胞のインスリン分泌のバイオマーカーである亜鉛イオン(Zn2+)を効率的に検出できることを実証。City of Hopeは、細胞のエネルギー源であるミトコンドリアの機能を制御する、インスリン分泌のマスター調節因子であるタンパク質Mycも特定している。

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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