GLP-1受容体作動薬など糖尿病研究のブレイクスルー【第84回米国糖尿病学会(ADA 2024)ダイジェスト1】

2024.06.27
 第84回米国糖尿病学会年次学術集会(ADA 2024)が、2024年6月21日~24日にオーランド コンベンション センターで開催された。発表された研究のダイジェストをご紹介する。

  1. GLP-1受容体作動薬が2型糖尿病および腎臓病患者の腎臓病イベントを24%低減
  2. GIP/GLP-1受容体作動薬が睡眠時無呼吸症候群と心血管疾患を大幅に改善
  3. 女性はGLP-1受容体作動薬による体重減少は大きいが心不全の改善は男女で同等
  4. メトホルミンとα-グルコシダーゼ阻害薬が新型コロナに罹患した2型糖尿病患者の転帰を改善
  5. 高脂血症治療薬のフェノフィブラートが糖尿病網膜症の進行を大幅に抑制
GLP-1受容体作動薬が2型糖尿病および腎臓病患者の腎臓病イベントを24%低減
 GLP-1受容体作動薬(セマグルチド)を用いた初の腎臓アウトカムに特化した試験であるFLOW試験の結果が発表され、セマグルチドが2型糖尿病および慢性腎臓病の患者の主要な腎臓疾患イベントおよび心血管アウトカムのリスクを大幅に低減することが示された。SGLT2阻害薬との併用療法の潜在的な利点も示された。
 この二重盲検ランダム化プラセボ対照国際試験には3,533人が登録され、追跡期間の中央値は3.4年だった。腎不全、腎機能の著しい低下、腎臓または心血管系の原因による死亡など、主要な腎臓疾患の予防を目的とした標準治療の補助として、セマグルチド 1.0mgを週1回投与する群とプラセボ群を比較した。
 その結果、セマグルチド群は、複合主要評価項目では腎臓転帰および心血管・腎臓の原因による死亡を含むリスクが24%減少し、さらに副次評価項目では推算糸球体濾過量(eGFR)の年間低下率が1.16mL/min/1.73m²/年遅延し、主要な心血管イベントが18%減少し、全死因死亡リスクが20%減少するなど、大幅な改善が示された。
Effects of Semaglutide on Chronic Kidney Disease in Patients with Type 2 Diabetes (NEJM 2024年5月)

GIP/GLP-1受容体作動薬が睡眠時無呼吸症候群と心血管疾患を大幅に改善
 GIP/GLP-1受容体作動薬(チルゼパチド)による治療は、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)と、それに関連する心血管疾患(CV)の転帰を大幅に改善することが、SURMOUNT-OSA試験の2つのランダム化二重盲検プラセボ対照試験で示された。
 試験の対象となったのは、中等度から重度のOSAおよび肥満症の患者469人で、試験1にはCPAP療法が使用できないか使用を希望しない患者が登録され、試験2にはベースラインでCPAP療法を受けている患者が登録された。
 52週の無呼吸低呼吸指数(AHI)の変化は、チルゼパチド群では、試験1でマイナス27.4イベント/時間、試験2でマイナス30.4イベント/時間、プラセボ群ではそれぞれマイナス4.8イベント/時間およびマイナス6.0イベント/時間となり、チルゼパチド群で大幅に改善した。
 CVリスク要因の注目すべき変化として、体重の減少(試験1でマイナス18%、試験2でマイナス20%)と収縮期血圧の低下(試験1でマイナス9.6mmHg、試験2でマイナス7.6mmHg)が示された。
 OSAは、世界で最大10億人に影響を及ぼし、米国だけでも3,000万人以上の成人に影響を及ぼしており、OSA患者の約70%が肥満とみられている。

女性はGLP-1受容体作動薬による体重減少は大きいが心不全の改善は男女で同等
 GLP-1受容体作動薬(セマグルチド)による体重減少は、男性では平均マイナス7.2%なのに対し、女性ではマイナス9.6%で、女性の方が減量効果は高いが、肥満関連心不全(HF)の症状の改善は男女間で同等であり、セマグルチドのHFに対する効果は、体重減少とは部分的に関連がない可能性があることが、STEP-HFpEF試験(STEP-HFpEF試験とSTEP-HFpEF DM試験で構成)の二次分析で示唆された。
 収縮機能が保たれたHF(HFpEF)のある患者1,145人(女性 570人)を対象とした52週間の介入により、週1回投与のセマグルチド2.4mgの投与プラセボ投与を比較。女性ではベースラインでは、左室駆出率が高く、症状や身体的制約がより重く、ベースラインでの炎症レベルも高かったが、セマグルチド投与によるBMIの減少は男性より高かったにもかかわらず、血糖降下薬と利尿薬の使用率は男性と同程度で、心房細動は少なかった。
 なお、男女ともにセマグルチド投与により、HFの症状、身体機能の制限、運動機能の顕著な改善が示された。「男性ではBMIの上昇をともなう左房ミオパチーHFpEFの可能性のある患者が多く、女性ではHFpEFの典型的な肥満表現型を示す患者が多かった」と、マウントサイナイ医科大学の心臓専門医であり、NHLBI心臓胸部外科ネットワークの心不全研究ディレクターである Anuradha Lala氏は指摘している。
Efficacy of Semaglutide by Sex in Obesity-Related Heart Failure With Preserved Ejection Fraction: STEP-HFpEF Trials (Journal of the American College of Cardiology 2024年6月)

メトホルミンとα-グルコシダーゼ阻害薬が新型コロナに罹患した2型糖尿病患者の転帰を改善
 メトホルミンとα-グルコシダーゼ阻害薬(AGI)の投与は、新型コロナ(COVID-19)に罹患した2型糖尿病患者の転帰を改善する可能性があり、潜在的な利点があることが、中国の華中科技大学の調査で示された。
 中国湖北省の138の病院の2019年12月~2021年8月の、COVID-19と2型糖尿病に罹患した患者4,922人の患者のデータを解析した結果、メトホルミンとAGIを投与した患者では、全死亡率の低下と関連していた[メトホルミンでは調整HR 0.41、95%CI 0.24~0.71、p=0.001、AGIでは同 0.53、同 0.35~0.80、p=0.002]。これに対し、インスリンの投与は全死亡率の上昇と関連していた[同 HR 2.07、同 1.61~2.67、p <0.001]。
 「今回の研究は因果関係を証明することはできないものの、2型糖尿病を患うCOVID-19患者の血糖管理ではインスリン治療を優先するというこれまでの勧告に疑問を呈するものだ」と、中国国立情報学研究所のDao Wen Wang氏は指摘している。
Effects of different treatments for type 2 diabetes mellitus on mortality of coronavirus disease from 2019 to 2021 in China: a multi-institutional retrospective study (Molecular Biomedicine 2024年5月)

高脂血症治療薬のフェノフィブラートが糖尿病網膜症の進行を大幅に抑制
 フェノフィブラートは、核内受容体(PPARα)を活性化して、脂質代謝を総合的に改善し、血中のトリグリセリドやコレステロールを低下させ、HDLコレステロールを増加させる。そのフェノフィブラートが、糖尿病網膜症の進行を大幅に抑制させることが、スコットランドで実施された非増殖性網膜症イベント低下(LENS)試験で示された。
 同試験は、早期糖尿病網膜症の転帰に対する同剤の効果を検証するために設計された初の大規模ランダム化比較試験。糖尿病網膜症あるいは黄斑症の初期段階にある成人1,151人が登録され、フェノフィブラート145mgあるいはプラセボが投与された。
 その結果、フェノフィブラート群ではプラセボ群に比較し、4年間で眼疾患の進行が27%減少し、統計的に有意差が付いた[22.7% 対 29.2%、p=0.006]。同剤は、網膜症の進行と黄斑浮腫の発症リスクも減少した。
 「糖尿病網膜症は依然として視力喪失の主な原因であり、その進行を抑えるためにシンプルで実行可能な戦略が必要とされている。試験結果は、フェノフィブラートが有益な追加効果をもたらす可能性を示唆している」と、オックスフォード ポピュレーション・ヘルスのDavid Preiss氏は述べている。

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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