プライマリ・ケア医と専門医の連携が腹膜透析診療の未来を切り拓く

2024.12.20

第30回日本腹膜透析医学会学術集会・総会
合同シンポジウム1(日本プライマリ・ケア連合学会)
「プライマリ・ケア医が腹膜透析に取り組むために ~次の一手を考える~」
発表日:2024年11月17日
演題:「プライマリケア医との腹膜透析併診の壁はなんだ!?」
演者:佐藤克哉 先生(猿払村国民健康保険病院 院長)

 透析患者の高齢化や医師の地域偏在により、地域医療における腹膜透析(PD)診療の重要性はますます高まっている。第30回日本腹膜透析医学会学術集会・総会(2024年11月16日・17日開催)にて、猿払村国民健康保険病院院長の佐藤克哉氏は、過疎地域におけるPD診療の実状と課題、プライマリ・ケア医と専門医の連携の重要性について講演した。

過疎地域での腹膜透析併診におけるプライマリ・ケア医の役割

 猿払村は日本最北端の宗谷地域に位置し、2025年には人口約2,500人のうち高齢者が3割を占めると見込まれる過疎地域である1)。冬季には積雪で国道が閉鎖されることもあり、気候環境も相まって医療アクセスが極めて厳しい地域だ。その猿払村で佐藤氏が院長を務める猿払村国民健康保険病院は村内唯一の病院であり、佐藤氏を含む医師2名体制で外来1日50人、入院患者10人、訪問診療10人に対応している。

 佐藤氏は医師10年目、プライマリ・ケア医として猿払村でPD診療を開始して4年。現在PD患者4名の診療を行っており、うち3名を旭川市の腎臓内科医と、1名を稚内市の外科医(腎臓内科医不在のため)と併診している。日常診療で定期薬の処方、電解質や貧血、体重、排便などの評価、カテーテル出口部の評価を毎月行っているほか、レントゲン撮影によるカテーテルの位置確認、6か月ごとの接続チューブ交換、腹膜炎を起こした際などの緊急時の処置も随時対応しており、佐藤氏は「近くに腎臓内科医がいない分、プライマリ・ケア医として可能な限りのケアを実践している」と話す。

 こうした併診や包括的ケアの取り組みにより患者は地元で診療を受けられるようになり、これまで雨の日も風の日も雪の日も片道3時間半かけて毎月旭川市まで通院していた患者の負担が大幅に軽減された。
 また、近隣の自治体からPD、HDの患者が多数受診に訪れる旭川の専門医にとっても、プライマリ・ケア医に安定時の管理を任せることで診察が年1~2回で済むようになったり、緊急時も初期対応された状態での搬送となることから、負担の軽減につながっていると考えられる。

プライマリ・ケア医が直面するPD診療開始時の4つのハードル

 このようにプライマリ・ケア医がPD診療を行うことは患者や専門医にメリットが大きい一方で、「プライマリ・ケア医がPD診療を始めることにはハードルがある」と佐藤氏は語る。実状として、腹膜透析連携認定医として認定された114名中、かかりつけ医は約30名と少ない。

 佐藤氏は自身のこれまでを振り返り、「PD診療を始めて4年、ものすごく難しいものではないが、まだまだトラブルシューティングの経験が必要。しかしPD診療を始めた後よりも、始める際のハードルが高かったと感じている」と語る。佐藤氏がPD診療を開始したきっかけは、初期研修で指導をした腎臓内科医の紹介であり、そこから勉強を始めたという。

 PD診療を始める際に直面するハードルとして、「1.PD患者に対する日常診療への不安(何をしたらよいのかわからない)」「2.機器対応への不安(機器トラブルで患者の家族から問い合わせが入ることもある)」「3.トラブルシューティングの経験不足」「4.いざというときに頼れる存在の不足」の4点を挙げた。

 1~3の解決においては、まずプライマリ・ケア医に向けたPD診療の知識の普及が重要であり、「腹膜透析連携認定医取得の推進」や、「より具体的で実践的で、わかりやすいPD診療の学習資料作成と学習機会の確保」が必要であるとした。
 学習資料については、カルシウム、リン、intact-PTHの目標値などの基本的なことだけでなく、それらを測定する頻度や、患者を診るにあたり起こり得る細かな事象の例と対処法なども記されているものが求められる。

「頼れる存在」と「専門医による具体的指示」がPD診療の壁を下げる

 そして4つ目にあげた「いざというときに頼れる存在の不足」が、プライマリ・ケア医がPD診療を開始する際の最も大きいハードルであると佐藤氏は分析する。初めの3つに関しては、学習によりある程度乗り越えることができるが、PD診療未経験の医師にとって、いざというときの不安はあまりに大きい。

 緊急時に相談できる専門医の存在は大きな心理的支えとなり、PD診療開始の壁を下げる。そのため、患者を紹介する専門医、併診を行う専門医は、プライマリ・ケア医と丁寧な連携を行い、いざというときに気がねなく相談ができる関係性を築いてほしい。専門医からの「何かあれば相談してね」の一言は、プライマリ・ケア医の安心感を生む非常に大きな要素となる。

 また、専門医がプライマリ・ケア医に患者を紹介する際には、「その患者に対してプライマリ・ケア医がするべきこと」をできるだけ具体的に明示することが望ましい。たとえば、受診頻度、検査項目や検査頻度、検査データを反映した定期薬の調整、専門医への報告頻度などの指示があるとよい。
 これに関して、佐藤氏が猿払村で初めてPD診療を導入した際のエピソードが語られた。紹介元の専門医が猿払村国民健康保険病院を訪れ、医師や看護師に対してレクチャーを行い、佐藤氏の病院で行うべき診療の具体的な指示を受けたことにより、とてもスムーズに診療を開始できたという。

 講演後の質疑応答では「管理料については専門医との間でどのように取り決めているのか」という質問がなされた。これに対して佐藤氏は、「我々の病院では専門医が受診した月は専門医側が、専門医を受診しない月はプライマリ・ケア医側が管理料を取るというルールが適用されている」と回答した。

 猿払村国民健康保険病院の取り組みは、専門医が少ない地域でプライマリ・ケア医がPD診療を実践できることを示した重要な事例であり、医療アクセスの改善とそれに伴う患者の生活の質向上に加え、地域医療全体の効率化にも貢献している。
 今後、専門医とプライマリ・ケア医が協力して具体的な支援体制を構築し、全国でPD診療が広まることが期待される。

文献

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