自律神経障害 (2)

  • 後藤 由夫 (東北大学名誉教授、東北厚生年金病院名誉院長)
2015.10.04
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1. 消化管運動障害

 糖尿病に罹病してから数年以上も経過してコントロール不良の状態が続くと、胃壁の緊張がなくなって、X線透視撮影を行うと前日あるいは前々日に食べたものが胃から排出されずに残留しているのをみることがある。この状態が糖尿病性胃麻痺といわれるもので、時には胃石ができることもあるといわれる。胃の排出機能の障害は治療の妨げにもなる。例えば食後15分位すると血糖が上昇し30分以後には大幅に上昇すると予測してインスリンなどを注射する場合に、胃麻痺があれば血糖が上昇しないので低血糖を起こしてしまうことになる。したがって胃の排出機能が正常か否かということは重要な情報である。このほかに下部消化管の運動障害では便秘を来たすことになるなど日常生活への影響が多い。

1) 食道運動
 食道運動をみるために、本郷道夫博士ら(当時、現教授)は食道にopen tip catheterを入れて上、中、下部より水を注入して嚥下波を記録した。健常と比べると図1のような多峰性収縮波や自発性収縮波の出現が有意に多く、No.44 に紹介した心拍変動試験異常例では正常例に比べて遠位と中位の収縮波が低いのがみられた。これらにより糖尿病に特徴的なのは多峰性収縮波の出現といえる。
 中目千之博士(現、鶴岡市、中目内科胃腸科院長)は食道下端括約圧がテトラガストリンを注射すると上昇することを研究していたが、糖尿病の人の場合にはテトラガストリンによる圧の上昇が軽度で、特に神経障害のある人の場合は反対が悪いことを認めた。
図1 糖尿病患者の食道嚥下波
図2 99mTc試験食摂取後のガンマカメラ像

健常者(左)では120分で胃に残留しているものは少なく大部分が小腸に移行し、150分では胃には痕跡程度、胃麻痺を伴う右の症例では150分後も最初とあまり変わらない。
2) 胃排出機能
 胃は摂取した食物を保留し、蛋白質などの消化を行いながら、十二指腸に排出する。この排出機能が著しく損なわれると糖尿病胃麻痺の状態になる。胃の排出機能を検査する標準的な方法は99mTc標識試験食(8枚切り食パン2枚、牛乳200mL、卵2個とバター8gで作ったオムレツ、調味料少々、590kcal)をとらせ、ガンマカメラで胃から食物が消失していく速度を定量的に求める法である。実際のガンマカメラ像の胃の面積を100とし、それが次第に縮小していく像から(図2の左側は健常者、右は糖尿病者)排出障害の有無を判定する。
 図3の斜線の部分が非糖尿病者の排出能であり、白丸が自律神経障害のある人達の平均、黒丸は自律神経障害のない人達の平均である。自律神経障害のない人ではむしろ胃排出能が亢進していることがうかがわれる。
図3 糖尿病患者の胃排出能
 胃排出機能を測定する簡便法としてはアセトアミノフエンを服用させ、45分後に採血して血液中のアセトアミノフエン濃度を測定し、濃度が高ければ排出機能がよく、低ければ胃排

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