DPP-4阻害薬関連水疱性類天疱瘡に対する新規診断法を開発 北海道大学

水疱性類天疱瘡(BP)は高齢者に多い自己免疫性水疱症であり、厚生労働省の指定難病に含まれている。BPでは、表⽪と真⽪の境界にある基底膜上の接着因⼦の主要構成タンパク「17型コラーゲン(BP180)」に対する自己抗体が生じることで、表皮と真皮間の接着が破壊されてしまい、全身の皮膚に水疱や紅斑が生じる。一般的にBPはBP180のNC16A領域に対する自己抗体を生じるため、BPの診断ではこのNC16A領域に対する自己抗体を測定するELISA(酵素結合免疫吸着法)が広く用いられている。
近年、⽇本で最も多く使⽤される2型糖尿病治療薬であるDPP-4阻害薬を服用中の患者で、BPの発症頻度が高いことが報告されている。このDPP-4阻害薬関連BPでは、通常のBPと⽐べて炎症反応が乏しく、抗NC16A抗体が陰性となる症例も多いため、診断がしばしば遅れてしまう。これまでの研究では、特異的な診断法が存在せず、早期診断や発症の予防が課題であった。
そこで研究グループは、5つに分割したBP180の細胞外領域を、類似構造を持つ13型コラーゲンにそれぞれ挿入したリコンビナントタンパクを作成。それらのリコンビナントタンパクを用いたELISAで、DPP-4阻害薬関連BP患者⾎清の反応部位を網羅的に解析した。加えて、HLAクラスIIペプチド結合予測と患者のHLA型解析を組み合わせ、エピトープの免疫遺伝的背景も検討した。
その結果、DPP-4阻害薬関連BP患者が産生する自己抗体は、従来診断に⽤いられるNC16A領域ではなく、BP180の細胞外領域のNC7-Col4領域に位置するエピトープを主として標的としていることが明らかになった。このBP180を用いた新規ELISAにより、NC7-Col4エピトープを持つDPP-4阻害薬関連BPの自己抗体を高感度かつ高特異的に検出できることを示し、DPP-4阻害薬関連BPと通常型BPを区別できる診断法を開発した。
また、HLAのエピトープ解析によって、DPP-4阻害薬関連BPと強く関連しているとされるHLA-DQA1*05:05/DQB1*03:01ハプロタイプでは、NC7-Col4領域に最も⾼い結合親和性を⽰すことが予測された部位が含まれていたことから、特定のHLAクラスII分⼦が本症の⾃⼰免疫応答に寄与している可能性が⽰された。
さらに、DPP-4阻害薬を内服中の糖尿病患者においても、本ELISAで抗NC7‒Col4抗体が検出される症例がみられ、⼀部の患者はBP発症前からすでにこの⾃⼰抗体を保有している可能性が示された。
本研究は、北海道大学大学院医学研究院の眞井翔子氏、眞井洋輔氏、氏家英之氏らの研究グループによって実施され、2025年8月2日付でScience Advances誌に掲載された。同研究グループは「新ELISAはNC16A陰性のDPP-4阻害薬関連BP患者の早期診断を可能にし、その結果により通常のBPとの見分けを付けることが可能になった。そのため治療選択の際により病態に適した治療法を選ぶことが可能である。抗体モニタリングによる事前予知検査として、リスクの⾼い糖尿病患者への事前スクリーニング応⽤も期待される」としている。