記録することで得られる気づきが子どもたちの「ひとりだち」を促す ~小児・思春期におけるインスリン注射記録の課題とスマートインスリンペンの有用性を検討~

2021.09.30
 2021年6月、わが国初のスマートインスリンペン(「ノボペン® 6」「ノボペン エコー® プラス」)が承認された。インスリン投与データが自動的に記録され、糖尿病治療の個別化に必要な情報が得られることから、医療従事者との対話の質の向上が期待される。
 スマートインスリンペン発売を来年に控え、自身も1型糖尿病患者である南昌江内科クリニック院長の南昌江先生に、特に小児・思春期の患者におけるインスリン注射の記録の実際と、スマートインスリンペンの有用性についてお話を伺った。
提供:ノボ ノルディスク ファーマ株式会社 JP21DH00008
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南昌江内科クリニック
院長 南 昌江先生

1988年福岡大学医学部卒業後、東京女子医科大学付属病院内科入局。九州大学第二内科、九州厚生年金病院、福岡赤十字病院を経て1998年に南昌江内科クリニックを開業。第26回小児・思春期糖尿病学会(2021年6月20日開催)では会長を務めた。14歳で1型糖尿病を発症。著書に「わたし糖尿病なの」(南昌江・南加都子 著・医歯薬出版)など。

――血糖自己測定の結果だけでなく、インスリン注射の時間や単位数を記録することは、患者さん、特に小児・思春期の患者さんにとってどのようなベネフィットがあるとお考えになりますか。

 例えば、過去にシックデイの時にインスリンの調整はどうしたか、記録があれば「あ、前回と同じようにすればいいな」と自分で判断できます。当院ではこのように、前回の経験を活かすという意味で「記録しておくと後々役に立ちますよ」と患者さんにお話ししています。最終目標は、記録をつけなくても「血糖値を測定して自分で判断し、インスリンを打つ」ということが、歯磨きをするように普通にできるようになることです。記録はそこに至るまでのツール、血糖認識トレーニングのようなものと言えるでしょうか。患者さんは治療期間が長くなればなるほどインスリン注射の記録はつけなくなりますが、記録がなくても自分で対応できるようになったということなら、それはそれで良いことだと思います。

――小児・思春期の患者さんのインスリン注射の記録の状況はいかがでしょうか。

 一般的に10歳未満の小児や幼児では、親(保護者)がインスリンの量を決めますが、いずれは本人が自分で考え判断できるよう、親と本人との会話が必要です。その際記録があれば、子どもも理解しやすくなります。当院では、小学校2~3年生になったら注射やインスリン量は自分で記録するよう指導しています。数字が書ける年齢であれば記録は可能です。小学校1~2年生のうちから「夏休みの宿題に自分で書いてみようか」「できれば血糖値だけでなくインスリンの量も書いてね」などと声をかけており、できる子は1年生の時からきちんと書いてきます。もちろん、できない子・しない子もいます。そのなかでも、親が全部やってしまうケースは難しいです。子どもが成長してもなお、親が代わりにやってしまえば、本人が自分で考える習慣がなかなか定着しません。

――多感な思春期の患者さんの場合、記録を先生に見られることを嫌がったり、嘘の記録をするケースも考えられますが、そうした患者さんにはどのように対応すればいいでしょうか。

 本人の心理状態を読み取ってあげることが大切だと思います。「なんで自分だけがこんな病気になったんだろう」「なんで注射しないといけないんだろう」「なんでこんな面倒くさい血糖測定をしなきゃいけないんだろう」と思うと、すべてが面倒になってしまう。周りの友達は何も考えずに食べたり飲んだりしているわけですから、普通の反応だと思います。数は少ないですが、注射していないのに「した」と書く子どももいます。似たような数字が並んだり、血糖値が高く、明らかに打っていないのに記録だけはあるというケースがそうです。こうした患者さんの背景には「病気を受け入れられない」心理があると考えています。患者さんによっては、「この数字は本当じゃないな」と思っても、しばらく黙って見ていることもあります。嘘を書かないといけない本人の心理状態をこちらが読み取ってあげないといけないとも思います。「データと違うよ?」とは言えませんね。行動の裏にあるものを推し量り、皆でフォローしながら治療を進めるようにしています。

【参考】糖尿病ネットワークアンケート
Q. ご自身で、インスリン注射した時間や単位を記録していますか? n=485
Q. ご自身でインスリン注射の記録をつけることを、面倒に感じますか? n=385

――先日、日本でも「スマートインスリンペン」が薬事承認されました。スマートインスリンペンは、インスリンの投与情報が自動的に記録され、そのデータを医療者と共有することができます。こうしたインスリン管理デバイスの登場は、小児・思春期の患者さんの治療にどのように貢献するとお考えになりますか?

 患者さんの正しい状態を把握するうえで有用なツールだと思います。例えば、HbA1cがずっと高い患者さんは、やはり注射していないことが多いのですが、聞いても本当のことを言わなかったりします。また、うっかり打ち忘れる子どももいますし、これが高齢者になると本当に忘れてしまったりします。こうしたケースでも「打っていないからHbA1cが高い」ことを、医療者や家族が確認できます。私自身、インスリンペンを使っていた頃は(現在はインスリンポンプを使用)、打ったかどうか忘れてしまい、一緒に食事に行った友人に確認することがよくありました。
 思春期はインスリン量をどんどん増やしていく時期です。医師は血糖コントロールに応じてインスリン量を調整しますが、実際にはインスリンを打っていなかったり、インスリンボール(皮下の堅い固まり)に打っていたりすると、指示量ばかりが増えることになります。その状態で、たまに指示通りの量を打てば、一気に低血糖を起こしかねません。つまり治療と現実が、ちぐはぐになってしまうのです。それだけに「正しい状態が把握できる」ことは大きな意義があると考えます。

――スマートインスリンペンは、そのような多感な思春期の患者さんにも受け入れられるでしょうか? 患者さんに提案する際に気をつけたいことなどありますか?

 「大人に監視されている」など、監視カメラのようなものと感じれば、拒否するかもしれません。スマートインスリンペンでも従来の記録方法でも、記録をつけることが「正しいインスリン量を見つけるために役立つツールである」ことを説明し、理解をはかる必要があるのではないでしょうか。
 医学の進歩により、今やインスリン治療には多くの選択肢があります。しかし、CGMやFGMを使わなくても血糖自己測定で十分にコントロールができる患者さんや、インスリンポンプを使わなくてもインスリンペンでいいという患者さんもいらっしゃいます。最終的に治療を選ぶのは患者さん自身です。スマートインスリンペンの場合も、決して医療者が押し付けず、あくまでも治療の1つの選択肢として提示したいですね。患者さんが「便利そうだから使ってみたい」と言えば取り入れてもいい。幸い、従来品もスマートインスリンペンも患者さんの医療費負担は同じです。その意味で、患者さんも選びやすいのではないでしょうか。
*CGMやFGM:皮下のグルコース値を持続的に測定する機器のこと。CGM(Continuous Glucose Monitoring)、FGM(Flash Glucose Monitoring)

日本初のスマートインスリンペン

ノボ ノルディスク ファーマが発売を予定している「ノボペン® 6」と「ノボペン エコー® プラス」。患者さんがインスリンを注射するたびに、インスリンの投与情報を自動的に記録する。

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写真左:「ノボペン® 6」最大投与量60単位 1単位刻みで投与量を設定可
写真右:「ノボペン エコー® プラス」最大投与量30単位 0.5単位刻みで投与量を設定可

・直近800回の注入ボタンを押した履歴を本体内部に自動記録
・投与履歴をNFC対応のスマートフォンアプリに無線転送可能
・「最後に注入ボタンを押した単位および経過時間」を表示可能
・バッテリー交換、充電の必要なし
・耐用年数5年

【販売名/一般名称/承認番号】
ノボペン® 6/インスリンペン型注入器/30300BZX00174000
ノボペン エコー® プラス/インスリンペン型注入器/30300BZX00175000
本製品の詳細については、添付文書をご参照ください。

【参考】糖尿病ネットワークアンケート

Q.ご自身で、インスリン注射した時間や単位を記録していますか? n=485
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Q.( 記録をつけている方への質問)ご自身でインスリン注射の記録をつけることを、面倒に感じますか? n=305
q03

「糖尿病ネットワーク」がインスリン注射による治療を受けている糖尿病患者さんにアンケート調査を実施したところ、全体の約6割以上の患者さんがインスリン注射の記録をしていると回答した。本調査では10歳未満~80代以上と幅広い年齢の患者さんが回答しており、年齢や病歴などによっても記録状況は大きく異なると考えられる。皆さんの臨床現場ではいかがだろうか?(編集部)

【調査概要】
実施:2019年12月 調査方法:インターネット調査
対象:インスリン注射による治療を受けている糖尿病患者さん 485名
共催:糖尿病ネットワーク、ノボ ノルディスク ファーマ株式会社

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