SGLT2阻害薬を使用している2型糖尿病患者でケトアシドーシスのリスクが3倍に上昇 41万例超を調査

2020.07.30
 SGLT2阻害薬が2型糖尿病患者の一部で、糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)のリスクを3倍に高めるという、41万7,514例対象のコホート研究の結果が「Annals of Internal Medicine」に7月28日に掲載された。

SGLT2阻害薬はDPP-4阻害薬に比べDKAリスクを3倍に上昇

 SGLT2阻害薬は2型糖尿病の比較的新しいクラスの薬物であり、心血管合併症の中でも心不全、腎不全、心筋梗塞のリスクを低減することが報告されている。しかし、こうした利点があるのにかかわらず、糖尿病ケトアシドーシスを引き起こす可能性があり、FDAは2015年に一部のSGLT2阻害薬について警告を発令している。

 ケトアシドーシスでは血液を酸性に傾けるケトン体が体内で高濃度に生成されるが、SGLT2阻害薬は脂質の酸化とケトン体形成を促し、ケトアシドーシスの病態生理学的メカニズムを強める可能性があるとしている。

 カナダのマギル大学臨床疫学センターなどの研究グループは、カナダ政府から資金提供を受け実施されたカナダ薬物効果観測研究ネットワーク(CNODES)で、カナダの7つの州と電子ヘルスケアデータベースのデータを使用して2013年1月~2018年6月に、SGLT2阻害薬の新規患者20万8,757例と同数のDPP-4阻害薬患者を対象に遡及的コホート研究を実施した。

 血糖降下薬のよる薬物療法、過去365日間のGLP-1受容体作動薬の使用、SGLT2阻害薬の開始から120日以内のDPP-4阻害薬の処方などの条件付き傾向スコア(TCPS)を一致し、年齢、性別、糖尿病罹病期間などの調整も考慮した。登録前年にDKAのために入院または救急医療を受診した患者は除外された。

 分子固有の推定値は、データベースで利用可能な3つのSGLT2阻害薬に対して決定し、カナグリフロジン(8万8,287例)、ダパグリフロジン(6万4,076例)、エンパグリフロジン(5万6,394例)に振り分けた。その後、コホート研究に参加する1年以内前に、年齢、性別、インスリン療法によって患者を層別化した。

 その結果、主に次のことが明らかになった――。

・ 37万454人年のフォローアップ中に521例の患者がDKAで入院した(1,000人年あたりの発生率は1.40[95%信頼区間 CI 1.29-1.53]。

・ SGLT2阻害薬は、DPP-4阻害薬と比較して、DKAのリスクの増加と関連していた(1,000人年あたりの発生率は2.03[CI 1.83-2.25]対0.75[CI 0.63-0.89]、ハザード比[HR]は2.85[CI 1.99-4.08])。

・ 分子固有のHRは、ダパグリフロジンでは1.86(CI 1.11-3.10)、エンパグリフロジンでは2.52(CI 1.23-5.14)、カナグリフロジンでは3.58(CI 2.13-6.03)だった。

・ 年齢と性別はSGLT2阻害薬によるDKAリスクと関連していなかった。

・ SGLT2阻害薬に関連するDKAのリスクは、インスリン既往がない患者(HR 3.96[CI 2.74-5.72])の方が、インスリン既往がある患者(HR 2.24 [CI 1.40-3.61])よりも高かった。

初期段階からのSGLT2阻害薬の投与では注意が必要

 SGLT2阻害薬を投与された症例でDKAの絶対リスクの増加は比較的低く、インスリン既往がない患者の方がインスリン既往がある患者よりもDKAのリスクは高いことが示された。

 「今回の研究では、SGLT2阻害薬の副作用のリスクは、2型糖尿病の進行度の低い患者の方が高くなることが示唆されました。このことは、腎不全や心血管イベントなどに対する予防策として、糖尿病の初期段階からSGLT2阻害薬を処方する場合の管理を複雑にするかもしれません」と、研究者は述べている。

 ケトアシドーシスの臨床所見は、急激な口渇、多飲、多尿、脱水、呼吸困難、意識障害、異常な疲労や眠気など。検査所見は一般的には、高血糖(250mg/dL超)、血中ケトン体高値、ケトーシス、アシドーシスなどが特徴的だ。

 ケトアシドーシスの際には、水分、ナトリウム、カリウムが欠乏していることが多く、生理食塩水を中心とした十分な輸液と電解質(ナトリウム、カリウム)の補充、インスリンの適切な投与などが重要となる。

 「患者はケトアシドーシスの徴候に十分注意し、症状が発現した場合は、ただちに医師の診察を受けるべきです。医療従事者は、これらの徴候・症状が発現した患者に対し、ケトアシドーシスを発症していないかを評価し、診断が確定した場合は、SGLT2阻害薬を中止し、アシドーシスを補正するため適切な処置を行い、血糖値をモニターするべきです」と、研究者は述べている。

Sodium-Glucose Cotransporter-2 Inhibitors and the Risk for Diabetic Ketoacidosis: A Multifigure Cohort Study(Annals of Internal Medicine 7月28日)
Study Outlines Risk of DKA in Patients Taking SGLT2 Inhibitors(AJMC 2020年7月28日)

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