糖尿病治療の質は向上 しかし眼底や尿アルブミンの検査の実施率は低い 全国の374万超のレセプトデータを解析 国立国際医療研究センター
2019.03.14
国立国際医療研究センターは、糖尿病患者において適切な検査や処方が行われている割合について、近年の推移を374万人超を対象とした大規模レセプトデータから分析した。
眼底検査の実施率は40%、尿アルブミン検査の実施率は約24%にとどまり、課題があることが明らかになった。
一方で、高血圧薬治療者への「ACE阻害薬またはARBの処方」と脂質異常症患者への「スタチンの処方」の割合は上昇傾向にあり、並存症治療の質は向上していることが示された。
眼底検査の実施率は40%、尿アルブミン検査の実施率は約24%にとどまり、課題があることが明らかになった。
一方で、高血圧薬治療者への「ACE阻害薬またはARBの処方」と脂質異常症患者への「スタチンの処方」の割合は上昇傾向にあり、並存症治療の質は向上していることが示された。
治療の質は向上しているが、網膜症・腎症の検査実施率は依然として低い
研究は、国立国際医療研究センター研究所糖尿病情報センターの杉山雄大室長と、東京大学大学院医学系研究科公衆衛生学分野の田中宏和氏らの共同研究チームによるもの。成果は国際糖尿病連合(IDF)が発行する「Diabetes Research and Clinical Practice」に掲載された。 糖尿病性腎症、糖尿病網膜症はそれぞれ、透析導入原因の第1位、失明原因の第3位となっており、糖尿病診療においては合併症発症・進展予防、合併症が発症した場合の早期診断・早期治療が重要だ。しかし日本の糖尿病患者において、適切な検査や処方が行われている割合の近年の推移は明らかにされていなかった。 そこで研究グループは、複数の健康保険組合の加入者(374万239人)を対象に、2006年4月~2016年3月の健康保険組合のレセプト(診療報酬請求明細書)データベースを用いて、3ヵ月に1回以上の頻度で糖尿病の診療を受け、かつ糖尿病薬の処方を受けていた人を糖尿病として特定。日本全国に分布する約4万6,000人の糖尿病患者についてデータを分析した。 薬物治療中の糖尿病患者において、日本糖尿病学会編著の「糖尿病治療ガイド」などで推奨されている検査や薬の処方を受けている割合を糖尿病診療の質を示す指標として算出し、その経年変化(2007~2015年度)を分析した。 その結果、3ヵ月に1度以上の頻度で医療機関を受診し糖尿病治療薬の処方を受けていた糖尿病患者では、翌年度に1回以上のHbA1c検査、血中脂質検査を実施した割合は高く、それぞれ約95%、約85%だった。 また、「高血圧治療薬を処方されている糖尿病患者がACE阻害薬またはARBの処方を受けている割合」と「脂質異常症を並存している糖尿病患者がスタチンの処方を受けている割合」は上昇傾向にあった。 一方で、推奨される年1回以上の糖尿病網膜症の検査を受けている糖尿病患者の割合は約40%にとどまり、実施率も近年上昇していなかった。また、糖尿病性腎症の検査である尿アルブミン検査の実施率は上昇傾向にあるものの、2015年度でわずか24%であり、糖尿病網膜症・腎症の検査実施率に課題があることが明らかになった。 関連情報インスリン治療を受けている患者に対する診療の質は良い
さらに、インスリンの処方の有無で結果を比較すると、インスリンの処方を受けている患者は経口糖尿病薬処方のみの患者に比べて、適切な(あるいは推奨されている)検査や薬の処方の割合が高い(診療の質が良い)ことが明らかになった。 これは、一般的にインスリンの処方を受けている患者の方が糖尿病の罹病期間が長く、血糖コントロールが悪いなど、より慎重に診療されている可能性が考えられる。 また、中規模以上の病院(200床以上)で糖尿病薬の処方を受けている(糖尿病の診療を受けている)患者は小規模の病院(20~199床)や診療所より適切な検査や薬の処方の割合が高い(診療の質が良い)ことが明らかになった。 これらの差の要因には医師と患者双方の要因が考えられるが、すべての糖尿病患者に対して適切な検査や処方が行われることが理想であるため、医師と患者の要因に関わらず糖尿病治療ガイドなどに適合した診療が提供される環境の整備が必要であるとしている。 糖尿病に関する「診療の質」は、糖尿病患者で合併症の発生がどの程度あるか、血糖コントロールが十分になされているかといった臨床的な『アウトカム』とともに、行うべき診療(治療や検査)がなされているかといった『プロセス』や、よい診療を行うための環境や人員は揃っているか(『ストラクチャー』)で評価される。 国立国際医療研究センター研究所糖尿病情報センターでは、糖尿病治療ガイドなどにそった糖尿病合併症検査がなされているかなどの『プロセス』に関する診療の質に着目し、東京大学大学院医学系研究科公衆衛生学分野と共同して研究を行なってきた。 「糖尿病合併症の発症・進展の予防について、糖尿病治療ガイドなどで推奨されている適正な検査のさらなる普及が望まれる」と、研究チームは述べている。 国立国際医療研究センター研究所糖尿病情報センターChanges in the quality of diabetes care in Japan between 2007 and 2015: A repeated cross-sectional study using claims data(Diabetes Research and Clinical Practice 2019年2月8日)
[Terahata / 日本医療・健康情報研究所]