糖尿病・脂肪性肝炎の新たな発症メカニズムを解明 国立国際医療研究センター

2019.03.08
 国立国際医療研究センターなどの研究グループは、肝臓で食事のたびに小胞体ストレスが誘導され、インスリンの作用が正常であれば、食事で発現が誘導される「Sdf2l1」という分子が小胞体ストレスを適切に終息させていることを発見した。
 糖尿病であると、Sdf2l1の発現誘導がうまくいかず、糖尿病を悪化させるという悪循環をもたらす。さらに肝臓がんの原因とされる脂肪性肝炎の発症メカニズムにも関わるという。

肝臓での小胞体ストレスそれに応答する分子「Sdf2l1」に注目

 研究は、東京大学大学院医学系研究科分子糖尿病科学講座 特任助教 笹子敬洋氏、同糖尿病・生活習慣病予防講座 特任教授 門脇 孝氏、国立国際医療研究センター研究所糖尿病研究センター センター長 植木浩二郎氏らの研究グループによるもの。研究成果は「Nature Communications」に掲載された。

 肝臓での代謝は絶食時と摂食時で大きく変化するが、その生理的意義や調節機構、またその破綻がどのように種々の疾患の病態形成に寄与するかは十分に解明されていない。

 研究グループは、絶食・摂食で大きく変化する肝臓での小胞体ストレスとそれに対する応答に注目し、食事で発現誘導される遺伝子「Sdf2l1(stromal cell-derived factor 2 like 1)」の発現低下が、糖尿病や脂肪性肝炎の発症や進行に関わることを明らかにした。

 Sdf2l1は、これまで小胞体ストレスによって発現が増加することや、小胞体の中でタンパクの折り畳みなどを行なうシャペロン複合体を形成することが報告されていたが、糖脂質代謝に及ぼす影響などは分かっていなかった。
 研究グループはまず、マウスの肝臓におけるマイクロアレイ解析の結果を分析し、摂食時に複数の小胞体ストレス関連遺伝子の発現が上昇し、中でもSdf2l1の発現が大きく上昇することを見出した。

 食事という刺激によって、生理的な小胞体ストレスが一過性に惹起され、Sdf2l1の発現も摂食時に上昇することを突き止めた。

 さらに、Sdf2l1は小胞体ストレスで活性化する転写因子XBP-1sとATF6によって、転写レベルで発現誘導を受けることが分かった。

 Sdf2l1は小胞体ストレスに応答して転写レベルで誘導を受けるが、その発現を低下させると小胞体ストレスが過剰となり、インスリン抵抗性や脂肪肝が生じる。

 次に、研究グループは小胞体ストレス関連タンパク分解「ERAD」に着目し、Sdf2l1の発現が低下すると、本来分解されるべき変異タンパクが蓄積することを確かめた。

 質量分析の手法により、Sdf2l1と相互作用を示すタンパクを網羅的に検索し、膜輸送関連タンパク「TMED10」を同定。Sdf2l1がこのタンパクと相互作用をしながら、協調的にERADの調節を介して、小胞体ストレスを収束させるという。

 Sdf2l1の発現を、マウスの肝臓で低下させると、特に摂食時の小胞体ストレスが亢進し、インスリン抵抗性、耐糖能の増悪、中性脂肪含量の増加を来たした。

 これにより、Sdf2l1は摂食にともなう小胞体ストレスを収束させることで、糖脂質代謝の調節も担うことが明らかとなった。

 加えてヒトの糖尿病症例の肝臓において、Sdf2l1の発現誘導の低下がインスリン抵抗性や脂肪性肝炎の病期の進行と相関することを確認。

 つまりインスリン抵抗性があっても、糖尿病がなければインスリン分泌増加によって埋合せがされるが、糖尿病を発症している場合は埋合せがうまくいかず、肝臓でのインスリン作用が不足する。すると小胞体ストレス応答が減弱して、Sdf2l1が誘導されず、脂肪性肝炎の進行の原因となるという。

 これらの結果から、摂食に伴う小胞体ストレスに対する適切な応答が重要であるとともに、その応答不全が糖尿病・脂肪性肝炎の原因となることが示された。

 今後の研究では、Sdf2l1が糖尿病・脂肪性肝炎の治療標的となること、その発現量がバイオマーカーとなることを解明したいとしている。

東京大学大学院医学系研究科 糖尿病・生活習慣病予防講座
国立国際医療研究センター研究所 糖尿病研究センター
Hepatic Sdf2l1 controls feeding-induced ER stress and regulates metabolism(Nature Communications 2019年2月27日)

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