武市幸奈* 1 Takeichi, Yukina
宮澤 崇* 2 Miyazawa, Takashi
* 1 佐賀大学医学部内科学講座 肝臓・糖尿病・内分泌内科
* 2 九州大学大学院医学研究院 病態制御内科学(第三内科)
はじめに
非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease:NAFLD)の全世界における推定有病率は,食生活の欧米化や交通網の発達による運動量の低下などを背景として2000 年から15 年の経過で20.13%から26.80%へと増加の一途をたどっている.なかでもアジアにおけるNAFLD の有病率は27%と世界平均よりも高い
1).また,全世界の2 型糖尿病患者におけるNAFLD の有病率はさらに上昇し,一般人口の約2 倍,55.5%(95%信頼区間:47.3〜63.7)が罹患しているとされる(
図1)
2).国際糖尿病連合が2021 年に発表した推計では,世界における糖尿病人口は5 億3,700 万人,つまり成人の10 人に1 人であるとされるが
3),このうち約半数がNAFLD を罹患していると仮定すると,わたしたち糖尿病診療に携わる医療者にとってNAFLD の病態を理解することは,目の前の患者によりよい医療を提供するという観点から非常に重要であると考える.NAFLD は糖尿病やインスリン抵抗性,肥満,メタボリックシンドロームなど,過栄養によって引き起こされることの多い代謝性疾患と密接に関連しているが,その重要性は罹患人口の多さだけでなく,一般人口と比較して全死亡率や肝関連死亡率のみならず,心血管イベントのリスクが増加することにある
4).NAFLD の一部は線維化を伴う非アルコール性脂肪肝炎(nonalcoholic steatohepatitis:NASH)へ進展するとされるが,線維化の進展に伴いこれらのリスクが増加することが報告されており
5),肝線維化へ進展し得るNAFLD の病態の解明は今後の重要な課題である.