糖尿病食事療法の最新エビデンス―過度な制限からの脱却と「個別化された健康食」への転換―

2026.01.15

第31回日本腹膜透析医学会学術集会・総会
シンポジウム1
「Well-beingを実現するために~腹膜透析の栄養管理を考える~」
発表日:2025年11月22日
演題:「糖尿病の食事療法:これまでとこれから」
演者:綿田裕孝(順天堂大学大学院代謝内分泌内科学)

 順天堂大学大学院代謝内分泌内科学教授の綿田裕孝氏は、11月22日、第31回日本腹膜透析医学会学術集会・総会のシンポジウム1「Well-beingを実現するために~腹膜透析の栄養管理を考える~」において、「糖尿病の食事療法:これまでとこれから」と題し講演を行った。綿田氏は、インスリン発見以前から現在に至るまでの糖尿病食事療法の歴史を概観し、長らく使用されてきた総カロリー摂取量の設定などに問題があったと指摘。薬物療法の進歩を背景に、過度な食事制限からの脱却と個別化された健康食という考え方の重要性について論じた。

薬物療法黎明期における食事療法

 綿田氏は糖尿病における食事療法の歴史に触れ、インスリンが発見される以前の1型糖尿病患者に対する食事療法は極めて厳しく、「炭水化物を一切摂らない」という極端な制限(絶食療法)が実践されていた時代もあると紹介。インスリンの発見により、糖尿病患者も普通に食事を摂れるようになったことは患者さんにとって多大なメリットであり、QOL維持の観点からも大きな進歩であったと振り返った。
  戦後に2型糖尿病が増加してからも、薬物療法の選択肢は長らく低血糖リスクの高いSU剤やインスリンしかなかったため治療は食事療法が中心であったが、そのような治療状況にあった1980年代の糖尿病患者を7年間追跡調査した研究1)では、糖尿病のある人は、糖尿病のない人に比べて約5倍心筋梗塞が起きていることが明らかになった。
 こうした背景も踏まえ、食事療法を見直すべく、日本糖尿病学会が改良を重ねながら作成してきたのが「糖尿病治療のための食品交換表」(第1版 1965年~第7版 2013年)である。

「食品交換表」と「食事摂取基準」の変遷

 「食品交換表」は糖尿病患者の食事療法のテキストとして作成されてきた。第2版(1969年)では、「1日の総カロリー」のみが厳格に守るべき基準とされ、PFC(たんぱく質・脂質・炭水化物)はいずれも最少必要量が指示されているだけで、バランス比率の議論はほとんどなかった。患者さんの自由度については、1日1600kcalの摂取が望ましい人では、そのうち1200kcalが「基礎食」(最低限摂らなければいけないPFC量が設定されている)、残りの400kcalは自由に食べてよい「付加食」とされた。

 「今にして考えると、当時の総カロリー数はかなり少なく設定されており、さらに第5版(1993年)では、患者さんの自由度も下がってしまった」と綿田氏。
 この頃になると日本人の食事状況が大きく変化し、総エネルギー摂取のうちの脂肪摂取量のエネルギー比が25%を超えるようになっていた。
 食品交換表第5版では、動脈硬化抑制のためには脂質制限25%が重要と考えられた。また、腎機能悪化を招く懸念から、たんぱく質は標準体重1kgあたり1.0-1.2gに、炭水化物摂取量は50-60%に制限された。綿田氏は、「各栄養素の摂取比率が細かく規定されるに伴い、患者が自分で献立を組み立てることが複雑かつ困難になり、自己管理がしにくくなるという弊害が生まれた」と指摘。また、「糖尿病患者が自由に食事を楽しむ権利の阻害につながる懸念もあり、スティグマの観点からも厳格すぎる規定は問題となる」と解説した。

 そうした背景がある中、糖尿病の食事療法を科学的に見直すべく様々な取り組みがなされた。そのひとつが、糖尿病のある人のエネルギー消費量を測定した研究2)である。
 一般的な身体活動量の2型糖尿病患者とそうでない者とを比較した結果、2型糖尿病患者群のエネルギー消費量は、従来の想定よりかなり高い約2,500 kcalであった。これについて綿田氏は「従来の食事療法の基準は、実際のエネルギー消費量と大きく乖離していたことを示唆する」と指摘。
 このようなエビデンスを踏まえ、2019年以降は総エネルギー摂取量の設定がより現実に即したものに変化していった。
 具体的には、目標体重63.6kgの50歳男性(身長170cm・BMI24.2・デスクワーク)の1日の総エネルギー摂取量の設定が、以前は1,590~1,908kcal(エネルギー係数25~30)であったのに対し、2019年以降は1,908~2,226kcal(エネルギー係数30~35)となっている。

総エネルギー摂取量の変化
50歳の男性・会社員(デスクワーク)・身長170cm・体重70kg・BMI24.2kg/m2

出典:綿田裕孝氏による作図を引用・改変

 綿田氏は「総エネルギー摂取量が低く設定されていた時代は、教育入院中の食事で患者の血糖値が著しく改善するものの退院後にすぐ元に戻ってしまうという問題があったが、総エネルギー摂取量の設定がこのように変わったことで、入院中の食事療法を退院後も続けやすく、血糖値も維持しやすくなっている」と解説した。

「個別化」した食事療法が主流の時代に

 綿田氏は、糖尿病の薬物療法の進歩が著しいことも踏まえ、医療従事者は旧来のカロリー制限に必要以上にこだわらなくてもよいのではないかと提言。
 その上で➀カロリー制限が必要なのは過体重・肥満を伴う2型糖尿病患者のみであり、それ以外の患者は必要なエネルギーを摂ることが基本となる ➁糖尿病患者に理想的なPFCバランスはない(エビデンスがない)3)ため、食品交換表にある「最低限のPFC」を確保した上で、残りのエネルギーは患者自身の嗜好や生活習慣に合ったものを選んでよい、という2つのポイントを挙げ、現在は「個別最適化された食事療法が求められている」とした。
 最後に綿田氏は「糖尿病の人を見て、カロリー制限をしないといけないと考えるのは今の時代にはそぐわない。肥満でない方は適切なエネルギー摂取に基づく『健康食』を基本とし、それでも血糖が上がる場合は、患者のQOLを損なわないよう適切な薬剤を用いて血糖管理を図るという、薬物療法との統合的なアプローチを行う時代になっている」と述べ、総括した。

腹膜透析患者、高齢者やフレイルを有する患者の食事・薬剤について

 質疑応答では、本学会のテーマである「腹膜透析」による治療を行っている患者さんの中には食事の量をあまり食べられない高齢者が多くいるという背景から、「食事摂取が進まない高齢の糖尿病患者にはどのような対応をしているか」との質問が寄せられた。これに対し綿田氏は、「食べられない原因の一つに考えられるのは、食事療法の規定が現行のものに変わる前に『食べ過ぎてはいけない』という厳格な指導を長年続けていたため、急に『食べてよい』となっても食べられない体になっていることだ。これがフレイルにつながっている。そのため、患者さんが食べられなくなる体になる前に、ある程度食べる習慣をつけていただくことが大切だと考える。腹膜透析患者さんも、腹膜透析の導入以前から食べる習慣をつけることが重要ではないか」と回答した。

 また、「食欲低下を引き起こす薬剤を高齢者に使用するのは避けるべきか?」との質問には、「マンジャロ(チルゼパチド)やオゼンピック(セマグルチド)のような強力な体重減少・食欲抑制効果を持つ薬剤などは基本的には避けたほうがよい。どうしても必要な場合は、食欲への影響が比較的マイルドなトルリシティ(デュラグルチド)などを選択する」と具体的な使い分けを提示した。

文献

  • Haffner SM, et al. N Engl J Med 339: 229–234, 1998
  • Yoshimura E, et al. J Diabetes Investig 10(2): 318-321, 2019
  • 糖尿病診療ガイドライン2019

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