「LTEP」と「生活目標」で実現するCKD早期支援―最新薬に匹敵する多職種介入の威力
第31回日本腹膜透析医学会学術集会・総会
シンポジウム5 「生活目標とSDM」
発表日:2025年11月23日
演題:CKD早期治療介入から腎代替療法導入へとわたる全人的CKD支援~Long Term eGFR Plotと生活目標の活用~
演者:梶原健吾(熊本医療センター 腎臓内科)

第31回日本腹膜透析医学会学術集会・総会において、熊本医療センター腎臓内科の梶原健吾氏は、可視化ツール「LTEP」と「生活目標」を軸に、保存期早期から患者の主体性を引き出す「広義のSDM」を提唱した。このアプローチを支える多職種チームによる支援が、長期観察における心血管疾患(CVD)の発症抑制において、最新薬に匹敵あるいはそれを凌駕する「NNT24.4」という極めて高い有用性を示している実態を報告。患者の生活目標に向かって多職種によるチームが一丸となってサポートする、新時代のCKD支援の在り方を提示した。
LTEPによる評価の「可視化」:「受容促進」と進行リスクの「早期把握」
梶原氏は、CKD診療のスタートラインツールとして、腎機能の指標であるeGFRの推移を長期的に記録する「LTEP(Long Term eGFR Plot)」を紹介した。これは、縦軸にeGFR、横軸に年齢を置き、一次関数を用いて近似直線を引く手法であり、最大の特徴は、将来の「透析導入に至る時期(eGFR5付近)」をグラフ上の交点として明確に視覚化できる点にある。
患者に単に「数値が下がっています」と伝えるだけでは、患者の危機感には繋がりにくい。しかし、LTEPによって「あと何年、何歳で透析が必要になるか」という予測を可視化して伝えることで、患者は自身の病状を客観的に受け止め「受容」のプロセスにスムーズに進むことができるようになる。
また、LTEPは「尿蛋白が陰性であれば安心」と判断されがちな症例に潜むリスクの気づきにも有用だ。高血圧をベースに持ち、蛋白尿は出ていないがGFRが下がっているため紹介を受けた72歳の患者をLTEPで評価したところ、GFRスロープの低下速度が少し早く、80代で透析導入という予測となった。治療は多職種で介入し、SGLT2阻害薬を選択した結果、低下速度が改善してこの患者は現在かかりつけ医が診ている状況。梶原氏は、「LTEPによる評価はこうした見逃されがちな進行を早期に発見し、介入のタイミングを逃すことなく早期に治療を進めるために有用である」とした。
「広義のSDM」と「生活目標」:させられる治療から「主体的な治療」へ
梶原氏は、この「LTEP」と「生活目標」がSDM(Shared Decision Making:共同意思決定)を実践する際の極めて重要なツールであり、ここに「多職種」で関わっていくことが非常に大切であると述べた。梶原氏がこうした具体的な手法と体制を重視する背景には、近年のCKD治療の飛躍的な進歩に合わせ、SDMの在り方をアップデートすべきという次のような考えがある。
医療者と患者が情報を共有し、対話を通じて共に治療方針を決定するプロセスであるSDMは、CKD領域においては従来、透析導入前の「腎代替療法の選択」の場面、すなわち「狭義のSDM」に焦点が当てられてきた。しかし、強力な治療薬が登場した現代では、より早期に、より効果的な治療ができるようになっている。ゆえに、尿蛋白の出現やGFR低下スピードの加速が始まる「保存期早期」から共に治療を検討する「広義のSDM」へと視野を広げていく必要がある。
そして、この広義のSDMから患者を「主体的な治療」へと導く道しるべとなるのが、「生活目標」の設定であり、それを後押しするのが「多職種連携」なのである。
具体的な症例として、喫煙と飲酒を愛好する会社経営者(75歳男性)のケースが紹介された。LTEPで将来の透析リスクを可視化した上で、彼が人生で最も大切にしている「仕事を続ける」という生活目標を多職種で共有した。
この目標を達成するため、看護師手製のフォローアップ手帳や動画学習なども活用した多職種による丁寧な支援を開始。すると、CKDの治療をしながらでも仕事を続けられることを理解した患者は非常に前向きな姿勢へと転換した。それまで消極的だった禁煙を自ら決断しただけでなく、好物のするめを塩分の少ない枝豆に変え、大好きなウイスキーは酒量を調整して主食をしっかり摂取するなど、驚くべき行動変容を見せたのである。
この男性はSDMで話し合って決めたSGLT2阻害薬選択の効果も相まって、当初の予測では80代での透析導入が避けられない経過をたどっていたが、介入後はeGFR 60前後を維持し、透析とは無縁な人生へと軌道修正された。
腎代替療法選択から生活再建へ:81歳の社会復帰を支えた「生活目標」の力
「生活目標」を軸に多職種で患者を支える姿勢は、腎機能が高度に低下した段階であっても変わることはない。eGFR13.8で紹介された79歳女性の症例では、「夫と孫を含む3家族分の食事を作る」という生きがいと、「現役ヘルパーとしての仕事の継続」が生活目標にすえられた。高齢ながら家庭を支え、社会的にも自立した生活を送る彼女の主体性を尊重し、多職種チームで「今の生活を諦めない」支援を開始した。
治療薬としてSGLT2阻害薬とMRAを選択したところ、LTEPの理論上83歳で透析導入となる予測直線が105歳のレベルまで大幅に押し戻されるという劇的な効果が得られた。しかし、ぎりぎりで何かあれば末期腎不全となるため、腎代替療法選択のSDM(狭義のSDM)を実施。本人のアクティブな生活を支える選択肢として、多職種で話し合いのうえ腹膜透析(PD)が選ばれた。
特筆すべきは、その後の状況である。この患者は治療経過中に一旦ヘルパーの仕事を離れていたものの、腎代替療法の選択を行った後(PD導入前)に「これなら仕事ができる」と確信し、なんと81歳で新たに家政婦としての仕事を始めたのだ。79歳での目標が、適切な治療と支援を経て81歳での再挑戦へと結実したこの症例は、生活目標へのアプローチが患者の生命力をいかに引き出すかを象徴している。
「管理栄養士」「理学療法士」の絶大な威力:最新薬に匹敵する多職種介入
多職種連携の重要性は長らく叫ばれてきたが、梶原氏はその科学的根拠として、まず日本のランダム化比較試験「FROM-J STUDY」1)を引用した。この研究では、標準治療に多職種による支援を加えることで、治療の中断を防ぎ、腎機能低下を抑制できることが明確に示されている。
さらに、同研究の10年間の長期観察では、心血管疾患(CVD)の予防効果についても良好な数値が示された。特筆すべきは、そのNNT(治療必要数:1人の疾患発症を防ぐために何人の治療が必要かを示す指標。数値が小さいほど効果が高い)が「24.4」であったことだ。これは24.4人に多職種介入を行うことで、1つのCVDを減らせることを意味する。最新のCKD治療薬であるフィネレノンは42〜47、セマグルチドは45という数値を考えると、多職種介入がいかに強力な効果を持つかが理解できる。
続いて梶原氏は、日本大学の阿部雅紀氏らが2023年に発表した多施設共同コホート研究2)の結果を示した。同研究ではCKDステージG3、G4、G5のすべての段階において、チーム医療が腎機能の低下速度を抑制していることが示された。また、多職種チームにおける職種ごとの寄与度を解析したデータによると、特に管理栄養士と理学療法士が介入した症例において、腎機能低下速度の改善に強い有意差が認められている。
梶原氏はこれらのデータを受け、「多職種チームの中に管理栄養士が入っている施設は多いと思うが、理学療法士もなんとかチームに加えていただきたいと思う」と、運動療法の専門家が加わることの重要性を訴えた。
分断させない「情報のバトン」:地域総がかりで支える新時代のCKD治療
講演の最後に、梶原氏はCKD診療における「病診連携」のあり方を提示した。これからのCKD診療は、病院内での完結ではなく、かかりつけ医のチームと専門医のチームが情報を分断させない「病診連携」の仕組みを構築することが極めて重要となる。
その核となるのが、これまで述べてきた「LTEP」、「生活目標」、そして「個別化された治療指針」の情報のバトンだ。患者が高齢化し、利用する施設が増えたり変わったりしても、これらの情報をシームレスに共有することで、地域全体で患者の人生を一貫して支えることが可能になる。
梶原氏は、「近年、新しい薬剤や評価方法が登場してCKD治療は大きく進化を遂げており、20年前とは様変わりしている。そのような時代だからこそ『早期からのSDM』が重要であり、その際に腎臓機能を評価する『可視化ツール』を使わない手はない。見える化により患者さんの受容が進む。そして前向きに治療をしていただくために、『目標設定』を行い、それを『多職種総がかり』でサポートしていくことが求められている」と述べ、講演を締めくくった。
文献
- Yamagata K et al. PLoS One 2016; 11(3): e0151422
- Abe M, et al. Clinical and Experimental Nephrology 2023; 27: 528-541






