「先生、実は…」 PD患者の放送作家・たむらようこさんが語る、診察室では言えない“本音”と“ウソ”
第31回日本腹膜透析医学会学術集会・総会
特別講演3「すべての患者さんに腹膜透析の恩恵を」
発表日:2025年11月23日
演者:たむら ようこ(放送作家・日本放送作家協会理事)

『サザエさん』『情熱大陸』など数々の人気番組を手掛けてきた放送作家のたむらようこさんが特別講演に登壇。たむらさんは2009年、長男が1歳の時に子宮頸がんの告知を受け、闘病の過程で水腎症を経てステント留置や腎ろう造設を経験。2018年より腎臓内科の受診を開始し、現在は腹膜透析を行いながら第一線で活躍を続けている。
たむらさんは「日頃は口に出せない患者の本音をお話しできれば」と、放送作家ならではの視点で構成された「12のパネル」をもとに、大会長である阿部雅紀先生(日本大学医学部 内科学系腎臓高血圧内分泌内科学分野 主任教授)とのトークを展開。「先生の前ではいい格好をしたい」という患者心理や、診察室では言いにくい悩みなど、生活者としての本音が笑いと涙を交えて明かされた。その内容を当日の雰囲気そのままにお伝えする。

先生についてるウソ:ルールを破るのは「不可抗力」?
たむらさん(以下敬称略):「実は私…主治医の先生にウソをついていました。今年の春に腹膜炎になった時のことです。先生が『どうしてこうなったんでしょうね』とおっしゃったので、私も調子を合わせて『何ですかねぇ』なんてとぼけていましたが、実は自分では原因がわかっていたんです」
阿部先生(以下敬称略):「いったい何があったんですか?」
たむら:「父の治療の付き添いで鹿児島の指宿(いぶすき)に行った際、目の前に素晴らしい絶景のお風呂があったんです。『腹膜透析(PD)患者は温泉や公衆浴場に入ってはいけない』と頭ではわかっていたんですが、脱衣所まで行って引き返すなんてできない!と思ってしまって…。一日だけなら大丈夫だろうと思って入り、翌日なんともなかったので、結局毎日『温泉ざんまい』をしてしまいました。患者はルールを破ってやろうと思って破るのではなく、いたしかたなく『不可抗力』で吸い込まれることがあるんです」
阿部:「なるほど、誘惑に負けてしまったわけですね(笑)。そして東京に戻ってから腹膜炎になったと」
たむら:「はい。でも先生には『温泉に入りまくりました』とはとても言えなくて…。患者はいくつになっても、先生の前ではいい子でいたい、褒められたいという気持ちがあるんです」
阿部:「お気持ちはわかります。ただ実は最近、患者さんへのアドバイスの方法も変わってきているんです。施設によりけりだと思いますが、我々の病院では、出口部※1が完成していれば、入浴も温泉もOKとしています。ですから、温泉が直接、腹膜炎の原因だったかどうかはわからないかもしれないですね」
たむら:「えっ、そうなんですか! それを聞いて安心しました。じゃあ、私は先生にウソをついていなかったということでいいですね(笑)」
※1 腹膜透析用のカテーテルがお腹の皮膚から出ている部分。ここから細菌が入ると腹膜炎に直結するため、日々のセルフケアにおいて最も注意を払うべき箇所
患者が聞けないこと:誰も教えてくれない「性」の悩み
たむら:「これは本当に切実な話なのですが、『腹膜透析をしていても、セックスはできるのか?』ということなんです。腹膜透析を始めたら、お腹からチューブが出ている状態になりますよね。この状態で、どうすればいいのか?ということです。チューブはどのようにしておくのが安全なのか。お風呂に入る時にどうするかは病院で丁寧に教えてくださるのですが、セックスについては教えていただいていなくて。特に先生との関係性がまだ浅い頃は、恥ずかしくてとても聞けません。こうした不安から血液透析を選ぶ若い患者さんもいらっしゃるんじゃないかなと、私は思うんです」
阿部:「ズバリ来ましたね。実は私も、これまで患者さんにそういった質問を直接されたことはないのですが、結論から言えば、セックスは全く問題ありません。できます。カテーテルをどうしておくかも基本的には自由です。たむらさんのおっしゃる通り、カテーテルが出ているのが男性に嫌がられるのではないかと血液透析を選択される女性患者さんは実際にいらっしゃいます。女性は見え方を気にされる方が確かにいらっしゃると思いますが、性生活は決して諦める必要はありません」
阿部:「フロアの先生方の中で、どなたか患者さんからそういった質問をされたことがある、という方はいらっしゃいますか?」
フロアの医師:「はい、あります。セックスについては、やはりカテーテルや出口部分をあまり摩擦しないような行為、つまり『体位』を工夫して行えばOKだと説明しています。これをきちんとお伝えしておかないと、やはり情熱に駆られて行う行為ですから、ついカテーテルや出口部を刺激してしまい、そこから腹膜炎になるリスクを高めてしまうことになりかねません」
たむら:「お答えいただきありがとうございます。でもやはり、こうした質問はなかなか直接は聞きづらいかと思います。セックスについての説明が書いてあるパンフレットのようなものがあるといいかもしれませんね」
腹膜透析の姫:つらい「後片付け」と家族の協力
たむら:「腹膜透析をやっていて何がつらいかと言うと、『後片付け』なんです。私は1日4回、透析液のバッグ交換※2をしていますが、それ自体の手間もさることながら、重い排液をトイレまで運んで、ハサミで切って流して、それをきれいに小さく丸めて捨てて…という一連の動作が本当にこたえます。特に冬の寒いトイレで排液を流している時は一番むなしくて、『私は毎日毎日これをいつまでやってなきゃいけないんだろう』と思ってしまいます。
阿部:「毎日のことですから、その負担は大きいですよね。たむらさんはどう乗り越えているんですか?」
たむら:「我が家の場合、夫や息子が片付けを手伝ってくれます。私が座って透析を終えて、排液を置いておくと、家族が持って行って捨てておいてくれるんです。家事もよく手伝ってくれるようになりましたし、腹膜透析を始める前よりも『お姫様扱い』されているような、ちょっと幸せな気分になることもあります(笑)。透析の手技自体は患者本人にしかできませんが、その周辺のことなら家族もできます。そうすると患者本人はすごく楽になりますし、幸せな気持ちになれるので、今ここで聴講してくださっている先生方が患者さんのご家族とお話しされる際には、ぜひ『周辺のことを手伝ってあげてください』と言っていただけると嬉しいです」
阿部:「もちろん、お一人暮らしの方も皆さん頑張ってやっていただいていますが、ご家族がいる方は、協力があると患者さん本人にかかる負担が大きく違いますからね」
たむら:「はい。私は透析のタイミングがその日によってバラバラで、記録を先生にお見せするのが恥ずかしいくらいめちゃくちゃなんですけれども(笑)、家族が手伝ってくれている分、ラクさせていただいていますし、透析自体は彼らが寝た後も自分一人でできますので、かなり自由にやれています。仕事の原稿に集中していると、バッグ交換の時間を忘れてあっという間に4時間経っていた、なんてこともよくありますし」
阿部:「実はそこがPDの強みです。貯留時間※3をその人の生活や、その日の予定に合わせてある程度フレキシブルに変えても問題ありません。PDを始めたばかりの方は『9時に透析液を入れたら、12時ピッタリに液を出さなきゃいけない』と思いがちですが、1時間や2時間ずれても大丈夫なんです。血液透析は病院に遅刻すると迷惑をかけてしまいますが、PDは自宅でできますし、自由度が高いのはPDのメリットですね」
たむら:「そのおかげで、普通の人並みかそれ以上に仕事ができていると思うので、本当にありがたいなと思っています」
※2 お腹の中の古い透析液を出し、新しい液を注入する作業のこと。たむらさんのように1日4回手動で行う方式(CAPD)では、この作業や排液の片付けが日常的な負担となる。
※3 透析液をお腹の中に入れている時間のこと。この時間に透析が行われるが、PDは患者の生活スケジュールに合わせて、ある程度この時間を調整できる柔軟性がある。
犬と猫:PD患者が抱える「情報不足」

たむら:「私はよく、血液透析は『犬』、腹膜透析は『猫』に似ているなと思っているんです。犬の飼い主さんたちは、お散歩に行けば自然と友達になって情報交換ができますよね。でも猫の飼い主さんは猫を連れてお散歩をしないので、自分から言わない限り、相手が猫を飼っているかどうか分かりません。それと同じように、血液透析の患者さんは通っている透析の施設に行けばお友達がいて情報交換ができるのでしょうけれど、腹膜透析の患者さんは自宅で治療をしているので、同じ患者であってもお互いに気づくことができません。だから腹膜透析患者は患者同士のルートで入ってくる情報が圧倒的に少ないですし、病院の先生や看護師さんからいただく情報が全てで、病院を頼りに生きているようなところが非常に大きいと思うんです」
阿部:「患者さん同士の情報交換は、やはり必要ですよね。血液透析の方はいつでも交流の機会がありますが、腹膜透析の患者さんはその点、どうしても孤独になりがちです。そうしたこともあり、私の病院では腹膜透析患者専用の待合室を設けています。診察を待っている間に、前後の患者さん同士で『出口部はどう管理していますか?』とか『入浴はどういう形でやっていますか?』といった、ちょっとした会話ができるようなコミュニティーとしての場所は必要だと思っています」
たむら:「専用の待合室!それは絶対に欲しいです。私は今は診察を待っている間に、隣に座っている人が腹膜透析の手帳を持っていたら、自分から『どうですか?』っていっぱい話し掛けて情報交換をしています」
患者が嬉しくて泣く時:「よかったね!」と「よかった!」の違い
たむら:「最近、嬉しくて泣いたことが2つありました。1つは腹膜炎で入院した時のことです。熱もあってぐったりしていたのですが、検査の数値が回復してきた時に、主治医の先生が『よかった。僕も嬉しいです』と言ってくださったんです。これがもし、『よかったね』だったら、他人への呼びかけに聞こえたかもしれません。でも先生は、『よかった』と、ご自身の気持ちとしておっしゃってくれた。私のことを『自分ごと』として一生懸命治療してくださっているんだなと感じて、とても感動して涙が出ました」
阿部:「言葉ひとつで伝わる思いがあるんですね」
たむら:「そうなんです。もう1つも入院中のこと。実は入院前から、『そろそろ血液透析とのハイブリッド※4にしたほうがいい』と先生にお勧めいただいていたのですけれど、私はなんとなく『まだいいんじゃないですか』とのらりくらりと逃げていました。そんな中、入院することになり、先生がベッドサイドに来て『どうしてハイブリッドが嫌なんですか?』と聞いてくださったんです。普段の診療時は先生の時間を取ってはいけないと遠慮してしまうのですが、その時は本当のお話をしました。
阿部:「医師がベッドサイドに足を運んだのがよかったですね。それでその本当のお話というのは?」
たむら:「実は、息子が今、高校3年生で受験生なんです。合格したら家を出ると言っています。私は息子が1歳の時にがんになって入退院を繰り返していたので、十分に一緒にいてあげられなかったという負い目のようなものがあるんです。だから今も、仕事が終わったら1秒でも早く家に帰って、息子と一緒に過ごしたいと思って暮らしています。そんな最後の1年を、血液透析のために施設に通って4時間も5時間も取られたくない、ということをお伝えしました。すると先生は、『分かりました。息子さんが合格するまでこのまま腹膜透析でいけるように、僕たちも全力でサポートします』と言ってくださったんです。医学的な正しさだけでなく、患者の事情を汲んでくださるその姿勢が本当に嬉しくて涙が出ました」
阿部:「たむらさんは既に内シャント※5も作られていて、いつでもハイブリッドにできる準備は整っているんですよね。緊急性がなければ、その患者さんのライフステージに合わせて時期を延ばしたり、フレキシブルに調整したりできる。これもまた、PDを選択しているメリットのひとつだと思います」
※4 腹膜透析に、週1~2回の血液透析を組み合わせる治療法。腹膜透析の「生活の自由度」を維持しつつ、不足しがちな水分や毒素の除去を血液透析で補う。
※5 血液透析を行うために、腕の血管をつなぎ合わせて作る血液の取り出し口。PD中であっても、将来的な移行やハイブリッド導入に備えて事前に作成しておくことがある。
先生にだまされた!:「医学的」な正常と「美容的」な違和感
たむら:「腹膜透析を導入する前の説明で、私は先生にだまされたと思っていることがありまして。いろいろなお話を聞く中で心配だったのが、『1.5リットルものお水をお腹に入れてしまったら、お腹がぽっこりしてしまうんじゃないか』ということでした。皆さん、お金を払ってジムに行って一生懸命お腹を引っ込めているのに、私はお金を出してお腹をぽっこりさせるのは嫌だと思ったんです。先生や看護師さんに聞くと、『他の患者さんを見ていても、変わりませんよ』とおっしゃるので導入を決めたのですが、実際にやってみたら、1.5リットル分、お腹が膨らみました。それで、だぼっとした服を着がちになりましたし、お腹に水が入っている時は、イオンにも行けやしない、みたいな(笑)」
阿部:「そうですか…。一応、腹腔の容積というのは2~3リットルくらいは入る余裕があるはずなのですが、もしかしたら、たむらさんの体格というか胴体の容積が小さめなのかもしれませんね。会場の皆さんの中で、患者さんから『お腹が膨らんだ』と言われた方はいらっしゃいますか?(会場で1、2名の手が挙がる) 少数ですがいらっしゃるのですね」
たむら:「皆さん、先生に言えないだけかもしれないですよ。あともうひとつ、足のむくみについても言わせてください。以前、かかっていた男性の先生に『足がむくんで太くなったから何とかなりませんか?』と聞いたら、先生は足を触って『いや、むくんでないですね』と言うんです。でも、その次に女性の先生に診ていただいた時に同じことを聞いたら、『むくんでますね、大変ですね』と言ってくださいました。そう言っていただけたのが私としてはとても嬉しくて。医学的には『むくんでいない』という判断になるのかもしれませんが、女性としては『いつもより足が太い』ことが嫌なんです。医学的には正常でも、美容的にはむくんでいる。そうした患者の気持ちを分かっていただけたら嬉しいなと思います」
阿部:「なるほど…。実は僕も患者さんに『むくんでるんです』と言われて診たところ、『これはむくんでないですよ』と言ったことは結構あります。我々は指で押して跡が残るかどうかで判断するので、跡が残らない場合は『むくんでいない』となります。でも、たむらさんのお話を聞いて、医学的な判断と患者さんが嫌だと感じる感覚との間には、ズレがあることがわかりました。これは我々も心して患者さんと話していかなければならない。新たな発見でした」

どうでもいいこと:診察室で感じる「ときめき」
たむら :「最後にひとつ、本当にどうでもいいことなんですが…。診察室の先生の服装についてです。診察室に入ると、大体、先生って白衣で座っていらっしゃるんです。でも時々、どういうタイミングでそうなっているのかはわからないのですけれども、手術着で座ってらっしゃる時がありますよね。あの胸元がV字に開いている感じに、ちょっとドキドキするんです(笑)。
阿部 :「まさかそこを見られていたとは(笑)」
たむら:「私たち患者は、治療に専念していて、普段ドキドキやトキメキから一番遠い星に住んでいるという人も多いと思うんです。なので、時々そうしたキラキラした感じで見せていただければ、すごくありがたいなって」
阿部:「僕は大体いつもネクタイなので、これからは手術着で診察するようにしましょう(笑)」
終わりに:今後の野望
たむら:「終わりに、私の野望をお話しさせてください。私は実際に腹膜透析をやってみて、本当にいいものだと思っているのですが、いかんせん世の中には腹膜透析のことを知っている人が少なすぎます。私はメディアで働いている人間ですので、ニュースなどで取り上げていただくのもありがたいのですけれど、より幅広い層に知っていただくためにドラマやアニメ、バラエティー番組の中に、もっと腹膜透析を登場させたいんです。先日もあるドラマの監督さんとお話したのですが、『腹膜透析をしている2時間は動けない』ということを逆手に取って、サスペンスのアリバイ工作に使えないか、なんて構想を練っています。そうやって腹膜透析をメジャーにして、特別なものではないものにしていきたい。そのために、ぜひ先生方の知恵もお借りしたいです!」
阿部:「それは面白い試みですね!ぜひ協力させていただきたいと思います。今日は患者さんの生活者としてのリアルな声をたくさん伺うことができ、私にとっても新しい発見ばかりの非常に有意義な対談でした。ありがとうございました」






