SGLT2阻害薬の新しい腎保護作用メカニズムを発見 尿細管細胞に炎症を拡大する小胞体タンパクを抑制 岡山大学
SGLT2阻害薬が尿細管細胞に炎症を拡大する小胞体タンパク質であるGRP78を抑制
岡山大学は、SGLT2阻害薬「カナグリフロジン」(カナグル)が糖尿病関連腎臓病(DKD)の進行を抑制する新しい作用メカニズムを発見したと発表。
SGLT2阻害薬は、近位尿細管細胞から尿中に分泌され周辺の尿細管細胞に炎症を拡大する小胞体タンパク質であるであるGPR78を抑制し、糖尿病での近位尿細管細胞の形質転換や間質線維化を抑制し、また糖尿病のない場合でも小胞体機能を向上させ、細胞質の過剰なCa2+を小胞体に戻すポンプであるSERCAの働きを良くすることにより、細胞を保護するとしている。
GRP78は、不良品タンパク質を正常な構造に修繕する作用が知られ、最近では小胞体以外に核やミトコンドリア、細胞質、細胞表面への局在、また分泌型の存在が知られている。
今回の研究で明らかになったのは、次の3点だ――。
- SGLT2阻害薬(カナグリフロジン)の近位尿細管細胞保護作用に、細胞内のGRP78の発現量や局在変化が関係していることが分かった。糖尿病では近位尿細管細胞で、GRP78とSGLT2、またGRP78とIntegrinβ1がともに細胞表面に移動し、糖やナトリウムの再吸収を亢進させたり、線維化にかかわる経路が活性化される。Integrin β1は、細胞接着や細胞の移動、増殖、組織修復、血液凝固などに関わる分子。SGLT2阻害薬はこれらの分子の細胞表面への移動を抑制したり、発現量を調節したりすることを見出した。
- 糖尿病では、近位尿細管細胞から尿中へのGRP78分泌が増加する。分泌されたGRP78は、周辺の尿細管細胞に作用して、炎症を引き起こし、細胞の障害を拡大する。SGLT2阻害薬はGRP78の尿中への分泌を抑制し、炎症の拡大を抑制する可能性が示された。
- 正常な状態でも糸球体で濾過された原尿には糖が排泄されるが、ほぼすべてが糸球体の下流にある尿細管で再吸収されるため、通常尿中に糖は排泄されない。
SGLT2阻害薬は、近位尿細管細胞の糖の取り込み口であるSGLT2を阻害して、糖吸収を抑制する薬剤であり、そのため近位尿細管細胞内の糖濃度が低下し、これによりGRP78が増加すると考えられる。
とくに小胞体にあるGRP78は、小胞体の働きで重要で、カナグリフロジンは細胞内のCa2をその貯蔵庫である小胞体に戻すポンプであるSERCAの機能に作用し、細胞内のCa2+濃度の恒常性維持に関わることが分かった。
これらのメカニズムは、糖尿病のない場合でも尿細管細胞の保護につながると考えられる。
研究は、岡山大学病院腎臓・糖尿病・内分泌内科の中司敦子氏、和田淳教授が、NPO法人日本腎臓病協会(KRI-J)、田辺三菱製薬との共同で行ったもの。研究成果は、米国糖尿病学会誌「Diabetes」のResearch Articleとして掲載された。
「SGLT2阻害薬は、血糖降下作用以外に、腎臓・心臓の機能低下を予防する作用も有することが近年明らかになり、診療で広く使用されるようになったが、"どのようなメカニズムで効くのか"については、まだ解明されていない部分が残っている」と、中司氏は述べている。
「今回、明らかにしたカナグリフロジンの新しい作用メカニズムは、血糖改善作用とは別に、尿細管細胞を保護する可能性を示唆している。必要な患者に、適切な時期から適切にSGLT2阻害薬が使用され、多くの患者の腎症の進行が抑制されることを期待している」としている。
岡山大学 腎臓・糖尿病・内分泌内科
GRP78 contributes to the beneficial effects of SGLT2 inhibitor on proximal tubular cells in DKD (Diabetes 2024年2月23日)