定期通院している患者の多くは血圧管理が不十分 糖尿病症例に対する希望はSGLT2阻害薬 J-DOME

2023.09.05
 かりつけ医に定期的に通院している高血圧患者の血圧管理は、診断と治療の進歩にも関わらず、不十分であることが明らかになった。

 横浜市立大学が、J-DOME(日本医師会かかりつけ医診療データベース研究事業)と共同で実施した研究により、かかりつけ高血圧患者での過去10年の血圧管理の推移を調査したもの。

 優れた降圧薬が開発されているにもかかわらず、多くの患者が降圧目標を達成していない、いわゆる「高血圧パラドックス」が課題になっている。

 研究グループは、2つの特徴的症例群を検討し、1つはJSH2019で厳格化された患者で、もう1つは以前より厳格な管理が求められている糖尿病患者と慢性腎臓病(CKD)患者としている。

降圧薬の平均使用数は1.7剤に減少 利尿薬の使用はわずか8%

 かりつけ医に定期的に通院している高血圧患者の血圧管理は、不十分であることが明らかになった。横浜市立大学が、「J-DOME(日本医師会 かかりつけ医 診療データベース研究事業)」と共同で実施した研究により、神奈川県のかかりつけ高血圧患者での過去10年の血圧管理状況の推移を調査したもの。

 「J-DOME」は、日本医師会・日本糖尿病学会・日本高血圧学会による共同事業で、糖尿病と高血圧の診療の推進に向けた、かかりつけ医の全国規模の症例レジストリだ。

 研究グループは、2021年9月~2022年3月に「J-DOME」に登録された高血圧患者(糖尿病合併も含む)のうち、神奈川県の医療機関から登録された患者830人を2021年調査の対象とした。

 さらに、神奈川県内科医学会が過去に実施した2011年調査の826人、2014年調査の1,098人を比較対象として解析に加えた。

 その結果、診察室血圧130/80mmHg未満と、目標血圧が厳格な患者での達成率は31%と低く、過去2回の調査と比較しても、達成率の改善は認められないことが示された。

 一方、診察室血圧140/90mmHg未満が目標の患者での達成率は49%に上った。診察室血圧より重要視されている早朝家庭血圧については、135/85mmHg未満の目標血圧では83%と高い達成率が示された。

 降圧薬の平均使用数は1.7剤と、過去の調査よりも減少しており、とくに降圧利尿薬の使用は8%にとどまっていた。

 3剤以上の併用療法の患者では、カルシウム拮抗薬(CCB)、アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)の使用が多くを占めたが、目標血圧達成率は、診察室で39%、家庭血圧で20%と低かった。

 研究は、横浜市立大学大学院医学研究科の小林一雄氏(現 相模原医師会・神奈川県内科医学会 高血圧腎疾患対策委員会委員長、内科クリニックこばやし院長)、循環器・腎臓・高血圧内科学の田村功一主任教授、神奈川県内科医学会らの研究グループによるもの。研究成果は、「Hypertension Research」に掲載された。

厳格な高圧目標の達成率は診察室30%、家庭血圧19%
糖尿病症例に対する希望はSGLT2阻害薬

 神奈川県内科医学会高血圧腎疾患対策委員会ではこれまで、実地医家での高血圧診療の実態調査(2011年、2014年)を実施し、収縮期血圧の改善傾向、カルシウム拮抗薬、アンジオテンシン受容体拮抗薬の使用頻度が増加する一方で、利尿薬の使用が広まらない現状などを報告してきた。

 研究グループは今回、日本医師会主導のかかりつけ医診療データベース研究「J-DOME」との共同研究により、高血圧治療ガイドライン2019(JSH2019)改定後の調査を実施した。

 JSH2019では病態別に目標血圧が設定されているので、目標血圧別にその達成率を解析した。2021年の調査では、緩い基準(診察室血圧<140/90mmHg)の患者では、診察室血圧目標達成率は47%であり、過去の調査よりも低くなっていたが、家庭血圧目標達成率は83%と改善しており、家庭血圧重視の姿勢が推測された。

 一方、厳格な基準(診察室血圧<130/80mmHg)の患者の目標達成率は、診察室30%、家庭血圧19%ときわめて低く、しかも過去10年間で改善はみられなかった。

 研究グループは、真の「高血圧パラドックス」はこの厳格基準の患者にあると考え、2つの特徴的症例群を検討した。

 1つは、JSH2019で厳格化された患者で、JSH2014の基準であれば54%だった診察室血圧目標達成率がガイドライン改定にともない18%まで低下した。基準不変患者と比べ厳格化患者では、ハイリスクではない、合併症の少ない中年若年が中心だった。

 もう1つは、以前より厳格な管理が求められている糖尿病、およびタンパク尿陽性の慢性腎臓病(CKD)の患者だ。

 この症例群に対するひとつの希望はSGLT2阻害薬であり、傾向スコアマッチング解析ではSGLT2阻害薬の使用症例で目標達成率が11%高くなっていた。

 SGLT2阻害薬は、心血管系ベント、腎臓イベントの改善が報告されており、一部は慢性心不全、慢性腎臓病の適応も有する。

使用薬剤数別にみた降圧薬の内訳と使用薬剤数別にみた目標血圧達成累積数

出典:横浜市立大学、2023年

2剤以下の薬剤のみで血圧管理が不十分な症例が60%

 また、2021年調査では平均降圧薬数が1.7と、過去の調査に比べて減っており、ARB、α遮断薬、利尿薬の使用頻度が低下していた。

 3剤以上併用した患者はわずか13%で、2剤以下の薬剤のみで血圧管理が不十分な症例が60%に上った。薬剤を増やさないクリニカルイナーシャが大きな課題になっているとしている。

 「今回の研究により、比較的緩やかな目標値が設定されている患者では、ある程度の目標達成率が認められたことから、今後の高血圧診療向上の活動については、厳格な血圧管理が求められている患者を重点対象として活動を展開していく必要がある」と、研究者は述べている。

 「また、有効かつ合併症改善のエビデンスも有する利尿薬については、過去の使用推進活動にも関わらず、その利用が低下していた。利尿薬による副作用などが、利用の低下の主な理由と考えられるが、今後、利尿薬に代わる、カルシウム拮抗薬、ARBに次ぐ第3の有効な降圧薬を探索する必要がある。さらなる血圧管理を目指し、実臨床での調査を今後も継続していく」としている。

横浜市立大学医学部 循環器・腎臓・高血圧内科学
J-DOME(日本医師会 かかりつけ医 診療データベース研究事業)
Cross-sectional survey of hypertension management in clinical practice in Japan: the Kanagawa Hypertension Study 2021 conducted in collaboration with Japan Medical Association Database of Clinical Medicine (Hypertension Research 2023年8月2日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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