SGLT2阻害薬の腎保護作用はBMI高値の2型糖尿病患者で強まる 日本の全国コホート研究で判明 東京大学
SGLT2阻害薬の腎保護作用は、幅広いBMI(体格指数)の2型糖尿病症例に認められるが、とくにBMI高値の症例で増強することが、東京大学によるリアルワールドデータを用いた研究ではじめて示された。
「SGLT2阻害薬は、臨床試験で心腎保護効果が示され、広く使用されているが、実臨床での最適な使用方法に関しては議論が続いている。研究成果は、日本の実臨床でSGLT2阻害薬を処方する際に対象となる患者の選択の指針になると考えられる」と、研究者は述べている。
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SGLT2阻害薬の腎保護作用はとくにBMI高値の症例で増強
リアルワールドデータを用いて解析
研究は、東京大学大学院医学系研究科の神馬崇宏氏、同研究科先進循環器病学講座の金子英弘特任准教授、同研究科循環器内科学の武田憲彦教授、同研究科臨床疫学・経済学の康永秀生教授らによる研究グループによるもの。研究成果は、「European Heart Journal - Cardiovascular Pharmacotherapy」に掲載された。
SGLT2阻害薬は多くの臨床試験の結果にもとづき、日本でも糖尿病の患者に広く使われており、腎臓機能の悪化を抑止する保護作用も示されている。
一方で、臨床試験と異なる実際の臨床現場でもそのような効果は認められるのか、どのような糖尿病患者がその恩恵を強く受けられるのかは十分に解明されていない。
SGLT2阻害薬には尿中に糖を排泄する働きがあり、体重を減少させる作用が示されており、患者のBMI(体格指数)によって効き目が異なる可能性もある。
そこで研究グループは、SGLT2阻害薬の腎保護作用とBMIの関係性に着目し、実臨床データによる解析を行った。日本人の大規模健診・レセプトデータベースであるDeSCデータベースを用い、新たにSGLT2阻害薬あるいはDPP-4阻害薬を処方された2型糖尿病患者を対象に解析した。
2014~2022年の1万1,419人の2型糖尿病症例のうち、傾向スコアマッチング法を用いて、計2,165人のSGLT2阻害薬の新規使用者と4,330人のDPP-4阻害薬の新規使用者に分けて解析した。
その結果、全体として年間の推算糸球体濾過量(eGFR)低下は、SGLT2阻害薬群でDPP-4阻害薬に比べて、より緩やかであることが示された[-1.34ml/min/1.73m² 対 -1.49ml/min/1.73m²]。
さらに、BMIが高い患者ほど、SGLT2阻害薬群のeGFR低下抑制効果が強まることが示された(交互作用のp値 0.0017)。
SGLT2阻害薬群の治療効果とBMIの関係
eGFR低下はSGLT2阻害薬群でより緩やかであることが判明
BMIが高い患者ほどeGFR低下の抑制効果は強まることが示された
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腎臓アウトカムとして、「eGFRが30%あるいは40%減少する」という定義を用いた場合でも、SGLT2阻害薬の有利性は保たれ、さらに、BMIが高い患者でその効果が増強される傾向が確認された。この交互作用効果は、ベースラインの腎機能が保たれている患者でより明確に確認された。
「本研究成果は、SGLT2阻害薬が幅広いBMIの2型糖尿病患者で腎保護効果を有することを裏付けるもので、とくにBMIが高い患者でその効果が顕著であることを示している。これにより、BMIに応じたSGLT2阻害薬の使用という個別化治療が、腎機能の保護に大いに寄与する可能性が示唆される。本研究は、糖尿病治療でのSGLT2阻害薬の有用性を再確認しただけではなく、患者のBMIを考慮した処方薬選択の重要性を示している」と、研究者は述べている。
東京大学大学院医学系研究科
Effect of SGLT2i on kidney outcomes of individuals with type 2 diabetes according to body mass index: nationwide cohort study (European Heart Journal - Cardiovascular Pharmacotherapy 2025年2月3日)