SGLT2阻害薬「フォシーガ」 駆出率が保持された慢性心不全患者の心血管死・心不全悪化のリスクを抑制

2022.05.16
 アストラゼネカは、第3相DELIVER試験の結果より、SGLT2阻害薬「フォシーガ」(一般名:ダパグリフロジン)が、心血管(CV)死または心不全(HF)悪化の主要複合評価項目について、統計学的に有意かつ臨床的に意義ある抑制が示されたと発表した。

 同試験は、駆出率が軽度低下した、または保持された心不全患者(左室駆出率が40%超と定義)を対象に実施された。

第3相DELIVER試験で主要評価項目を達成 駆出率が40%超の心不全が対象

 「フォシーガ」(一般名:ダパグリフロジン)は日本では、2型糖尿病、1型糖尿病、慢性心不全*、および慢性腎臓病の治療を適応として、承認を取得している。
* フォシーガ錠5mg/フォシーガ錠10mg 添付文書5.5 (左室駆出率の保たれた慢性心不全における本薬の有効性及び安全性は確立していないため、左室駆出率の低下した慢性心不全患者に投与すること)

 DELIVER試験は、2型糖尿病の有無を問わず、左室駆出率が40%超の心不全患者の治療として、同剤の有効性をプラセボとの比較で評価するようにデザインされた、国際共同、無作為化、二重盲検、並行群間比較、プラセボ対照、イベント主導型第3相試験。

 フォシーガは、基礎治療[SGLT2阻害薬の併用を除く、糖尿病や高血圧などのすべての併存疾患に対する地域の標準治療]への追加治療として1日1回投与された。同DELIVER試験は、駆出率が40%超の心不全患者を対象に実施された最大の臨床試験であり、6,263例の患者が無作為化された。

 主要評価項目は、心血管死、心不全による入院、または心不全による緊急受診のいずれかが最初に発生するまでの期間。副次評価項目は、心不全イベント(心不全による入院または心不全による緊急受診)および心血管死の総数、8ヵ月時点でのカンザスシティ心筋症質問票の総症状スコアのベースラインからの変化量、心血管死までの期間、ならびに原因を問わない死亡までの期間など。

 心不全は慢性かつ長期的な疾患であり、時間の経過とともに悪化する。全世界で約6,400万人が罹患しており、高い罹患率と死亡率をともなうことが特徴となる。駆出率(EF)は、心臓が収縮するごとに送り出される血液量の割合の測定値。心不全は、駆出率低下をともなう心不全(HFrEF)(左室駆出率が40%以下)、駆出率が軽度低下した心不全(HFmrEF)(左室駆出率が41%~49%)、および駆出率が保持された心不全(HFpEF)(左室駆出率が50%以上)といった、複数の主要カテゴリーに分類される。

 駆出率が40%を超える心不全は、心不全の症例全体の約半数を占めており、高血圧、2型糖尿病、肥満、代謝症候群または慢性腎臓病の患者で高い有病率がみられる。しかし、この分類に該当する患者では治療可能な選択肢がないのが現状だ。

 ハーバード大学医学部およびブリガム・アンド・ウィメンズ病院の内科学教授で、第3相DELIVER試験の主任治験責任医師を務めるScott Solomon氏は次のように述べている。
 「治療の選択肢がほとんどない対象患者の集団で主要評価項目を達成できたことに、私たちは大きな喜びを感じています。DELIVER試験は、駆出率が軽度低下した、または保持された心不全を対象に現在まで実施された試験のなかで、最大規模かつもっとも幅広い患者さんを対象とした試験です。DELIVER試験の結果によって、ダパグリフロジンのベネフィットをお届けできる範囲があらゆる種類の心不全患者まで広がりました」。

 「今回の結果は、DAPA-HF試験の結果とともに、フォシーガは駆出率にかかわらず心不全の治療に有効であることを示しています。これらのデータは、糖尿病、慢性腎臓病または慢性心不全のいずれかを有する患者全体で、同剤に心腎保護作用が認められた私たちの過去の研究にもとづくものです」と、同社では述べている。

 同試験でのフォシーガの安全性および忍容性プロファイルは、これまでに十分に確立されている同剤の安全性プロファイルと一致した。

 同試験の詳細結果は、今後開催される学術集会で発表され、また今後数ヵ月以内に規制当局へ承認申請される予定としている。

 フォシーガ(ダパグリフロジン)は、1日1回経口投与のSGLT2阻害薬。同剤は、心腎疾患に対する抑制効果、ならびに心臓、腎臓および膵臓の基本的な関連性を背景に、重要な知見である臓器保護効果が示されている。

 同剤は、米国では、成人2型糖尿病での血糖コントロール改善のための食事および運動療法の補助療法として承認されたほか、第3相DECLARE-TIMI 58 CVアウトカム試験の結果にもとづき、標準治療への追加療法で、成人2型糖尿病での心不全入院および心血管死のリスク低下の適応を取得している。

 同剤はまた、第3相DAPA-HF試験および第3相DAPA-CKD試験の結果にもとづき、HFrEFの治療薬、そして、慢性腎臓病の治療薬としても承認された。同剤は、欧州連合で、成人2型糖尿病患者の食事および運動療法の補助療法として、コントロール不十分な2型糖尿病に対する単剤療法(メトホルミンが適切な場合)および併用療法の一環の適応を取得し、体重減少と血圧低下の追加的ベネフィットも認められている。さらに、同剤は、2型糖尿病の有無を問わない成人での症候性慢性HFrEFの治療薬、および2型糖尿病の有無を問わない成人での慢性腎臓病の治療薬としても承認されている。

 「DAPA Care」は、フォシーガの心血管、腎、臓器保護作用を評価する一連の臨床プログラム。終了済みおよび進行中の試験を含め3万5,000例以上の患者を対象とする35件以上の第2b/3相試験から構成されており、同剤はこれまでに250万患者年以上に処方されている。また、同剤は、現在、急性心筋梗塞(MI)または心臓発作発症後の非2型糖尿病患者を対象とした第3相DAPA-MI試験が進行中。同試験は、この種の試験でははじめてとなる適応症追加を目的としたレジストリにもとづく無作為化比較対照試験。

フォシーガ錠5mg フォシーガ錠10mg 添付文書 医療従事者向けガイド 患者向医薬品ガイド (医薬品医療機器総合機構)

Dapagliflozin in heart failure with preserved and mildly reduced ejection fraction: rationale and design of the DELIVER trial (European Journal of Heart Failure 2021年5月29日)
Dapagliflozin Evaluation to Improve the LIVEs of Patients With Preserved Ejection Fraction Heart Failure (Clinicaltrials.gov)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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