2型糖尿病患者の将来の心臓・腎臓リスクを簡単な血液検査で予測 SGLT2阻害薬により心臓合併症リスクは減少

2023.08.23
 2型糖尿病・腎臓病患者の進行性の心臓病と腎臓病のリスクを、簡便な血液検査で分かる4つのバイオマーカー[NT-proBNP、高感度心筋トロポニンT、成長分化因子-15(GDF-15)、IGFBP7]により予測できると、米国心臓学会(AHA)が発表した。2型糖尿病と腎臓病のある2,627人を対象としたCREDENCE試験の分析により判明した。

 各バイオマーカーの値は3年間の研究期間を通じて、患者の心臓および腎臓の障害の重症度を強く予測することが示されたが、SGLT2阻害薬であるカナグリフロジンによる治療により、1年後のすべてのバイオマーカー値は3%~10%の上昇に抑制された(プラセボ群では6%~29%の上昇)。

2型糖尿病・腎臓病患者の進行性の心臓病と腎臓病のリスクを簡便な血液検査で予測
SGLT2阻害薬カナグリフロジンによりバイオマーカー値は抑制

 2型糖尿病・腎臓病患者の進行性の心臓病と腎臓病のリスクを、簡便な血液検査で分かる4つのバイオマーカー[NT-proBNP、高感度心筋トロポニンT、成長分化因子-15(GDF-15)、IGFBP7]により予測できると、米国心臓学会(AHA)が発表した。2型糖尿病と腎臓病のある2,627人を対象としたCREDENCE試験の分析により判明した。

 研究は、米ハーバード大学医学部およびマサチューセッツ総合病院心臓病科のJames Januzz教授らによるもの。研究成果は、「Circulation」に8月21日に掲載された。

 CREDENCE試験は、2型糖尿病と慢性腎臓病のある患者を対象に、2型糖尿病治療薬であるSGLT2阻害薬カナグリフロジン100mgとプラセボの有効性を比較したもので、2014年~2018年に実施された。

 研究グループは、CREDENCE試験に参加した2型糖尿病と腎臓病のある2,627人の患者の血液サンプルを分析、4つのバイオマーカー[NT-proBNP、高感度心筋トロポニンT、成長分化因子-15(GDF-15)、IGFBP7]に対するSGLT2阻害薬カナグリフロジンの影響を、研究開始時、1年後、3年後に評価した。

 さまざまなレベルの腎臓障害および腎臓病または心血管疾患による死亡リスクに対する各バイオマーカーの予後値を調査し、患者を低リスク・中リスク・高リスクの3つのカテゴリーに分類した。

 リスクのもっとも最も高い群は、3年間の研究期間を通じて、進行性腎不全および心血管合併症の発症リスクが劇的に高かった。各バイオマーカーの上昇の中央値(四分位のQ1およびQ3)は、NT-proBNP[180ng/L(82~442ng/L)]、高感度心筋トロポニンT[19ng/L(12~29ng/L)]、GDF-15[2595ng/L(1852~3775ng/L)]、IGFBP7[121.8ng/mL、105.4~141.5ng/mL]となった。

 1年後にすべてのバイオマーカーはプラセボ群と比較し6%~29%上昇したが、カナグリフロジン群では上昇は3%~10%にとどまった(多変量線形混合効果モデルですべてP<0.01)

 各バイオマーカーのベースライン値は、心臓および腎臓の転帰を強く予測していた。バイオマーカーをマルチマーカーパネルで解析したところ、リスクスコアが高い患者(HR 4.01、95%CI 2.52~6.35])、および中等度の患者(HR 2.39、95%CI 1.48~3.87])では、スコアの低い患者に比較し主要アウトカムのリスクが高いことが示された。

 1年後までに各バイオマーカーの主要アウトカムと関連していたのは、NT-proBNP[HR 1.11、95%CI、1.08~1.15]、高感度心筋トロポニンT[HR 1.86、95%CI 1.64~2.10]、成長分化因子-15(GDF-15)[HR 1.45、95%CI 1.24~1.70]、IGFBP7[HR 3.76、95%CI 2.54~5.56]の50%上昇だった。

 なお、NT-proBNPは心臓から分泌されるホルモンで、日本でも心不全の補助診断マーカーとして普及している。高感度心筋トロポニンTは心筋の損傷を反映して血中に放出され、心筋障害の診断補助マーカーとなっている。GDF-15はストレスに起因して発現するストレス応答性サイトカインで、心房細動や心不全、急性冠症候群との関連が報告されている。IGFBP7はインスリン様増殖因子結合タンパク質7で、心不全とも関連している。

 「SGLT2阻害薬であるカナグリフロジンによる治療により、もっともリスクの高い患者のバイオマーカーレベルが低下し、心不全などの心臓合併症による入院リスクが減少することが示唆された。特定のバイオマーカーが高レベルを示すことは、心臓や腎臓の合併症の指標となり、将来の疾患の進行リスクを予測するのに役立つ可能性がある」と、Januzz教授は述べている。

 「現在、米国心臓学会(AHA)、米国心臓病学会(ACC)、米国糖尿病学会(ADA)のいずれも、高リスクの2型糖尿病患者を特定できるバイオマーカーの測定を推奨していることを考えると、今回の研究はバイオマーカーの範囲の拡大や精度の向上に貢献するものとなる可能性がある」としている。

 ただし今回の研究は、CREDENCE試験に参加したすべての研究者が、バイオマーカー測定に利用できるサンプルをもっていたわけではなく、バイオマーカー測定を受けた参加者が研究の母集団全体を代表していない可能性があるという限界があるとしている。

 さらに、「長期にわたるバイオマーカーデータは完全ではなく、一部の研究参加者は追跡期間中に欠損値をもっていた。2型糖尿病患者での腎臓および心臓の合併症のリスクを予測するための予後閾値は、バイオマーカーのうち2つについては特定されているが、他の2つについては予後閾値がまだ探索の段階にある」と付け加えている。

Simple blood test may predict future heart, kidney risk for people with Type 2 diabetes (米国心臓学会 2023年8月21日)
Cardiorenal Biomarkers, Canagliflozin, and Outcomes in Diabetic Kidney Disease: The CREDENCE Trial (Circulation 2023年8月21日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

糖尿病・内分泌プラクティスWeb 糖尿病・内分泌医療の臨床現場をリードする電子ジャーナル

SGLT2阻害薬を高齢者でどう使うか 週1回注射のインスリン製剤がもたらす変革 高齢1型糖尿病の治療 糖尿病治療と認知症予防
糖尿病スティグマとアドボカシー活動 糖尿病性腎症患者に対する療養支援 持続可能な糖尿病運動療法 苦労しています、服薬指導-短時間で患者の心を掴み、リスク回避! 進化する1型糖尿病診療 多職種連携による肥満治療
糖尿病と歯周病の最新エビデンス 甲状腺結節の日常臨床での取り扱い 肥満の外科治療-減量・代謝改善手術の最新エビデンス- 骨粗鬆症 脂質異常症 コレステロール低下薬 がんと糖尿病
インスリンの種類と使い方 糖尿病関連デジタルデバイスのエビデンスと使い方 糖尿病薬を処方する時に最低限注意するポイント[経口薬] インスリンポンプ・持続血糖測定器 血糖推移をみる際のポイント
糖代謝の調節機構 脂質の代謝 リン酸化によるシグナル伝達 タンパク質とアミノ酸の代謝

医薬品・医療機器・検査機器

糖尿病診療・療養指導で使用される製品を一覧で掲載。情報収集・整理にお役立てください。

一覧はこちら

最新ニュース記事

よく読まれている記事

関連情報・資料