メトホルミンの2型糖尿病を伴う脳⼩⾎管病に対する神経保護効果を確認 ⾎管内治療の適応にならない脳⼩⾎管病の治療として有用 新潟大など
メトホルミンは⾎管内治療の適応にならない脳⼩⾎管病患者の予後を改善する薬剤として有⽤
脳梗塞は、機械的⾎栓除去術などの⾎管内治療により、脳梗塞患者の機能的転帰は以前より改善しているが、ラクナ梗塞と分枝粥腫病(BAD)といった、脳梗塞のなかでも細い⾎管の閉塞による脳⼩⾎管病は、⼀般的に⾎管内治療の適応にならず、内服でも予防をするのは難しいのが現状だ。そのため、脳⼩⾎管病の機能予後を改善する治療が望まれている。
新潟⼤学などは、糖尿病患者で、脳梗塞発症前からメトホルミンを内服していると、脳⼩⾎管病を発症した際に、⼊院時の神経症状の重症度が軽減されることを明らかにした。脳梗塞発症前からのメトホルミン内服は、脳⼩⾎管病患者の退院時の機能予後を改善するとしている。
研究は、新潟⼤学脳研究所脳神経内科学分野の秋⼭夏葵氏、⾦澤雅⼈准教授、⼩野寺理教授らの研究グループが、国⽴循環器病研究センター脳神経内科の⼭城貴之氏(研究当時)、服部頼都医⻑、猪原匡史部⻑と共同で行ったもの。
メトホルミンは、2型糖尿病の治療に広く使⽤される経⼝糖尿病治療薬であり、近年では⾎糖調整作⽤に加えて、脳神経に対する保護作⽤を有し、脳⾎管障害のみならず、Long-COVIDの予防や、認知症のリスク軽減に有効であることが⽰されている。
これまでメトホルミンが脳梗塞患者の神経症状の重症度や⾎栓溶解療法後の予後を改善することが明らかになっているが、⾎管内治療の適応がない脳梗塞患者でのメトホルミンの影響や、異なる脳梗塞サブタイプでのメトホルミンの効果は明らかになっていない。
そこで研究グループは、⾎管内治療の適応がない2型糖尿病の脳梗塞患者で、脳梗塞発症前のメトホルミン治療が神経症状の重症度と退院時の症状改善に関連するか、また脳梗塞のサブタイプごとにメトホルミンの影響が異なるかを明らかにするために、新潟⼤学総合病院脳神経内科と国⽴循環器病研究センター脳神経内科に⼊院した⾎管内治療の適応とならなかった脳梗塞患者で、⼊院前からメトホルミンを含めた何らかの糖尿病薬を内服していた160⼈の臨床情報、画像データを収集し、解析を⾏った。
その結果、脳梗塞発症前のメトホルミン治療が、とくに細い⾎管が障害される脳梗塞(脳⼩⾎管病)のタイプの患者で、神経症状の重症度軽減と退院時の症状改善に関係することを明らかにした。実際に、メトホルミンを内服している患者とそうでない患者を⽐べると、⾎液中の炎症を反映する指標(好中球/リンパ球⽐や炎症性サイトカインIL-6値)が、メトホルミンを内服している患者の⽅が低く、炎症が抑えられていることが示された。
メトホルミン内服群は⾮内服群より、退院時に⽇常⽣活が⾃⽴している割合が多い
「脳梗塞発症前のメトホルミン治療が、とくに細い⾎管が障害される脳梗塞(脳⼩⾎管病)患者さんで、神経症状の重症度の軽減と退院時の症状改善に関係することを明らかにしました。このことにより、⾎管内治療の適応にならない脳⼩⾎管病患者の予後を改善する薬剤として、メトホルミンが有⽤であることが⽰されました」と、研究グループでは述べている。
今後は、脳梗塞発症前の具体的なメトホルミンの投与量や投与期間を検討することが、実際の治療のためには必要としている。メトホルミンの投与期間と投与量に関する前向き検証研究を今後の課題としている。
新潟⼤学脳研究所 脳神経内科学分野
国⽴循環器病研究センター 脳神経内科
Neuroprotective effects of oral metformin before stroke on cerebral small-vessel disease (Journal of the Neurological Sciences 2023年12⽉2⽇)