SGLT2の細胞内への糖取り込み機構を解明 糖尿病治療薬のSGLT2阻害薬の構造を解析 東大と田辺三菱製薬
SGLT2阻害薬の構造をクライオ電子顕微鏡解析で解析
SGLT2阻害薬は、腎尿細管で糖の再吸収を行うトランスポーターであるSGLT(Na+/glucose co-transporter)2を阻害し、尿糖の排泄を増加させることで血糖値を低下させる2型糖尿病治療薬。
SGLT2阻害薬は、腎近位曲尿細管のNa+/グルコーストランスポーターであるSGLT2を選択的に阻害する。SGLT2は、腎臓の近位尿細管の管腔側に選択的に発現しており、ナトリウムとグルコースを1:1の割合で共輸送することで、尿糖再吸収のおよそ90%をになっている。
東京大学大学院理学系研究科の濡木理教授と田辺三菱製薬は共同研究を行い、SGLT2タンパク質-阻害剤複合体の高分解能でのクライオ電子顕微鏡解析に成功し、糖の細胞内取り込み機構を解明することに成功した。研究成果は、「Nature Structural & Molecular Biology」に掲載された。
研究グループは、SGLT2タンパク質とさまざまなタイプのSGLT2阻害薬(4つのグリフロジン化合物と天然物フロリジン)との複合体構造を、クライオ電子顕微鏡を用いて解析した。
クライオ電子顕微鏡による単粒子解析法は、2017年にノーベル化学賞が授与された、近年注目が高まっている電子顕微鏡による構造解析の手法。
試料を含む溶液を超低温で急速凍結し、電子顕微鏡観察するもので、タンパク質などの生体分子を生理的な環境に近い状態で電子顕微鏡観察できる。従来のX線構造解析で困難だったタンパク質の構造解析が可能になり、創薬領域でも広く採用されている。
その結果、同社のSGLT2阻害薬であるカナグリフロジンを含む4つのグリフロジン化合物は、ナトリウムが結合した細胞外側に開いた構造の細胞外側にある糖結合部位に結合するのに対し、創薬の端緒となった天然物フロリジンは、ナトリウムが結合しない細胞内側に開いた構造の細胞質側の部位に結合していることを解明した。
この構造から得られた知見をもとに、同社でのトランスポーター機能解析技術による実験データを加えて考察した結果、SGLT2が糖を輸送する際に、ナトリウムが構造変化の起点となり、ナトリウムが外れることで糖の取り込みが起こることを明らかにした。
「今回の成果は、田辺三菱製薬のタンパク質を解析する高度な技術と東京大学のクライオ電子顕微鏡解析技術によって成し得た結果であり、今後はSGLT2だけでなく、同様の機構をもつトランスポーターのメカニズムの理解も進め、それらがかかわる疾患の新たな創薬につなげることを期待している」と、研究グループでは述べている。
濡木研究室 (東京大学 大学院理学系研究科 生物科学専攻)
Transport and inhibition mechanism of the human SGLT2–MAP17 glucose transporter (nature structural & molecular biology 2023年12月6日)