2型糖尿病をともなう慢性腎臓病患者でのSGLT2阻害薬の治療実態を調査 日米を含む5ヵ国の国際共同研究

2025.02.04

 SGLT2阻害薬治療を開始する患者の臨床特性や治療継続に関する実態を、日本・米国・欧州を含む5ヵ国の実臨床で調査した結果、2型糖尿病をともなう慢性腎臓病患者の治療実態は不均一であり、SGLT2阻害薬の開始時の患者背景は慢性腎臓病ステージ1~2といった軽症の割合が41~70%であり、より重症のステージ4の割合は1.6~6.7%であることが示された。

 SGLT2阻害薬による治療の継続期間も国によって異なり、日本は治療継続期間の中央値が11.9ヵ月であることが示された。

 研究は、日本では順天堂大学、川崎医科大学などの研究者が参加し、日本腎臓病協会、バイエル薬品の共同研究のもとに実施されたもの。研究成果は、「Diabetes Therapy」にオンライン掲載された。

 「得られた知見をもとに、実臨床の2型糖尿病をともなう慢性腎臓病患者の最適な治療提供に貢献できるようさらなる研究を進めていきたい」と、研究者は述べている。

SGLT2阻害薬による治療を開始する患者の臨床特性や治療継続を日米欧の5ヵ国で実態調査

 研究は、順天堂大学大学院医学研究科総合診療科学の矢野裕一朗教授、川崎医科大学の柏原直樹特任教授(同 高齢者医療センター病院長 兼 NPO法人日本腎臓病協会理事長)らによるもの。研究成果は、「Diabetes Therapy」にオンライン掲載された。

 研究グループが、日本・米国・欧州を含む5ヵ国の実臨床での、SGLT2阻害薬治療を開始する患者の臨床特性や治療継続に関する実態を調査した結果、2型糖尿病をともなう慢性腎臓病患者の治療実態は不均一であり、SGLT2阻害薬の開始時の患者背景は慢性腎臓病ステージ1~2といった軽症の割合が41~70%であり、より重症のステージ4の割合は1.6~6.7%であることが示された。

 SGLT2阻害薬による治療の継続期間は国によって異なり、日本は治療継続期間の中央値が11.9ヵ月であることが示された。

 研究グループは今回、日本で実施された「慢性腎臓病患者に関する臨床効果情報の包括的データベースの構築に関する研究」(J-CKD-DB-Ex:Japan Chronic Kidney Disease Database Extension)を用い、2型糖尿病をともなう慢性腎臓病患者でのSGLT2阻害薬の治療実態に関する国際共同観察研究を実施した。

 「本研究のように、世界各地域のデータベースを用いた国際共同研究は、各国の患者の臨床特性や治療実態を明らかにすることで、グローバルヘルスの向上に寄与する。とくに高齢化社会にともなう腎臓病が深刻な社会的課題となるなか、J-CKD-DB-Exのような全国規模のデータベースを活用することで、これらの課題解決に向けて貢献していく」と、研究者は述べている。

デンマーク、オランダ、スペイン、米国、日本の医療データベースより、SGLT2阻害薬を開始した2型糖尿病をともなう慢性腎臓病患者を特定し、臨床特性や治療継続に関する調査を実施。その結果、各国で治療実態は不均一であり、治療開始以降も中止や再開など、その内容が動的に変化していることが示された。
出典:順天堂大学、2025年

SGLT2阻害薬による治療の実態は5ヵ国で不均一 開始後も治療内容は動的に変化

 近年、SGLT2阻害薬による2型糖尿病患者の慢性腎臓病の進行を遅らせることを示す大規模臨床試験の結果(CREDENCE試験、DAPA-CKD試験、EMPA-KIDNEY試験など)が報告され、それらの結果をもとに2型糖尿病をともなう慢性腎臓病患者への新たな治療開発が進んでいる。それにより、実臨床での2型糖尿病をともなう慢性腎臓病患者の治療環境も大きく変化している。

 しかし、この近年の変化について、実態を明らかにする報告は限られている。研究グループは、こうした背景のもと、日本・米国・欧州を含む国際共同観察研究で、2型糖尿病をともなう慢性腎臓病を有し、新たにSGLT2阻害薬の治療を開始する患者の各国での臨床特性およびその後に治療継続についての実態調査であるFINEGUST研究(NCT05526157)を行った。

 研究グループは、デンマーク、オランダ、スペイン、米国、日本の医療データベースで特定された2型糖尿病をともなう慢性腎臓病を有し、2012年1月1日~2021年6月30日に新規にSGLT2阻害薬による治療を開始した患者 11万1,281例を対象に、患者背景や治療開始後の継続期間や継続率について記述的に評価を行い、5ヵ国間での実態の比較を行った。
* 日本では、2014年1月1日~2021年6月30日のJ-CKD-DB-Exのデータを使用。

 その結果、SGLT2阻害薬開始時の患者背景は慢性腎臓病ステージ1~2といった軽症の割合が41~70%で、より重症のステージ4の割合は1.6~6.7%だった。治療継続期間は国によって異なり、もっと短いオランダでは中央値で7.5ヵ月、長いスペインでは17ヵ月だった。日本の治療継続期間の中央値は11.9ヵ月だった。

 治療継続率は、デンマーク、スペイン、日本で類似した結果が得られ、開始後1年の時点で約70%の患者がSGLT2阻害薬による治療を行われていた。もっと低い米国のデータでは、1年時点で継続率は50%だった。

 これらの結果より、5ヵ国の医療データベースで、2型糖尿病をともなう慢性腎臓病患者の治療実態は不均一であり、開始後も中止や再開などその内容は動的に変化していることが示された。

 「今回の研究により、新たにSGLT2阻害薬による治療を開始する2型糖尿病をともなう慢性腎臓病患者の臨床特性や開始後の治療実態が各国で明らかになった。これらの情報は、慢性腎臓病の進行を抑制するための治療の評価を目的とした研究設計で重要な情報を提供する。本研究で得られた各国の治療実態をもとに、心血管・腎アウトカムを評価するような研究の実施を通じて、将来の新たなエビデンスの創出や治療開発につながることが期待される」と、研究者は述べている。

J-CKD-Database (我が国における慢性腎臓病患者に関する臨床効果情報の包括的データベースの構築に関する研究)
Clinical Profile and Treatment Adherence in Patients with Type 2 Diabetes and Chronic Kidney Disease Who Initiate an SGLT2 Inhibitor: A Multi-cohort Study (Diabetes Therapy 2024年12月17日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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