糖尿病治療薬のメトホルミンに減量効果 運動と同じ経路で空腹感を軽減 新しいタイプの減量薬?

2024.06.26
 血糖降下薬であるメトホルミンに、減量効果があるかは不明だったが、運動を行うのと同じ経路で空腹感を軽減する作用があることが分かってきた。

 米スタンフォード大学などは、運動後に生成される代謝産物であるLac-Phe(N-ラクトイル-フェニルアラニン)の生成を、メトホルミンが促すことで、空腹感を軽減し体重を減少させることを明らかにした。

メトホルミンの減量効果を解明 運動と同じ経路で空腹感を軽減

 メトホルミン(ビグアナイド薬)は、インスリン抵抗性改善薬として、肝臓からのブドウ糖放出の抑制および筋肉を中心とした末梢組織でのインスリン感受性を高める作用を有している。欧米の主要なガイドラインでは、長らく第一選択薬として推奨されてきた。

 これまで血糖降下薬であるメトホルミンに、減量効果があるかは不明だったが、運動を行うのと同じ経路で空腹感を軽減する作用があることが分かってきた。

 米スタンフォード大学などは、運動後に生成される代謝産物であるLac-Phe(N-ラクトイル-フェニルアラニン)の生成を、メトホルミンが促すことで、空腹感を軽減し体重を減少させることを明らかにした。

 研究は、スタンフォード大学糖尿病研究センターのJonathan Long氏やベス イスラエル ディーコネス医療センター心臓血管部門のMark Benson氏らによるもの。研究成果は、「Nature Metabolism」に掲載された。

 「メトホルミンを処方された糖尿病患者の多くは、投与を開始してから1年以内に体重が2~3%減少する。この体重減少量は、セマグルチドなどのGLP-1受容体作動薬の投与によりみられる15%以上の減量と比較すると控えめではあるものの、半世紀も使われている治療薬であるメトホルミンにより再現性のある体重減少が示されるのは興味深い」と、Long氏は述べている。

メトホルミンを投与した2型糖尿病患者では血中Lac-Pheが大幅に上昇

 Lac-Pheは、運動後に高い上昇率を示す分子で、激しい運動後に空腹感を抑える作用のある分子を探索する過程で2022年に発見された。筋肉疲労の副産物である乳酸から誘導されるラクトイルとフェニルアラニンが結合してできる代謝産物で、空腹感を軽減することが示されている。

 Long氏らは、Lac-Pheの生成と乳酸の生成のあいだに密接な関係があると考え、メトホルミンが乳酸の生成を引き起こす可能性があることから、乳酸代謝の観点から研究を行った。

 その結果、メトホルミンを投与した肥満マウスは、血中のLac-Phe濃度が上昇し、同年齢のマウスよりも食事量が少なく、9日間の期間中に体重が平均して約2g減少したことを確認。

 血糖管理のためにメトホルミンを投与した2型糖尿病患者の、服用開始前と服用開始から12週間後の血漿サンプルを分析したところ、メトホルミンを投与した患者の血中Lac-Phe濃度は、投与前と比べ大幅に上昇していた。

 さらに、アテローム性動脈硬化症に関する大規模な多民族研究に参加した、79人の被験者を対象とした解析では、メトホルミンの服用により、服用していない被験者に比べ、血中のLac-Phe濃度が大幅に高いことを確認した。

 「マウスでのメトホルミンのLac-Phe生成に対する効果の大きさは、以前に運動に関連して観察したものと同等かそれ以上だった。人間に処方する量と同等の量のメトホルミンをマウスに投与すると、Lac-Phe濃度は急上昇し、何時間も高いままだった」と、Long氏は述べている。

メトホルミンは新しいタイプの減量薬?

 研究グループはさらに研究を進め、Lac-Pheは腸管上皮細胞によって生成され、マウスのLac-Phe生成能力を阻害すると、以前に観察された食欲抑制と体重減少が消失することを確認。

 数年にわたる追跡期間中に体重が減少したアテローム性動脈硬化症患者を対象とした研究のデータ分析により、メトホルミンの投与とLac-Pheの生成、および体重減少のあいだに有意な関連性があることを明らかにした。

 「糖尿病治療薬であるメトホルミンと、短距離走のような激しい運動が、同じ経路を通じて体重に影響を与えるという事実は、奇妙であると同時に興味深い。腸上皮細胞が関与していることは、腸と脳のコミュニケーションが関連している可能性を示唆しており、他のシグナルも関与している可能性も考えられ、さらに調べる必要がある」と、Long氏は述べている。

 GLP-1受容体作動薬は注射薬だが、メトホルミンは経口薬であり、1960年代から使用されている実績のある薬剤であることを指摘。「今回の研究結果は、経口薬による薬物療法を最適化して、空腹感とエネルギーバランスの経路に作用し、体重、コレステロール、血圧をコントロールすることができる可能性を示唆している。現在私たちが目にしているのは、新しいタイプの減量薬である可能性がある」としている。

スタンフォード大学が公開しているビデオ
Exercise induces appetite-suppressing molecule

Weight loss caused by common diabetes drug tied to “anti-hunger” molecule in study (スタンフォード大学 2024年3月18日)
Metformin induces a Lac-Phe gut–brain signalling axis (Nature Metabolism 2024年3月18日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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