糖尿病薬「メトホルミン」による抗老化・死亡リスク抑制のメカニズムを解明 エピジェネティック修飾が関与か

2023.03.23
 スタンフォード大学や鳥取大学などの研究グループは、メトホルミンの抗老化、死亡率の低下などの潜在的な作用メカニズムは、エピジェネティック修飾によるものという可能性を示した。

 エピジェネティック修飾やその他の可能な作用メカニズムを明らかにすれば、メトホルミンの直接的・間接的な抗老化作用のメカニズムを解明できる可能性がある。

メトホルミンの作用メカニズムはエピジェネティック修飾によるもの?

 2型糖尿病の治療薬として広く利用されているメトホルミンの投与が、抗老化、死亡率の低下と関連していることが、前臨床モデルで繰り返し示されているが、メトホルミンがどのように寿命を延ばす可能性があるかを、生物学的観点から解明した研究は少ない。

 そこで、スタンフォード大学や鳥取大学などの研究グループは、メトホルミンの潜在的な作用メカニズムは、そのエピジェネティック修飾によるものという仮説を立て検証した。

 エピジェネティクスは、塩基配列の変化ではなく、化学的な修飾により遺伝子の発現を調節する変化の総称。これまでも、DNAのメチル化レベルなどのエピジェネティックな変化は、生物学的年齢の指標となることが示されている。

 これまでメトホルミンに、エピジェネティックな老化を逆転させる作用があり、メトホルミンに対する反応をDNAのメチル化の部位によって予測できることを示した報告が発表されている。エピジェネティクスを用いた医療技術の開発は、個別化医療が進展するなかで、注目されている。

 研究グループは今回、メトホルミン使用歴のある入院患者と、使用歴のない入院患者から採取した全血から得たゲノムワイドDNAメチル化(DNAm)データの事後分析を実施。171人の患者(1回目の実施)のと、63人の糖尿病患者のみ(2回目の実行)のそれぞれメチル化プロファイルを評価し、メトホルミン使用者と非使用者のDNAm率を比較した。

 研究グループは、京都大学化学研究所バイオインフォマティクスセンターが提供する生命システム情報統合データベース「KEGG」のデータを使用し、メトホルミンの及ぼす長寿化、AMPK、炎症経路などの作用機序に関連する経路、および老化が危険因子となるせん妄に関連するいくつかの経路を特定した。

 その結果、遺伝子オントロジー解析でのトップ ヒットにHIF-1α経路が含まれることが示された。ただし、個々のCpGサイトは、ゲノム全体で統計的有意性を示さなかった(p<5E-08)。

糖尿病群でのメトホルミン使用患者と非使用患者の年齢加速の比較

出典:Impact Journals LLC、2022年

メトホルミンの直接的・間接的な抗老化作用を解明できる可能性

 今回の研究は、スタンフォード大学医学部精神医学・行動科学などのPedro S. Marra氏、鳥取大学医学部精神行動医学分野の山梨豪彦氏、岩田正明教授らによるもの。研究成果は、「Aging」に掲載された。

 2型糖尿病の発症と進展に、遺伝子そのものの影響(ジェネティクス)と環境因子による影響が関わっており、エピジェネティクスはその遺伝因子と環境因子の相互作用に関わっていることが分かってきた。

 「今回の研究で、メトホルミン使用歴のある入院患者および、ない入院患者の、それぞれから採取した全血から得られたゲノム全体のDNAメチル化(DNAm)データの事後分析を行った」と、研究グループでは述べている。

 「エピジェネティック修飾やその他の可能な作用メカニズムを明らかにすれば、メトホルミンの直接的・間接的な抗老化作用のメカニズムを解明できる可能性がある」としている。

Metformin's impact on aging and longevity through DNA methylation (Aging 2023年2月22日)
Metformin use history and genome-wide DNA methylation profile: potential molecular mechanism for aging and longevity (Aging 2023年2月2日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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