アルツハイマー病の遺伝的リスクが高い高齢者に認知症予防プログラム教室を提供 高い改善効果を確認 国立長寿医療研究センター

アルツハイマー病の遺伝的リスクを評価するスコアを構築
認知症予防プログラムを提供 高リスク群で高い改善効果を確認
研究は、国立長寿医療研究センターの荒井秀典理事長、同研究所の新飯田俊平研究所長特任補佐らによるもの。研究成果は、「Alzheimer's Research & Therapy」に掲載された。
研究グループは、認知症リスクに対する多因子介入の効果を検討することを目的に実施されている「J-MINT研究」に参加した、日本人8,036(AD患者 3,962人+認知機能正常高齢者 4,074人)のゲノムデータを解析し、1万2,819個の遺伝子多型を用いて、アルツハイマー型認知症(AD)の発症リスクを評価するポリジェニックリスクスコア(PRS)を構築した。
PRSは、複数の遺伝子の影響を統合して、発症リスクを数値化した指標だ。J-MINT研究は、65~85歳の軽度認知障害を有する高齢者を対象とした、多因子介入プログラムの有効性を検証するランダム化比較試験。
この多因子介入は、運動、食事、認知トレーニング、生活習慣病の管理などを組み合わせた包括的な介入であり、研究では18ヵ月間、生活習慣病の管理、週1回の運動教室、栄養相談やタブレットによる認知トレーニングなどを提供した。
研究グループは、参加者を遺伝的に「高リスク群」と「低リスク群」に分類し、それぞれの認知機能の改善効果を比較した。認知機能の改善を、介入開始から6ヵ月・12ヵ月・18ヵ月の時点で評価し、改善した人数にもとづきオッズ比(OR)を算出した。
その結果、高リスク群では6ヵ月時点で有意な改善効果がみられ、とくに75歳未満の前期高齢者で顕著な改善効果が確認された。
6ヵ月時点での改善効果のORは、全体では高リスク群で3.56[95%信頼区間(CI) 1.46~9.15]になり、75歳未満(前期高齢者)でも高リスク群で3.70[同 1.12~13.00]になった。
さらに、介入効果に関連する2つの遺伝子バリアントも全ゲノム解析から得られた。
「研究で得られた知見は、個人の遺伝的リスクに応じた個別化予防戦略(プレシジョン プリベンション)の実現に向けた重要な一歩になると考えられ、予防介入の最適化や精密化に貢献することが期待できる」と、研究者は述べている。
「今後も検証を進め、より効果的かつ効率的な発症予防法を開発することで、臨床応用につながるものと期待される」としている。
研究は、日本医療研究開発機構(AMED)認知症研究開発事業、長寿医療研究開発費、長寿科学振興財団、日本学術振興会科学研究費助成事業の助成を受けて実施された。
国立研究開発法人 国立長寿医療研究センター
Genetic background and multidomain interventions in mild cognitive impairment (Alzheimer's Research & Therapy 2025年6月10日)