軽度認知障害の高齢者に対する「オンライン運動教室」は高効果 オンラインは参加率も高い 国立長寿医療研究センターなど

オンライン運動教室は対面形式と同程度の効果があることを実証
軽度認知障害の高齢者を対象としたオンライン運動教室は、対面形式の運動教室に比べて、運動強度などを高める効果が同程度にあることが、国立長寿医療研究センターなどの研究で示された。
高齢者の参加率も、オンライン運動教室は対面形式の運動教室と同程度であり、オンライン運動教室中に転倒などの事故は発生しなかった。
認知機能の低下を予防するために、中~高強度の運動を行うことが有効であるとされているが、移動が難しい高齢者や遠隔地に住む高齢者に対する運動指導は困難という課題がある。
同センターは今回、東京都健康長寿医療センターとの共同研究により、軽度認知障害(MCI)をもつ高齢者を対象に実施した18ヵ月間のランダム化比較試験「J-MINT」のデータを解析した。
研究グループは、新型コロナのパンデミック中に実施された「ビデオ通話システムを利用したオンライン運動教室」(オンライン運動教室)と、「対面形式の運動教室」(対面運動教室)の違いを解析。
その結果、2つの方法は「運動教室への参加率」については差がなく、また十分な運動時間が確保できれば、運動強度も同程度に高められる可能性があることが示された。
研究は、国立長寿医療研究センター認知症先進医療開発センター 予防科学研究部の杉本大貴氏、櫻井孝研究所長らの研究グループによるもの。研究成果は、「The Journal of Aging Research & Lifestyle」に掲載された。
東京都で開催された運動教室の運動強度の経時推移(参加者数24名)

認知機能の低下を予防する運動は十分な回数の参加と強度が必要
J-MINT研究は、65~85歳の軽度認知障害(MCI)をもつ高齢者を対象とした認知症予防のための多因子介入プログラムの効果を検証するランダム化比較試験。
介入群の参加者には、リストバンド型活動量計、タブレットPCが配布され、生活習慣病の管理、週1回の運動教室(全78回)、栄養相談(全15回)、タブレットPCを用いた認知トレーニングが提供された。
研究当時、新型コロナウイルスによる感染拡大にともない緊急事態宣言が発出され、一部地域で対面運動教室の実施が困難となり、試験の途中からビデオ通話システム(Zoom)を活用したオンライン運動教室を導入された。参加者に、タブレットPCを配布し、自宅から運動教室に参加してもらった。
運動介入により認知機能の低下を予防する効果を最大化するためには、十分な回数の運動教室への参加と、適切な運動強度の確保が重要とされる。
オンライン運動教室では、アプリケーションへの接続の難しさによる参加率の低下、自宅のスぺース確保の問題や、タブレットPCの小さな画面を見ながら運動をすることによる運動強度の低下が懸念される。
そこで研究グループは、介入群に割り付けられ、研究に最後まで参加した207人を対象に、オンライン運動教室と対面運動教室の参加率および運動強度を比較した。
運動強度は、リストバンド型活動量計を用いて、運動時の最大心拍数や安静時心拍数などから計算した。J-MINT研究では、心拍数をもとに運動強度を評価し、運動強度が40~80%になるように運動プログラムが提供された。
オンライン運動教室は参加率が高い 運動強度に有意差はなし
研究グループは、新型コロナによる感染拡大にともなう緊急事態宣言の発出期間は地域によって異なるため、愛知県と東京都で開催された運動教室を分けて比較した。
愛知県では、全78回の運動教室のうち、2回をオンラインで実施。運動教室の参加率の中央値は、対面運動教室 92%、オンライン運動教室 100%で、オンライン運動教室の方が参加率が高いことが示された[P<0.001]。
一方、運動強度の中央値は、対面運動教室 48.1%、オンライン運動教室 32.4%であり、オンライン運動教室の運動強度が低いことが示された[P<0.001]。この要因として、オンライン運動教室の初回は、適切に接続できているかの確認や、安全性・実施手順の確認に時間を要したため、十分な運動時間を確保できなかったことが考えられるとしている。
東京都では、全78回の運動教室のうち、24回をオンラインで実施。運動教室の参加率の中央値は、対面運動教室 86%、オンライン運動教室 92%であり、オンライン運動教室の方が参加率が高いことが示された[P=0.046]。
また、運動強度の中央値は、対面運動教室 51.7%、オンライン運動教室 48.8%であり、オンライン運動教室と対面運動教室で運動強度に有意差はみられなかった[P=0.279]。
第26・27回の運動教室は緊急事態宣言のため中止した。その後、研究プロトコルの修正を行い、第28~31回、37~44回、48~58回の運動教室はオンラインで実施した。また、第71回は大雪警報の影響によりオンラインで実施した。
移動が困難な高齢者や遠隔地に住む高齢者にとっても有用な選択肢に
「本研究により、MCIをもつ高齢者でもオンライン運動教室の実施が可能であり、対面運動教室と同程度の参加率を達成できることが示されました。また、十分な運動時間を確保できれば、運動強度も対面運動教室と同程度に達する可能性があることが示されました」と、研究者は述べている。
「オンライン運動教室は、移動が困難な高齢者や遠隔地に住む高齢者にとっても有用な選択肢となりえます。また、感染症流行時のみならず、災害発生時や悪天候などにより対面での運動機会が制限される場合にも、継続的な運動習慣を維持する手段としての活用が期 待されます」としている。
今後は、オンライン運動教室が認知機能の維持や向上にどのように寄与するかをより詳細に検証することが求められるとしている。
国立長寿医療研究センター研究所 認知症先進医療開発センター
Adherence and aerobic exercise intensity in live online exercise sessions for older adults with mild cognitive impairment: Insights from the Japan-Multimodal Intervention Trial for the Prevention of Dementia (Journal of Aging Research & Lifestyle 2025年)