従業員の健康と企業の利益率を向上するのに必要な10項目を特定 日本の1593社の健康経営を調査
従業員の健康と企業の利益率を向上するのに何が必要か?
健康⻑寿産業連合会の健康経営の推進ワーキンググループ(WG3)は、「健康経営」の推進をテーマに活動を推進している。
目的にしているのは、▼健康経営を通じた⽣涯現役社会の実現、▼健康寿命の延伸、▼個々の企業での従業員などの健康保持・増進、▼それを通じた⼈材の定着・確保、▼これらを推進することによる「健康寿命延伸産業」の創出・拡⼤の実現。
健康経営を実現するためのこれらの施策への取り組みが、従業員の健康状態、企業の利益率向上、医療費抑制につながると考えられる。
そこで同連合会は、これらの施策への取り組みを俯瞰的に検証するために、滋賀医科⼤学NCD疫学研究センターの⽮野裕⼀朗教授との共同研究を開始した。
従業員への健康投資が必要 健康経営と関連の⾼い10項目
日本では、企業の健康経営の取組み状況などを把握するために、経済産業省が2014年から「健康経営度調査」を⾏っている。研究グループは今回、この個票データを⽤いて、企業の健康経営施策と企業利益の関連性を検証した。
その結果、企業利益との関連性が⾼いのは、▼喫煙者の割合、▼従業員1⼈あたりの保健事業費、▼従業員1⼈あたりの医療費、▼営業職の正社員割合、▼流通・販売・サービス職の正社員割合、▼睡眠により⼗分な休養がとれている割合、▼運動習慣者の割合などであることが明らかになった。
従業員と組織での健康づくりでは、こうした項目に取り組むことで、企業利益を高められる可能性がある。健康経営に取り組み、従業員への健康投資を⾏うことは、健康的で⽣産性の⾼い労働⼒を⽣み出すことにつながる。
運動や身体活動の増加は欠勤の減少につながる
企業などの従業員の生活スタイルの健康リスク要因と、企業の利益に影響をもたらすメカニズムについては不明の点も多いものの、生活スタイルの健康リスク要因と、労働者の生産性を関連付ける研究は多く報告されている。
たとえば、運動や身体活動の増加は、健康状態の改善や、人の全体的な身体的・精神的な健康状態の向上、欠勤の減少に関連することが示されている。
職場での睡眠促進プログラム・睡眠衛生・ヨガ・身体活動・不眠症のための認知行動療法なども、従業員の睡眠時間を増加させ、その後の日中のパフォーマンスを改善することが示されている。
また、喫煙に関連する労働者の生産性の損失は、病気・障害(負担が重い症状・疾患)・喫煙休憩・職場事故の増加・アブセンティーズム・プレゼンティーズム・同僚に対する受動喫煙の影響など多数ある。
従業員の健康リスクは労働生産性や医療費に影響
「アブセンティーズム」は、心身の健康上の問題による遅刻・早退・欠勤・休職などによりパフォーマンスが上がらない状態。「プレゼンティーズム」は、欠勤にはいたっていないものの健康問題が理由で生産性が低下している状態。
日本の4つの企業(従業員数123万9,050人)を対象とした研究では、アブセンティーズムによる経済的な損失は1人あたり年間にして約7万円(520ドル)であり、プレゼンティーズムによる経済的な損失は約40万円(3,055ドル)、医療費は約15万円(1,165ドル)であることが報告されている。
「健康経営について、従業員の健康状態、アブセンティーズム、障害(負担が重い症状・疾患)、プレゼンティーズムの費用を評価することで、従業員の生活スタイル上の健康リスク要因との関連を説明するメカニズムを解明できる」と、研究グループでは述べている。
現状では、従業員の生活スタイル上の健康リスク要因と、労働生産性や医療費の関連について評価している企業は比較的少ない。また、従業員の健康リスク要因(運動不足・睡眠・喫煙習慣など)が、企業利益にどう関連しているかも十分に明らかにされていない。
さらに、従業員のライフスタイルでの健康リスク要因と、企業利益の関連を評価するときに、組織の経営理念や経営方針、制度・施策の取組、および指標に関する情報を統合した研究も必要としている。
「従業員の生活スタイル上の健康リスク要因と、企業利益に影響を与える関連性を明らかにすることで、従業員のパフォーマンスに影響を与える健康リスクを特定でき、対処できるようになる。生活習慣病領域の専門家は、より健康的で生産的な労働力を作り出すことを支援し、投資対効果を大きく改善することに寄与できるようになる」と、研究グループでは指摘している。
1,593社・436万の従業員を調査
研究グループは今回、2017年度または2018年度に⾏った健康経度調査の質問項⽬、および調査時から2020年度までの企業利益の変化率(社員1⼈あたりに換算)を使⽤した。
「勾配ブースティングによる機械学習法(GBDT)」を⽤いて、企業利益を予測するモデルを作成し、モデルに含まれた各説明変数(健康経営度調査の質問項⽬)が、企業利益にどの程度寄与したかを、SHAP値を⽤いて評価した。
対象となったは、1,593社(従業員数435万9,834⼈)で、従業員の平均年齢は40.3歳、⼥性⽐率は25.8%だった。
作成したモデルの性能評価を⾏ったところ、正解率は0.997、適合率は0.993、再現率は0.997、曲線下⾯積(AUC)は0.999だった。
The associations of the national health and productivity management program with corporate profits in Japan (Epidemiology and Health (epiH) 2022年9月23日)
滋賀医科⼤学NCD疫学研究センター
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