糖尿病性腎症と網膜症の検査治療は全国で均てん化が進む 働く世代で糖尿病合併症のリスク比は10倍超と深刻 日医総研がビッグデータを分析
インスリンまたは糖尿病治療薬のいずれかを使用している者を糖尿病治療者としたところ、その数は全体として2016年は2010年よりもやや減少したことが判明。
糖尿病合併症については、糖尿病性腎症や糖尿病性網膜症のスクリーニングの実施状況は進み、検査治療ともに均てん化の傾向がみられる。また、40~64歳の働く世代で糖尿病がある場合、脳梗塞のリスク比は11倍を超え、急性心筋梗塞のリスク比は13倍を超えた。糖尿病合併症の影響が依然として深刻であることが分かった。
「匿名レセプト情報・匿名特定健診等情報データベース(NDB)」を解析。
糖尿病治療の実態を日本全体で把握 NDBのビッグデータを解析
「匿名レセプト情報・匿名特定健診等情報データベース(NDB)」は、診療報酬請求にもとづいて年間約18億件ずつ積みあがり、4,000億レコードを超える世界最大級のReal World Dataとなっている。これを活用することで、疾患治療の実態について、日本全体の動向を把握できる可能性がある。
そこで、日本医師会総合政策研究機構(日医総研)では、健康寿命延伸のための最優先課題である生活習慣病(NCD)克服について、NDBのデータから医薬品、実施した検査、手術、指導管理の情報を用いて患者を推定し、治療動向を調査した。
糖尿病治療者数については、糖尿病用薬・GLP-1受容体作動薬・インスリンのいずれかの使用者数をみた。対象となった糖尿病治療者推定数は、2016年が男性 79万3,748人、女性 74万9,409人、うち2型糖尿病治療者は男性 68万9,190人、女性 67万8,294人。2010年が男性 102万7,568人、女性 90万9,455人、うち2型糖尿病治療者は男性 92万918人、女性 83万6,056人。
糖尿病性腎症の動向については、スクリーニングの実施状況として、尿中アルブミン、タンパク測定算定者数を都道府県別にみた。糖尿病性腎症の重症者については、人工透析管理料の算定者を集計した。糖尿病性網膜症の動向については、スクリーニングの実施状況として、精密眼底検査、汎網膜硝子体検査の算定者数を都道府県別にみた。糖尿病性網膜症の重症者については、網膜光凝固術、硝子体手術、抗VEGF(血管内皮増殖因子)薬の算定者を集計した。
脳梗塞急性期治療の動向については、rtPA・経皮的選択的脳血栓・塞栓溶解術・経皮的脳血栓回収術の実施状況から急性期治療の動向をみた。また、あわせて脳血管障害リハビリテーションを成人年齢階級でみた。急性心筋梗塞治療の動向については、冠動脈形成術、経皮的冠動脈粥腫切除術、経皮的冠動脈ステント留置術、冠動脈内血栓溶解療法、経皮的冠動脈血栓吸引術、冠動脈、大動脈バイパス移植術をみた。
その結果、糖尿病性腎症スクリーニングの実施状況は、45都府県で実施割合は高くなり、全体として均てん化が進んでいることが示された。糖尿病性腎症が重症化し人工透析に至った例は、年齢階級が上がるにつれて増加しているが、2010年と2016 年を比べると、いずれの年齢階級でもその割合は低下しており、取組みが一定の効果を上げていると考えられる。
糖尿病性網膜症のスクリーニングの実施状況は、2010年時点で実施割合の低かった県を中心に2016年には実施割合は高まり、全体として均てん化は進んでいるようにみえるが、全体として割合が高くなっているとはいえない。糖尿病性腎症のスクリーニングと異なり、糖尿病科・内科の診療には収まらず、眼科受診が必要なため、地域によっては受診困難者が増えているおそれがある。
脳梗塞急性期治療の動向については、ほとんどの都道府県で、2010年よりも明らかに2016年では急性期治療者数が増加した。その増加は2010年データが低いほど増加している傾向がみられ、均てん化が進んでいる。しかし、少なくとも回復期にリハビリテーションを必要とする者を加えた外挿数としての脳卒中治療者総数のなかでは、2016年でも2~3%台と計算される。国立循環器病研究センターでは、2015年の脳梗塞患者のうちrtPA静注療法が行われたのは6%強。
糖尿病中の脳梗塞割合は年齢階級が上がるにつれて上昇し、リスク比は年齢階級が若いほど大きく、40~64歳では11倍以上となっている。働く世代での糖尿病のコントロールの重要性を示すデータとなっている。
急性心筋梗塞治療の動向については、年齢階級が上がるにつれて急性心筋梗塞は上がっており、リスク比は年齢階級が若いほど大きく、40~64歳では13倍超となっている。働く世代における糖尿病のコントロールの重要性を示すデータとなっている。
糖尿病については、日本医師会・日本糖尿病学会・日本糖尿病協会が日本糖尿病対策推進会議を2005年に設立し、(1)かかりつけ医機能の充実と病診連携の推進、(2)受診勧奨と事後指導の充実、(3)糖尿病治療成績の向上を3つの柱として糖尿病対策を推進している。