【欧州糖尿病学会(EASD 2024)ダイジェスト1】 インスリンとGLP-1受容体作動薬の最新情報

2024.09.19
 欧州糖尿病学会年次総会(EASD 2024)が、2024年9月9日~13日にスペインのマドリードで開催された。発表された研究のダイジェストをご紹介する。

  1. 週1回投与の基礎インスリン製剤「インスリン エフシトラ アルファ」の第3相試験 2型糖尿病では
  2. 週1回投与の基礎インスリン製剤「インスリン エフシトラ アルファ」の第3相試験 1型糖尿病では
  3. チルゼパチドによる血糖管理と体重減少の目標達成と維持に関する重要な予測因子が判明
  4. セマグルチドの心血管系への効果は腎機能障害のある患者でも維持される
  5. GLP-1受容体作動薬を月1回注射に 新たな薬物送達システムを開発 服薬アドヒアランスの改善を期待
【 欧州糖尿病学会(EASD 2024)ダイジェスト 】

週1回投与の基礎インスリン製剤「インスリン エフシトラ アルファ」の第3相試験
2型糖尿病では
 開発中の週1回投与の基礎インスリン製剤「インスリン エフシトラ アルファ(insulin efsitora alfa)」の、2型糖尿病患者を対象とした第3相臨床試験で、同剤は従来のインスリン製剤と同等の効果があることが示された。研究成果は、「New England Journal of Medicine」に掲載された。
 試験では、インスリン療法をまだ開始していない(複数の経口糖尿病薬を服用しているが、血糖目標に達していない)成人患者928人を対象に、エフシトラ(週1回投与)の有効性を、インスリン デグルデク(1日1回投与)と比較。平均HbA1c値は、エフシトラ群ではベースラインの8.21%から52週目に6.97%に減少し(絶対変化 1.26%)、デグルデク群では8.24%から7.05%に減少した(絶対変化 -1.17%)。治療差は0.09%で、エフシトラの非劣性が示された。
 GLP-1受容体作動薬を投与した患者と投与しなかった患者のサブグループの比較でも、エフシトラの非劣性が示され、血糖値が目標範囲内であった時間の割合は、エフシトラ群で64.3%、デグルデク群で61.2%だった(推定治療差 3.1パーセントポイント)。エフシトラ群では重度の低血糖は報告されなかったが、デグルデク群では6件の症例が報告された。有害事象の発生率は両群で同程度だった。
 「週1回のインスリン投与は、1日1回のインスリン投与に比べて、注射の負担が軽減されるため、インスリン治療を簡素化し、治療を開始する際の障壁を減らす可能性がある。2型糖尿病の成人での基礎インスリン製剤の投与の好みを評価した最近の研究では、患者と医療従事者の両方が、現在の基礎インスリン製剤よりも週1回の基礎インスリン製剤を好むことが示されている」と、米マルチケア ロックウッド糖尿病・内分泌センターのCarol Wysham氏は指摘している。
Insulin Efsitora versus Degludec in Type 2 Diabetes without Previous Insulin (New England Journal of Medicine 2024年9月10日)

週1回投与の基礎インスリン製剤「インスリン エフシトラ アルファ」の第3相試験
1型糖尿病では
 イーライリリーが開発している週1回投与の基礎インスリン製剤「インスリン エフシトラ アルファ(insulin efsitora alfa)」の、1型糖尿病患者を対象とした第3相ランダム化非劣性試験で、同剤は従来のインスリン製剤と同等の効果があるが、低血糖の発生率が高くなるため、投与開始と最適化には注意が必要であることが示唆された。研究成果は、「Lancet」に掲載された。
 692人の参加者が、エフシトラ群(週1回投与)、デグルデク群(1日1回投与)に割り付けられ、623人(90%)が試験を完了。平均HbA1cは、エフシトラ群ではベースラインの7.88%から26週目に7.41%に減少し、デグルデク群ではベースラインの7.94%から7.36%に減少。エフシトラのデグルデクと比較したの非劣性マージンは0.4%だった。
 一方、複合レベル2(<54mg/dL)あるいはレベル3の重度の低血糖の発生率は、エフシトラの方がデグルデクよりも高く(患者1年あたり14.03件 対 11.59件)、エフシトラ群では0~52週で21%のリスク増加がみられ、0~12週でもっとも発生率が高かった。
 「1型糖尿病患者でのエフシトラの週1回投与による低血糖のリスクを軽減しながら、有効性を維持するために、エフシトラ投与開始と基礎・追加インスリンの投与の最適化を評価するさらなる研究が必要」と、米ヘルスパートナーズ研究所国際糖尿病センターのRichard Bergenstal氏は指摘している。
Once-weekly insulin efsitora alfa versus once-daily insulin degludec in adults with type 1 diabetes (QWINT-5): a phase 3 randomised non-inferiority trial (Lancet 2024年9月10日)

チルゼパチドによる血糖管理と体重減少の目標達成と維持に関する重要な予測因子が判明
 2021年に発表された第3相試験SURPASS-4で、2型糖尿病に対するGIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドの血糖効果と減量の効果は、インスリングラルギン(持効型溶解インスリン)よりも優れていることが示された。持続的な血糖管理と減量の潜在的予測因子を広範囲に調査した米ワシントン大学などによる新しい研究で、チルゼパチドを使用した1年間の治療のより良い長期的転帰の予測因子となるのは、より大きな体重減少、より​​良好なβ細胞機能、およびLDL-Cのより大きな減少であることが示された。
 SURPASS-4試験では、心血管イベントのリスクが高い、平均HbA1c 8.5%、体重 90.3kg、BMI 32.6の2型糖尿病の成人1,995人(平均年齢63.6歳、女性38%)を対象に、異なる用量のチルゼパチド(5、10、15mg)とインスリングラルギンによる治療効果を比較した。チルゼパチドの全用量で治療した参加者は、インスリングラルギンで治療した参加者よりもHbA1cが低下し、52週時点でHbA1c目標の6.5%以下を達成した患者の割合も高くなった[チルゼパチド 5mg 67%、10mg 73%、15 mg 81%]。同様に、臨床的に意味のある体重減少(10%以上)を達成した患者は、チルゼパチド 5mg 35%、10mg 52%、15mg 65%となった。

セマグルチドの心血管系への効果は腎機能障害のある患者でも維持される
 GLP-1受容体作動薬セマグルチドの、糖尿病ではない過体重あるいは肥満の成人に対する投与は、腎機能障害の有無にかかわらず、心臓発作、脳卒中、その他の主要な心血管イベント(MACE)および死亡の抑制に有用である可能性が、英エディンバラ大学などの研究で示された。
 SELECT試験には、41ヵ国804施設の過体重または肥満(BMI 27kg以上)の成人1万7,604人(45歳以上、男性72%)が登録され、平均40ヵ月間セマグルチド(2.4mg)またはプラセボの投与を受けた。対象者は心臓発作・脳卒中・および/あるいは末梢動脈疾患の既往があったが、試験参加時には1型あるいは2型糖尿病を発症していなかった。ランダム化の時点で、1,908人(11%)がeGFRが60mL/分/1.73m²未満で、2,281人(13%)は尿中アルブミン/クレアチニン比(UACR)が30mg/g以下だった。
 事前規定された分析により、セマグルチドを3年以上投与した場合、MACEあるいは心血管疾患による死亡のリスクは20%低下し、体重は平均9.4%減少したことが示された。
 「この新しい分析では、SELECT試験で腎機能が低下している患者と低下していない患者の両方で、セマグルチドによる心血管疾患の減少率は同様に高いことが分かった。腎機能が低下している患者は心血管疾患の背景リスクが高いが、結果としてセマグルチドは安全かつ効果的に、そのリスクを大幅に軽減することが示された」と、同大学MRCヒト遺伝学ユニットなどのヘレン コルホーン教授は述べている。

GLP-1受容体作動薬を月1回注射に 新たな薬物送達システムを開発
服薬アドヒアランスの改善を期待
 GLP-1受容体作動薬であるセマグルチドの投与スケジュールを月1回に短縮できる新たな薬物送達システムを開発したと、フランスのバイオテクノロジー企業であるADOCIA社が発表した。
 開発したハイドロゲル送達プラットフォームは、化学的に結合してゲルを形成し、1~3ヵ月をかけて可溶性ペプチドを緩徐・持続的に放出する2つの分解性ポリマーにより構成され、市販の注射針を使い簡単に注入できるとしている。
 in vitroの薬剤放出評価では持続的かつ一定の放出速度が示され、ラットを使った実験では1ヵ月にわたる安定した放出が確認された。炎症反応もなく、忍容性は良好としている。
 セマグルチドの週1回注射の服薬遵守率は2型糖尿病患者では39~67%、肥満症の治療で同薬を使用している患者では40%。経口セマグルチドの毎日の服薬遵守率は1年後で40%という報告がある。「GLP-1受容体作動薬は2型糖尿病と肥満症の治療を一変させたが、毎週の注射は患者にとって負担となっている。月に1回の注射で、糖尿病や肥満症の患者の服薬アドヒアランスが改善し、QOLが向上し、糖尿病合併症や副作用のリスクを軽減できる可能性がある」と、同社のClaire Mégret氏は述べている。

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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