【欧州糖尿病学会(EASD 2024)ダイジェスト2】 糖尿病合併症・インスリン抵抗性・肥満症の最新情報

2024.09.19
 欧州糖尿病学会年次総会(EASD 2024)が、2024年9月9日~13日にスペインのマドリードで開催された。発表された研究のダイジェストをご紹介する。

  1. インスリン抵抗性は30以上の病気と関連 女性では早期死亡にも関連
  2. 糖尿病合併症のある患者は歯周病リスクも高い 網膜症と神経障害の両方があると歯周炎リスクは51%上昇
  3. 糖尿病患者のインフルエンザなどの感染症リスクを減量により軽減できる可能性
  4. 2型糖尿病患者は喘息を発症する可能性は2倍近く高い 喘息患者にも糖尿病リスクが
  5. ステロイドを投与された患者は糖尿病の発症リスクが2倍以上に上昇
インスリン抵抗性は30以上の病気と関連 女性では早期死亡にも関連
 インスリン抵抗性は31種類の疾患と関連があり、女性の場合は早期死亡の確率が高いこととも関係していることが、中国の山東大学による英国バイオバンクに登録された40~69歳までの42万9,159人(男性19万8,126人、女性23万1,033人)を13年間追跡したデータの解析により示された。
 血糖値とコレステロールを含む脂質値を使用し、TyGインデックス(インスリン抵抗性の指標)との関連を調べたところ、インスリン抵抗性は、2型糖尿病(2.66倍のリスク上昇)、脂質異常症(1.61倍)、高血圧(1.21倍)、痛風(1.65倍)、虚血性心疾患(1.24倍)、肥満(1.07倍)、睡眠障害(1.18倍)、膵炎(1.31倍)、坐骨神経痛(1.1倍)、細菌感染症(1.08倍)などの発症リスクを高め、インスリン抵抗性の程度が高いほどこれらを発症する可能性は高くなることが示された。一方で、貧血、パーキンソン病、骨粗鬆症などのリスク低下とも関連することがはじめて示された。
 インスリン抵抗性と全死亡率との関連性を調べた分析では、女性ではインスリン抵抗性の指標が1上昇するごとに、期間中の死亡リスクが11%高くなることが分かった。
 「インスリン抵抗性の程度を評価することで、2型糖尿病、高血圧、心臓病、痛風、坐骨神経痛などの疾患を発症するリスクのある個人を特定できる可能性がある」と、同大学医学院山東省病院内分泌科のJing Wu氏は述べている。

糖尿病合併症のある患者は歯周病リスクも高い 網膜症と神経障害の両方があると歯周炎リスクは51%上昇
 糖尿病網膜症のある患者は、糖尿病合併症のない患者と比較し、中等度/重度の歯周炎を発症する可能性が21%高いことが、デンマークのオーフス大学歯科・口腔保健学部などが2型糖尿病患者1万5,922人(平均年齢63.7歳)を対象に実施した調査で示された。さらに糖尿病性神経障害は、重度の歯周病のリスクの36%増加と関連しており、糖尿病網膜症と神経障害の両方がある患者は、中程度/重度の歯周炎になる可能性が51%高いことも示された。
 「糖尿病が適切に管理されていない場合、高血糖により炎症が起こり、歯茎に影響し重度の歯周炎の発症につながる可能性がある。同時に網膜症や神経障害にも影響する。歯周炎はQOLを著しく低下させ、栄養、コミュニケーション、社会的交流を困難にする可能性がある」と、同学部のFernando Valentim Bitencourt氏はコメントしている。

糖尿病患者のインフルエンザなどの感染症リスクを減量により軽減できる可能性
 減量介入により、糖尿病患者のインフルエンザなどの感染症の重症化リスクを軽減できる可能性があると、英エクセター大学が発表した。BMIが高いと感染症による入院リスクは上昇し、BMIが5ポイント増加するごとに、細菌感染症で入院する可能性は30%上昇し、重症のウイルス感染の可能性は32%上昇した。
 軽度の高血糖が重症の感染症と関連していることも分かった。HbA1cが10mmol/mol増加するごとに、細菌感染症で入院する可能性は32%上昇した[HbA1c 7.0%(NGSP値)は52mmol/mol(IFCC値)に相当]。メンデルランダム化法を用いて因果関係を判定したところ。BMIが高いことは重症の細菌感染やウイルス感染の原因となることが示唆されたが、軽度の高血糖は重篤な感染症の原因にはならないことが示された。
 研究グループは今回、英国バイオバンクに登録された48万6,924人のデータを解析。うち肺炎や尿路感染症などの細菌感染症(n=6万4,005)、インフルエンザなどのウイルス感染症(n=1万4,562)による入院歴、感染症のない対照群(n=40万8,357)の3つのグループに分類した。  「糖尿病患者の入院の3分の1は感染症によるもので、糖尿病患者が感染症で入院する可能性は一般人口の2倍に上り、再入院のリスクも高い。その原因を特定できれば、糖尿病などリスクの高い患者の重篤な感染症のリスクを下げる介入を行えるようになる」と、同大学のRhian Hopkins氏は述べている。

2型糖尿病患者は喘息を発症する可能性は2倍近く高い 喘息患者にも糖尿病リスクが
 2型糖尿病の患者は、喘息を発症する可能性が高く、逆もまた同様であることが、台北医学大学の研究で示された。喘息と糖尿病には相互関係があり、喘息患者は2型糖尿病を発症する可能性が28%高く[オッズ比(OR) 1.28、95%信頼区間 1.00~1.63]、2型糖尿病患者は喘息を発症する可能性が2倍近く(83%)高いことが示された[OR 1.83、同 1.08~3.10]。
 欧米(英国、フィンランド、デンマーク、米国)、アジア(韓国、シンガポール、中国、イスラエル)などの14件の研究の50~70歳の約1,700万人のデータを解析。「高血圧や脂質異常症など、いくつかの要因が喘息と2型糖尿病の両方のリスク増加と関連している可能性も示された。2型糖尿病と診断された患者には喘息のスクリーニング、喘息と診断された患者には2型糖尿病のスクリーニングを行うことが有用である可能性がある。喘息管理のためにステロイドを全身投与することは、一時的な高血糖だけでなく2型糖尿病リスクの上昇についても検討するべきだろう」と、同大学のNam Nguyen氏は指摘している。

ステロイドを投与された患者は糖尿病の発症リスクが2倍以上に上昇
 ステロイド(グルココルチコイド)による治療を受けている患者は、治療を受けていない患者に比べて、糖尿病を発症する可能性が2倍以上高いことが、英オックスフォード大学による調査で示された。全身性グルココルチコイドを投与されている患者は、治療を受けていない患者に比べ、糖尿病を発症する可能性が2.6倍に上昇した。
 研究グループは、同大学病院NHS財団トラストに入院した45万1,606人の成人(年齢の中央値 52歳、女性 55%、白人 69%)のデータを解析。研究開始時点で全員が糖尿病を発症しておらず、全身性グルココルチコイドを使用している患者はいなかった。うち3.8%が入院中にグルココルチコイド(プレドニゾロン、ヒドロコルチゾン、デキサメタゾンなど)による治療を受け、主な治療目的は自己免疫疾患、炎症性疾患、感染症で、そのうちの1.8%が入院中に糖尿病を発症した。
 「日常的に収集される臨床データにより、臨床スタッフはより効果的に糖尿病の新規発症を検出し管理できるようになる可能性がある。今回の調査は入院患者を対象としたものだが、喘息や関節リウマチなどに対してグルココルチコイドを処方することもあり、その関連について理解することも重要となる」と、同大学糖尿病試験ユニットのRajna Golubic氏は述べている。

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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