【欧州糖尿病学会(EASD 2024)ダイジェスト3】 1型糖尿病の治療の最新情報

2024.09.25
 欧州糖尿病学会年次総会(EASD 2024)が、2024年9月9日~13日にスペインのマドリードで開催された。発表された研究のダイジェストをご紹介する。

  1. GLP-1とアミリンの長時間作用型コアゴニスト「アミクレチン」の第1相試験
  2. 飛行機での移動が1型糖尿病患者のインスリンポンプに影響
    飛行中の気圧の変化が与える影響を調査
  3. 1型糖尿病患者に対してもGLP-1受容体作動薬とGIP/GLP-1受容体作動薬は有用
  4. GLP-1受容体作動薬リラグルチドは12歳未満の肥満小児に対しても安全かつ効果的
  5. 1型糖尿病の発症リスクの高い小児がベリー類を食べると保護効果が
【 欧州糖尿病学会(EASD 2024)ダイジェスト 】

GLP-1とアミリンの長時間作用型コアゴニスト「アミクレチン」の第1相試験
 デンマークのノボ ノルディスクが開発中の「アミクレチン(Amycretin)」の、第1相臨床試験の結果が報告された。アミクレチンは、1日1回経口投与のGLP-1とアミリンの長時間作用型コアゴニスト。アミリンは、高血糖時に膵β細胞からインスリンとともに分泌されるペプチドホルモンで、グルカゴン分泌を抑制し、食物の吸収を遅らせることにより血糖値を調節する。
 単一施設、プラセボ対照、二重盲検第1相試験では、糖尿病のないBMI 25.0~39.9の成人が、最大12週間にわたり1日1回のアミクレチンあるいはプラセボを投与されるよう無作為に割り付けられた。その結果、プラセボ群の平均体重減少は平均1.1%だったのに対し、アミクレチン50mg投与群は平均10.4%減少し、最大用量の2x50mg群は13.1%の減少を達成した。アミクレチンは日本では第2相臨床試験が実施されている。

飛行機での移動が1型糖尿病患者のインスリンポンプに影響
飛行中の気圧の変化が与える影響を調査
 飛行機での移動中の高度変化が、インスリンポンプ療法を行っている1型糖尿病患者の血糖値に影響を及ぼす可能性があることが、英ロイヤル サリー カウンティ病院およびサリー大学の研究で示された。
 飛行中の大気の変化を模倣するために、欧州最大の低圧室で26台のインスリンポンプのインスリンの投与状況をシミュレーション試験したところ、充填されたインスリンカートリッジは、地上でのパフォーマンスと比較して、20分間の上昇(機内気圧の低下)により、0.60単位のインスリンを過剰に投与することが分かった。また、降下(機内気圧の上昇)により、カートリッジからインスリン投与が0.51単位減少した。
 「インスリンポンプを使用している患者は、飛行機での移動中の機内気圧の変化が、インスリン投与に潜在的な影響及ぼすことを認識しておく必要がある。上昇中に機内気圧が低下すると、気泡が発生してカートリッジから余分なインスリンが排出されるため、インスリン投与量がわずかに増加する可能性がある。降下中にも、気圧の上昇により気泡が溶解し、インスリンがポンプに吸い戻されるため、インスリン投与量がわずかに減少する可能性がある。飛行中のインスリン投与のこれらの変化が臨床的な影響を引き起こすかどうかは、個々のインスリン感受性、食事摂取量、血糖管理など、いくつかの要因によって異なる」と、同病院および同大学のKa Siu Fan氏は述べている。

1型糖尿病患者に対してもGLP-1受容体作動薬とGIP/GLP-1受容体作動薬は有用
 GLP-1受容体作動薬セマグルチドとGIP/GLP-1受容体作動薬チルゼパチドによる治療は、過体重あるいは肥満のある1型糖尿病患者の大幅な体重減少と血糖管理の改善につながることが、米コロラド大学の研究で示された。
 この後ろ向き研究では、1型糖尿病の成人100人の医療記録をレビューし、うち50人はセマグルチドを処方され、50人はチルゼパチドを処方された。セマグルチド群の84%、チルゼパチド群の100%は過体重あるいは肥満だった。対象者の年齢は40歳 対 41歳、女性が71% 対 72%、罹病期間は26年 対 27年、BMIは34 対 34、HbA1cは7.3% 対 7.3%だった。
 セマグルチド群は、体重が12ヵ月で平均9.1%(8.7kg)減少し、BMIは平均3kg/m²減少。チルゼパチド群は、体重が12ヵ月で平均21.4%(22.4kg)減少し、BMIは平均7.5kg/m²減少した。チルゼパチド群は、インスリン投与量を減らすのに成功し、12ヵ月で0.13単位/kg/日(18%)減少した。
 「セマグルチドとチルゼパチドは現状では、1型糖尿病の治療薬としては承認されていないが、その血糖降下のメカニズムの一部は、1型糖尿病の管理でも有用である可能性がある。1型糖尿病の成人患者で、過体重や肥満は増えており、そうした症状はインスリン抵抗性につながる可能性があり、血糖管理を良好に維持するのがより困難になる」と、同大学疫学部のJanet Snell-Bergeon氏は述べている。

GLP-1受容体作動薬リラグルチドは12歳未満の肥満小児に対しても安全かつ効果的
 GLP-1受容体作動薬リラグルチドは、6歳~12歳未満の肥満小児に対しても安全かつ効果的であることが、小児集団でのリラグルチドの安全性と有効性を検証した初の研究である「SCALE Kids試験」で示された。リラグルチドを投与された小児の46.2%はBMIが5%以上減少し、治療期間終了時のBMIの平均変化は、リラグルチド群では-5.8%、プラセボ群では+1.6%で、その差は7.4%だった。体重の平均変化は、リラグルチド群では+1.6%、プラセボでは+10%で、差は8.4%だった。
 試験には82人の肥満小児が参加し(53.7%が男子)、開始時の平均年齢は10歳、BMIは31.0、体重は70.2kgで、54.9%にインスリン抵抗性や思春期早発症などの肥満症関連の合併症が1つ以上あった。「小児での臨床的に意義のあるBMIの減少の定義については、まだコンセンサスが得られていないが、5%の減少は肥満に関連する健康状態の改善と関連することが示されている」と、米ミネソタ大学医学部小児肥満医学センターのClaudia Fox教授は述べている。

1型糖尿病の発症リスクの高い小児がベリー類を食べると保護効果が
 1型糖尿病の発症リスクは、小児期に果物、オート麦、ライ麦を食べると上昇するが、ブルーベリーやラズベリーなどのベリー類を食べると発症リスクは低くなることが、フィンランド保健福祉研究所の調査で示された。1型糖尿病の遺伝的感受性を持つ5,674人の小児(男児 3,010人、女児 2,664人)を、誕生から6歳まで追跡して調査し、生後3ヵ月~6歳の食事記録と1型糖尿病の発症との関連を調査。94人の小児が6歳までに1型糖尿病を、206人が膵島自己免疫をそれぞれ発症し、今後数年間で1型糖尿病を発症するリスクが高いことが示された。
 「小児糖尿病のもっとも一般的な形態である1型糖尿病の症例数は世界中で増加しており、環境要因の影響もあり、多くの食品が膵島自己免疫および1型糖尿病の発症に関連している可能性が考えられる。ベリー類には保護効果があり、1型糖尿病の発症に関連する炎症を抑えるポリフェノールが影響している可能性がある」と、同研究所のSuvi Virtanen氏は述べている。

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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