SGLT2阻害薬に貧血の抑制効果 慢性腎臓病をともなう2型糖尿病で 赤血球数を増加させる作用を確認 金沢大学など
2020.10.21
金沢大学などの研究グループは、SGLT2阻害薬「カナグリフロジン」(商品名:カナグル錠)が、慢性腎臓病をともなう2型糖尿病患者で、貧血の発症および進行の抑制に関与することを明らかにした。
SGLT2阻害薬が貧血の発症および治療介入を抑制
研究は、金沢大学附属病院検査部の大島恵医員(腎臓内科医師)、和田隆志理事(研究当時:金沢大学医薬保健研究域医学系教授)、オーストラリア・シドニーのジョージ国際保健研究所のHiddo JL Heerspink教授、Vlado Perkovic教授らの共同研究グループによるもの。研究成果は、科学誌「The Lancet Diabetes & Endocrinology」に掲載された。 今回の研究では、多施設共同ランダム化比較試験である「CREDENCE」試験の事後解析により、慢性腎臓病をともなう2型糖尿病患者で、SGLT2阻害薬の「カナグリフロジン」(商品名:カナグル錠)が血液中のヘモグロビン値を長期にわたり上昇させ、貧血の発症および貧血に対する治療介入を抑制させることが示された。 これらの結果により、「カナグリフロジン」が糖尿病性腎症患者で貧血の発症および進行のリスク低下に関与することが示唆される。今後は「カナグリフロジン」が糖尿病性腎症患者の貧血に対する治療戦略に応用されることが期待されるとしている。 糖尿病性腎症の患者で頻度の高い合併症である貧血は、腎不全および心血管疾患の危険因子として知られている。SGLT2阻害薬には、血糖降下作用ならびに腎臓および心血管の保護作用に加えて、短期的な赤血球産生の促進作用が認められている。しかし、これまで貧血に関する長期的な効果については明らかにされていなかった。SGLT2阻害薬に赤血球数を増加させる作用が
和田研究グループでは、日本の糖尿病性腎症患者での貧血管理の重要性を指摘してきた(Shimizu M, et al. Diabetes Care 2013、Furuichi K, et al. BMJ Open Diabetes Res Care 2020)。 また、オーストラリアのジョージ国際保健研究所には、日本学術振興会「頭脳循環を加速する戦略的国際研究ネットワーク推進プログラム」を通じて、同大の大島恵医員らを派遣し、これまでさまざまな国際共同研究を行ってきた。糖尿病性腎症での貧血の臨床的重要性の国際比較も課題の1つとして位置付けられている。 一方で、SGLT2阻害薬は、近位尿細管に存在するSGLT2の働きを阻害することで尿細管での糖再吸収を抑制し、尿糖排泄量を増加させる。近年の大規模臨床試験の結果から、SGLT2阻害薬の腎臓病および心血管疾患の進行抑制効果が認められている。 また、SGLT2阻害薬により血液中のヘモグロビン値およびエリスロポエチン値が上昇し、赤血球産生の促進効果を得られるという報告がある。エリスロポエチンは、腎性貧血の治療にも使用されている、赤血球の産生を促進する造血因子の1つ。多くが腎臓で産生され、腎機能が低下すると産生が低下し腎性貧血が起こる。 そこで研究グループは、糖尿病性腎症患者で、SGLT2阻害薬の長期的な貧血の発症および進行に対する効果を検討するため、慢性腎臓病を合併する2型糖尿病患者4,401名を対象に、SGLT2阻害薬「カナグリフロジン」の腎保護効果を検討した多施設共同ランダム化比較試験である「CREDENCE」試験のデータを用いて、事後解析を行った。 まず、血液中のヘモグロビン値およびヘマトクリット値に対する「カナグリフロジン」の効果を評価した。その結果、観察期間中央値2.6年間で、カナグリフロジン群ではプラセボ群に比べてヘモグロビン値が0.71g/dL(95%信頼区間0.64〜0.78g/dL)およびヘマトクリット値が2.4%(95%信頼区間2.2〜2.6%)上昇したことが明らかとなった。出典:金沢大学、2020年
これらの上昇は、SGLT2阻害薬の尿量増加作用による脱水にともなう血液濃縮の結果と解釈することもできるが、他の血液濃縮の指標である血液中の総蛋白値およびアルブミン値と変化率を比べても、ヘモグロビン値やヘマトクリット値、赤血球数の上昇率は高値だった。
以上より、SGLT2阻害薬は血液濃縮だけでなく赤血球数を増加させる作用をもつことが示唆された。
糖尿病性腎症患者の貧血に対する治療戦略への応用を期待
研究グループは次に、貧血の発症および進行に関するエンドポイントとして、治験医師により有害事象として報告された貧血の発症に加え、鉄剤やエリスロポエチン製剤、もしくは輸血といった貧血への治療介入を含めた複合エンドポイントを設定し、「カナグリフロジン」の効果を検討した。 観察期間中、573例に貧血関連の複合エンドポイントを認め、その内358例に貧血の発症を認め、343例が鉄剤、141例がエリスロポエチン製剤の投与を開始し、114例に輸血が行われた。 その結果、カナグリフロジン群では、プラセボ群と比べて貧血関連の複合エンドポイントが35%抑制された(ハザード比0.65、95%信頼区間0.55〜0.77、P値<0.0001)。 各エンドポイントでも、「カナグリフロジン」は貧血の発症を42%(ハザード比0.58、95%信頼区間0.47〜0.72、P値<0.0001)、鉄剤投与の開始を36%(ハザード比0.64、95%信頼区間0.52〜0.80、P値<0.0001)、エリスロポエチン製剤投与の開始を35%(ハザード比0.65、95%信頼区間0.46〜0.91、P値=0.012)抑制することが明らかになった。 この貧血関連の複合エンドポイントに対する効果については、年齢や性別、腎機能などの患者の背景因子で分けた層別解析でも同様の結果が認められた。出典:金沢大学、2020年
これらの結果により、「カナグリフロジン」が慢性腎臓病を有する2型糖尿病患者で貧血の発症および進行の抑制に関与することが示唆された。
「今回得られた知見により今後、カナグリフロジンが糖尿病性腎症患者の貧血に対する治療戦略に応用されることが期待される」と、研究グループは述べている。
金沢大学附属病院検査部Effects of canagliflozin on anaemia in patients with type 2 diabetes and chronic kidney disease: a post-hoc analysis of the randomised, double-blind, multicentre CREDENCE trial(The Lancet Diabetes & Endocrinology 2020年10月13日)
[Terahata / 日本医療・健康情報研究所]