インスリンに糖鎖が結合した新しい分子「グリコインスリン」の合成に成功 線維化しない新しいインスリン分子を創製 大阪大

2020.01.22
 大阪大学などの研究グループは、インスリンに糖鎖が結合した新しい分子である「グリコインスリン」の化学合成に成功した。グリコインスリンは、インスリンの機能を低下させる繊維化が起こらず非常に安定しており、インスリンと同等の機能をもつことを明らかにした。今回開発したグリコインスリンは、有望な新しいインスリン分子の候補であり、将来の臨床応用が期待される。

インスリンの機能を低下させる繊維化が起こらず極めて安定

 研究は、大阪大学大学院理学研究科化学専攻有機生物化学研究室の岡本亮講師、梶原康宏教授らの研究グループが、メルボルン大学Florey Institute of Neuroscience and Mental HealthのAkhter Hossain氏らと共同で行ったもの。研究成果は、米国化学会誌「Journal of the American Chemical Society」オンライン版に掲載された。

 インスリンはタンパク質でできた薬であり、繊維化という現象によりそのかたちが壊れやすい繊細なタンパク質分子だ。繊維化が起こると、インスリンは薬効を失う。そのため、繊維化したインスリンを廃棄し、新しいインスリン溶液を利用しなければならない。

 繊細なインスリンを、適切にインスリンポンプにより投与するために、頻繁にインスリンを含むポンプを交換する必要がある。インスリンを使用することは経済的な負担になるだけでなく、QOLの低下にも大きく関わる。インスリンの保存期間(使用可能期間)がわずか2日間から6日間に増加した場合、米国では年間10億米ドル以上を節約できるという試算もされている。このため、より安定なインスリン分子の開発が続けられている。

 大阪大学の研究グループは今回、糖鎖という分子がインスリンに結合した新しい分子である「グリコインスリン」の合成に成功した。糖鎖は体の中で、タンパク質と結合した糖タンパク質として大量に存在し、免疫などのさまざまな生命現象に関わる重要な分子だ。梶原教授の研究グループではこれまでに、高純度の糖鎖の大量調製法を開発しており、この技術を利用することで、さまざまな構造の糖タンパク質の合成が可能であることを見いだしていた。

 Hossain氏とWade教授らのグループは、独自の化学技術で合成したインスリンに対して、岡本講師が誘導化したシアル酸という糖を含む特定の構造の糖鎖を導入し、グリコインスリンを新しく合成した。
 解析した結果、このグリコインスリンは、高温のような過酷な条件下でも繊維化せず、極めて安定であることが分かった。これは、糖鎖がタンパク質の繊維化を防ぐ機能をもつことを示唆している。

 また、マウスを利用したインスリン負荷試験から、グリコインスリンは通常のインスリンとほぼ同等の機能をもっていることも明らかになった。今後、糖鎖が繊維化を防ぐメカニズムなどの詳細を明らかにすれば、グリコインスリンは非常に安定な新しいインスリン分子として、将来の臨床使用の有望な候補になることが期待される。

 「今回合成が達成されたグリコインスリンは、インスリン使用に関わる負担を軽減できる、新しいインスリン製剤を創出する可能性を秘めています。また、タンパク質の繊維化を防ぐという糖鎖の機能は、さらなる新しいタンパク質製剤創出への利用が期待されます」と、研究者は述べている。

大阪大学 大学院理学系研究科 化学専攻 有機生物化学研究室 梶原研究室
Total Chemical Synthesis of a Nonfibrillating Human Glycoinsulin(Journal of the American Chemical Society 2019年12月18日)

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