GLP-1受容体作動薬による治療がメンタルヘルス改善に関与 QOL・摂食抑制・情動的摂食の改善と関連 糖尿病と肥満症の患者を対象にメタ解析
GLP-1受容体作動薬による治療は、過体重・肥満および/または糖尿病の患者で、プラセボと比較して、うつ症状などの精神疾患症状・有害事象のリスク増加や悪化とは関連しておらず、QOL、摂食抑制、情動的摂食の改善と関連していることが、英キングス カレッジ ロンドン、オックスフォード大学、慶應義塾大学などの研究で明らかになった。
「GLP-1受容体作動薬による治療は、精神医学的観点から安全であり、精神的健康の改善につながる可能性がある。研究で得られた知見は、同クラスの薬剤の精神医学的な安全性プロファイルに対し安心材料を与えるものだ。糖尿病や肥満症とメンタルヘルスおよびQOLの低下との関連について考慮することは、これらの疾患の治療オプションを選択する際に必要となる」と、研究者は述べている。

GLP-1受容体作動薬による治療とメンタルヘルスの関連を調査
研究は、英国のNHS財団トラストおよびキングス カレッジ ロンドン精神医学・心理学・神経科学研究所およびインペリアル カレッジ ロンドン内分泌・研究医学のAureliane Pierret氏らによるもの。研究成果は、「JAMA Psychiatry」に掲載された。
研究グループは今回、10万7,860人の患者を対象とした80件のランダム化臨床試験を含むシステマティックレビューおよびメタアナリシスを実施。データソースは、MEDLINE、Embase、PsycINFO、CENTRALデータベースから、2024年6月24日まで検索した。
過体重・肥満および/または糖尿病の成人患者を対象に、GLP-1受容体作動薬とプラセボを比較し、精神、認知機能、あるいはQOLと関連するアウトカムが報告された二重盲検プラセボ対照試験が対象となった。全体の参加者の平均年齢は60.1歳(標準偏差 7.1)で、男性が6万4,608人(59.9%)、女性が4万3,251人(40.1%)だった。
その結果、GLP-1受容体作動薬による治療は、プラセボと比較して、重篤な精神疾患有害事象のリスクを有意に増やすことがなく[対数リスク比(log[RR]) −0.02、95%CI −0.20〜0.17、P =.87]、非重篤な精神疾患有害事象[log[RR] −0.03、95%CI −0.21〜0.16、P =.76]、うつ病症状の変化[標準化平均差(Hedges g) 0.02、95%CI −0.51〜0.55、P =.94]のそれぞれのリスクも増やさないことが示された。
さらに、GLP-1受容体作動薬による治療は、抑制的摂食[g 0.35、95%CI 0.13~0.57、P =.002]、情動的摂食[g 0.32、95%CI 0.11~0.54、P =.003]のそれぞれ改善と関連しており、精神的健康関連のQOL[g 0.15、95%CI 0.07~0.22、P <.001]、身体的健康関連のQOL[g 0.20、95%CI 0.14~0.26、P <.001]、糖尿病関連のQOL[g 0.23、95%CI 0.15~0.32、P <.001]、体重関連のQOL[g 0.27、95%CI 0.18~0.35、P<.001]のそれぞれの改善と関連していることも示された。
なお、対象となったのは、2型糖尿病患者が62%、過体重・肥満が29%、1型糖尿病患者が9%だった。もっとも多く使用された薬剤は、リラグルチドが30%で、次いでセマグルチドが24.7%だった。
「糖尿病や肥満症のある患者は、精神疾患の罹患リスクが高いことが知られている。一般集団と比較すると、2型糖尿病患者はうつ病になる可能性が2倍高く、1型糖尿病ではその割合がさらに高くなることが報告されている」と、研究者は述べている。
「精神疾患の併存は、糖尿病治療の遵守率の低下、血糖管理の悪化、糖尿病合併症の増加など、糖尿病患者の転帰を悪化させる。さらに、糖尿病と肥満症のある患者は認知障害のリスクも高くなる。その結果、糖尿病や肥満症のある患者はQOLが低下しやすい」。
「研究結果は、GLP-1受容体作動薬の精神医学的な安全性プロファイルに関する安心材料となり、同クラスの薬剤の使用が、既知の身体的健康の改善に加えて、精神的健康の改善にも関連していることを示唆している」としている。
今後の研究では、GLP-1受容体作動薬のメンタルヘルスへの作用が体重減少に起因するものか、それとも直接的な神経生物学的プロセスを反映したものなのかを、中枢メカニズムに対する作用を詳細に特徴付けることで明らかにする必要があるとしている。
Glucagon-like peptide 1 receptor agonists and mental health (JAMA Network 2025年5月14日)
Glucagon-Like Peptide 1 Receptor Agonists and Mental Health: A Systematic Review and Meta-Analysis (JAMA Psychiatry 2025年5月14日)