高尿酸血症・痛風の遺伝と環境の交互作用を解明 肥満・インスリン抵抗性・遺伝子が尿酸値に影響 東京科学大学など
メタボリックシンドローム(メタボ)のある人が尿酸値が上がりやすいメカニズムとして、肥満によるインスリン抵抗性の増加(環境要因)と、腎臓で尿酸を運ぶ分子の個人差(遺伝要因)の両方が関与していることを、東京科学大学と帝京大学が約37万人のビッグ データ解析などにより明らかにした。
メタボがあると、腎臓が尿酸を排泄する力が弱まり、高尿酸血症を合併しやすくなる。肥満だけでなく、食塩のとりすぎも尿酸値を上げるとしている。

肥満になるとなぜ尿酸値が上がりやすいのかを解明
研究は、東京科学大学総合研究院難治疾患研究所の高地雄太教授、帝京大学医学部内科学講座の柴田茂教授、帝京大学先端総合研究機構の藤井航特任助教が共同で行ったもの。研究成果、「Journal of Clinical Investigation」に掲載された。
高尿酸血症は、痛風を引き起こし、心臓病などのリスクを高める。血液の尿酸値が上がる原因には、両親から受け継ぐ遺伝要因(体質)と、運動不足や肥満などの環境要因(生活習慣)の両方が関わっている。これまでインスリンが効きにくくなったインスリン抵抗性があると、尿酸値が高くなりやすいことが知られていたが、その詳しいメカニズムはよく分かっていなかった。また、遺伝要因と環境要因がどのように組み合わさり尿酸値を決めるのかも不明だった。
そこで研究チームは、大規模な調査プロジェクトであるUKバイオバンクで得られた37万7,358人の遺伝情報と健康データを用い、尿酸値とインスリン抵抗性の指標、食塩摂取量との関連を解析した。また、帝京大学医学部附属病院のデータを活用し、インスリン抵抗性の程度と尿中に排泄される尿酸との関連を調査した。
さらに基礎実験では、腎臓で尿酸を輸送するURAT1(尿酸トランスポーター1)が、インスリンや塩分負荷によってどのように影響を受けるのかを調べた。URAT1は、腎臓の近位尿細管の細胞膜上にあるタンパク質で、尿中に排泄された尿酸を血液中に再吸収する役割をもつ。SLC22A12遺伝子によってコードされる。
メタボと遺伝子が尿酸値を左右する仕組みを発見
その結果、約37万人のビッグ データ解析では、インスリン抵抗性が高い人や食塩摂取量が多い人ほど、尿酸値が高くなる傾向が示された。また、URAT1の発現が多くなる遺伝型をもつ人では、インスリン抵抗性にともなう尿酸値上昇が起こりやすいことが示された。遺伝的要因と環境的要因が互いに影響し合い、表現型(形質)を決定する「遺伝子-環境間交互作用」は注目されている。同じ環境要因でも、遺伝的背景によって異なる影響を受けることがある。
さらに、帝京大学医学部附属病院のデータを用いた解析では、インスリン抵抗性が高くなると、腎臓からの尿酸の排泄が少なくなることが示され、インスリン抵抗性と高尿酸血症の関連が、腎臓の働きに由来することが分かった。
メカニズムの解明のために行った基礎研究では、インスリンや食塩過剰にともない腎臓のURAT1にリン酸化という化学修飾が加わり、その結果としてURAT1の働きが調節されて、尿酸の排泄量が減ることが示された。リン酸化は、タンパク質にリン酸基が付加される化学反応で、タンパク質の機能や活性を調節する重要な翻訳後修飾の一種だ。

一方、環境要因として、肥満によって増えたインスリンが細胞内のAKT(インスリンの信号を細胞内に伝えるタンパク質)を介してURAT1の働きを促進する。とくに、URAT1が多く作られやすい遺伝子タイプ(rs475688の特定の型)をもつ人が、肥満などでインスリン抵抗性をもつ場合には、遺伝と環境の効果が重なり合い、尿酸値がさらに上昇しやすくなる「遺伝子-環境間交互作用」が生じる。
遺伝要因と環境要因の両方が影響 個別化医療が重要
今回の研究により、腎臓で尿酸の再吸収を担うURAT1の働きが、「遺伝要因(生まれもった体質)」と「環境要因(日常の生活習慣など)」の両方によって調節されるメカニズムが解明され、メタボや肥満になるとなぜ尿酸値が上がりやすいのかが明らかになった。また、同じように体重が増えても、尿酸値の上昇の度合いがなぜ個人によって異なるのかを説明できるようになった。
「高尿酸血症や痛風の病態には遺伝要因と環境要因、そして両者の交互作用が関わっていることが明らかとなり、その予防には1人ひとりの体質に合わせた生活指導や治療が重要であることが分かった。同様の研究が進んでいくことで、個別化医療の実践につながるものと考えられる」と、研究者は述べている。
「たとえば、URAT1の働きが強まる遺伝子型をもつ人では、体重の増加とともに尿酸値も上昇しやすいため、痛風や高尿酸血症の予防のために、体重管理がより重要となる。また、食塩摂取も尿酸値の上昇と関連することから、減塩も尿酸値管理に有効である可能性が示唆された。高血圧対策としての減塩は、高尿酸血症の予防にも効果的と考えられる」。
「今回明らかにしたURAT1の調節メカニズムはヒトには存在するが、ラットやマウスには存在せず、動物の進化とともに発達してきたヒトの尿酸代謝機構が、生活習慣の変化の影響を受けやすいことを示唆している。今後は、日本人を含めたより多様な人々での検証や、他の遺伝子との交互作用の解析、さらにはURAT1のリン酸化を標的とした新たな治療法の開発などにつながることが期待される」としている。
研究成果は、日本学術振興会科学研究費助成事業、帝京大学先端総研チーム研究助成、2024年度日本痛風・核酸代謝学会若手研究助成、東京科学大学難治疾患共同研究拠点の支援により得られた。
東京科学大学 総合研究院 難治疾患研究所
帝京大学 医学部 内科学講座
Gene-environment interaction modifies the association between hyperinsulinemia and serum urate levels through SLC22A12 (Journal of Clinical Investigation 2025年3月18日)