血糖管理が不良の糖尿病患者は歯の喪失が顕著に多い 歯科メインテナンスが歯の維持に寄与 滋賀医科大学など

2025.05.14

 血糖コントロールが良好な糖尿病患者と非糖尿病患者のあいだでは歯の本数に大きな差はみられないが、血糖コントロールが不良な糖尿病患者では、歯科メインテナンスを受診していた場合でも、歯の本数が少ない傾向にあることが、滋賀医科大学などによる、20~74歳の70万5,542人を対象とした健診結果と診療データを用いた調査で明らかになった。

 「とくに血糖コントロールが不良な糖尿病患者では、歯の本数が少ない傾向がみられたことから、歯科メインテナンスの重要性に加え、医科と歯科の連携による包括的な健康管理の必要性が示唆される」と、研究者は述べている。

血糖管理が不良の糖尿病患者は歯の喪失が顕著に多い

 血糖コントロールが良好な糖尿病患者と非糖尿病患者のあいだでは歯の本数に大きな差はみられないが、血糖コントロールが不良の糖尿病患者では、歯科メインテナンスを受診していた場合でも、歯の喪失が顕著に多い傾向があることが、滋賀医科大学などの定期健康診断結果と医療機関の診療データを用いた調査で明らかになった。

 歯科受診内容別に歯の本数を比べたところ、糖尿病患者と非糖尿病患者のいずれも、歯科メインテナンス受診者に比べて、歯科治療のみを受診している人は歯の本数が少ないことも分かった。

 また歯科受診率は20代で3割、30代で4割、とくに若年層で低く、年齢が上がるにつれて徐々に増加した。

 「これらの結果は、糖尿病患者の口腔の健康を維持するためには、良好な血糖コントロールと、歯科メインテナンスの定期的な受診の両立が重要であることを示唆している。今後は、医師と歯科医師が連携を深め、患者中心の予防医療体制を強化していくことが求められる」と、研究者は述べている。

 研究は、滋賀医科大学内科学講座(糖尿病内分泌・腎臓内科) 客員准教授および鹿児島大学大学院糖尿病内分泌内科学准教授の森野勝太郎氏らによるもの。研究成果は、「Diabetology internationa」誌にオンライン掲載された。

 研究は、サンスターグループと共同で行い、ミナケアが保有する包括的な医療データおよび専門的な助言をもとに進められた。

血糖管理の良否が歯にも大きく関係
歯科メインテナンスは歯の維持に寄与

 歯の喪失を防ぐためには、歯科受診による管理(メインテナンス)が重要とされている。サンスターでは、以前よりデータベースを用いた研究を進めており、過去には口の健康管理のための歯科受診が歯の喪失の抑制と関連することを発表している。

 糖尿病患者は、歯の喪失リスクが高いことが知られており、歯科受診が推奨されているが、その実態や効果についての研究は限られている。そこで研究グループは、診療報酬明細書と定期健康診断結果を組み合わせたデータベースを活用し、歯科受診の実態や歯科メインテナンスの状況、糖尿病と歯の本数の関連を検証した。

 研究は、2015年4月~2016年3月の1年間のデータを用いた横断研究。研究グループは、複数の健康保険組合の定期健康診断受診者のうち、20~74歳の70万5,542人(平均年齢44.7歳)を対象に、歯科受診内容における実態を分析した。歯科受診内容は、期間中に発生した歯科レセプトの診療行為をもとに歯科医師が分類した。

 さらに、歯の本数や糖尿病のデータを有する40~69歳の18万5,820人(平均年齢50.0歳)を対象に、糖尿病の状態別に歯科メインテナンスと歯の本数の関連を検証した。歯科メインテナンス受診者と歯科治療のみの受診者に分けた後、糖尿病状態で分類し、年齢別に歯の本数の平均値を比較した。糖尿病の定義は、期間中に糖尿病病名(ICD-10:E10-14)が付与された医科レセプトが発生した人を糖尿病患者、さらにHbA1c≥7.0%を血糖コントロール不良者とした。

 主な結果は次の通り――。

血糖コントロール不良な糖尿病患者は歯の本数が少ない

 歯科受診内容別に歯の本数を比較したところ、糖尿病患者、非糖尿病患者のいずれも歯科治療のみの受診者はメインテナンス受診者と比べて歯の本数が少なかった。

 また、歯科受診内容と糖尿病の状態別に歯の本数を比較したところ、血糖コントロール良好な糖尿病患者と非糖尿病患者の間に顕著な違いはみられなかったが、血糖コントロール不良な糖尿病患者は、歯科メインテナンス受診者および歯科治療のみの受診者のいずれでも、非糖尿病患者と比べて明らかに歯の本数が少ないことが示された。

出典:滋賀医科大学、2025年
血糖コントロール不良者は歯科受診率が低く、歯科メインテナンス受診率も低い

 全対象者における歯科受診率は46%で、若年層ほど受診率が低く、20代では34%、30代では43%ととくに低調だった。また、歯科受診内容の内訳をみると、20代では「メインテナンスのみ」が7%、「メインテナンスと治療」が11%、「治療のみ」が16%だった。年齢が上がるにつれて「治療を含む受診」の割合が増加したが、「メインテナンスのみ」の割合に年齢による大きな差はみられなかった。

 糖尿病患者の歯科受診の傾向は、全体と大きく変わらないが、血糖コントロール不良者では、いずれの年代でも歯科受診率がとくに低く、メインテナンスを受けている割合も顕著に低いことが示された。

年代別の歯科受診の割合
HbA1cが7.0%以上の患者は歯科未受診が割合が高い
出典:滋賀医科大学、2025年

 「本研究により、歯科メインテナンスの受診が歯の本数の維持に寄与すること、さらに糖尿病患者では血糖コントロールの良否が歯の健康に大きく関係していることが明らかとなりました。とくに血糖コントロールが不良な糖尿病患者では、歯の本数が少ない傾向がみられたことから、歯科メインテナンスの重要性に加え、医科と歯科の連携による包括的な健康管理の必要性が示唆されます。口腔の健康を維持するためには、治療を目的とした受診だけでなく、予防・管理を目的とした定期的なメインテナンス受診が不可欠です。とりわけ糖尿病を有する方では、歯科医師と医師が連携し、口腔と全身の双方を視野に入れたアプローチが求められます」と、研究者は述べている。

 「本研究は、ある1年の断面をみた調査ですので、因果関係までは言えないのですが、他の研究に比較して大規模なデータにもとづいて詳細な検討を行うことができたこともあり、実態把握という点で意義のある研究だと考えています。これまでの他の研究と合わせて考えると、歯科定期受診をすることの大切さが改めて確認されたと同時に、糖尿病を有する方ではとくに重要であると言えます。若い世代の方にぜひ知ってほしいです」と、森野氏は述べている。

滋賀医科大学内科学講座 糖尿病内分泌・腎臓内科
Association among the number of natural teeth, dental maintenance visits and diabetes status: a cross-sectional study using employment-based healthcare claims database (Diabetology international February 2025年2月20日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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