糖尿病治療薬のGLP-1受容体作動薬・DPP-4阻害薬がグルカゴン応答性インスリン分泌を低下させることをリアルワールドデータで発見 岐阜大学・関西電力医学研究所など
インクレチン関連薬(GLP-1受容体作動薬・DPP-4阻害薬)がグルカゴン応答性インスリン分泌を低下させる
関西電力医学研究所/関西電力病院/岐阜大学の共同グループの共同グループは、インクレチン関連薬(GLP-1受容体作動薬・DPP-4阻害薬)の2型糖尿病治療での使用が、1mgグルカゴン静脈負荷試験によるグルカゴン応答性インスリン分泌を低下させることを、世界ではじめて明らかにした。研究成果は、米国糖尿病学会(ADA)の機関誌「Diabetes」で公開された。
1mgグルカゴン静脈負荷試験は、糖尿病患者のインスリン分泌能を評価するために行われる検査で、グルカゴン1mgを静脈内投与し、その6分後の血中Cペプチドの濃度変化を測定することで、残存するβ細胞の機能を評価できる。とくに、インスリン分泌がどれだけ刺激されるかをみることで、糖尿病の進行度や治療の効果を確認するために用いられる。
研究グループはこれまで、2型糖尿病患者へのGLP-1受容体作動薬の投与を開始する際、グルカゴン負荷試験によるインスリン分泌評価が有用であることを報告している。
グルカゴン負荷試験は、膵臓からのインスリン分泌能力を血糖値に左右されずに評価でき、1型糖尿病と2型糖尿病の鑑別や、治療薬剤の選択で臨床的に有用な検査としている。
これまでグルカゴン負荷試験の機序として、膵β細胞でグルカゴン受容体が発現しており、直接刺激でインスリン分泌促進シグナルの増幅経路が活性化されると考えられていた。しかし近年、グルカゴンはグルカゴン受容体のみならずGLP-1受容体をも介してインスリン分泌を示すことが、基礎研究で報告されており注目されている。
今日の臨床では、インクレチン関連薬のひとつであるDPP-4阻害薬が広く使われており、さらにGLP-1受容体作動薬の使用も増え、7割近くの2型糖尿病患者に使用されている。
この状況をふまえ、インクレチン関連薬を使用している状態でのグルカゴン負荷試験は、膵β細胞機能を正しく評価できているのか否かを明らかにする必要があるとしている。
そこで研究グループは今回、同研究所でこれまで蓄積した多数例の解析によって、インクレチン関連薬を使用している群では、ルカゴン静脈負荷試験によるグルカゴン応答性インスリン分泌が明らかに低いことを示した。
このことから、グルカゴン負荷試験によるインスリン分泌促進は、グルカゴンがGLP-1受容体を介したシグナルを刺激している可能性がヒトでも確認された。
つまり、DPP-4阻害薬やGLP-1受容体作動薬を使用することで、GLP-1受容体そのものあるいはその下流でのシグナルが、グルカゴン刺激に対して抑制的な状態があると考えられるとしている。
糖尿病は、インスリン分泌の不足とインスリン抵抗性によって引き起こされる慢性疾患であり、その病態の評価には精緻なインスリン分泌能の評価が不可欠だ。とくに、日本を含む東アジアでの2型糖尿病は、肥満によるインスリン抵抗性よりも、β細胞機能の低下によるインスリン分泌低下が病因として特徴づけられ、インスリン分泌能の評価は治療方針の決定において重要となる。
「詳細なメカニズムについては今後さらに検討が必要だが、本研究によってインクレチン関連薬を使用している群におけるグルカゴン負荷試験では、インスリン分泌能の過小評価が懸念され、結果の解釈には十分注意が必要であることが示された」と、研究グループでは述べている。
インクレチン関連薬(GLP-1受容体作動薬・DPP-4阻害薬)がグルカゴン応答性インスリン分泌を低下させることをリアルワールドデータで発見 (岐阜大学 2024年9月6日)
Glucagon Stimulation Test and Insulin Secretory Capacity in Clinical Assessment of Incretin-Based Therapy for Diabetes (Diabetes 2024年8月28日)