SGLT2阻害薬「ジャディアンス」の左室駆出率が低下した心不全の成人患者への治療に対して医薬品委員会が肯定的見解を発表

2021.06.09
 ベーリンガーインゲルハイムとイーライリリー・アンド・カンパニーは、欧州医薬品庁(EMA)の医薬品委員会(CHMP)が、左室駆出率が低下した症候性の慢性心不全(HFrEF)の成人患者の治療薬として、SGLT2阻害薬「ジャディアンス(一般名:エンパグリフロジン)」を推奨する肯定的見解を与えたことを発表した。

左室駆出率が低下した症候性慢性心不全を有する患者にとって新たな治療オプションに

 この肯定的見解は、ジャディアンスが心血管死または心不全による入院の複合リスクを有意に25%低下させることを示したEMPEROR-Reduced試験の結果にもとづいている。この結果は、糖尿病合併または非合併の左室駆出率が低下した心不全(HFrEF)の成人患者でみられた。

 主要評価項目の結果は、2型糖尿病合併の有無にかかわらず、サブグループ間で一貫していた。試験の重要な副次評価項目の解析から、ジャディアンスは心不全による入院の初回および再発のリスクをプラセボと比較して30%低下させるとともに、腎機能の低下を有意に遅らせることが示された。

 EMPEROR-Reduced試験は、包括的に心腎代謝疾患の患者でのジャディアンスの影響を研究するEMPOWER臨床試験プログラムの一部。

 両社は、EMPOWERプログラムを策定し、幅広い心腎代謝疾患での心血管および腎臓の主要な臨床アウトカムに対するジャディアンスの影響を調べている。

 8つの臨床試験と2つのリアルワールドエビデンス研究から構成されるEMPOWERプログラムは、心腎代謝疾患の患者の予後向上を目指す両社のアライアンスによる長期的な取り組みとなる。世界で40万人以上の患者が参加している同プログラムは、これまでにSGLT2阻害薬について実施された臨床試験プログラムのなかでもっとも幅広く包括的なものだとしている。

 EMPEROR慢性心不全の臨床試験プログラムは、現在心不全の標準治療を受けている2型糖尿病合併または非合併の左室駆出率が保持された慢性心不全(HFpEF)患者、または左室駆出率が低下した慢性心不全(HFrEF)患者を対象に、ジャディアンスの1日1回投与による治療をプラセボと比較検討する以下の2つの第3相無作為化二重盲検試験で構成されている。

 EMPEROR-Reduced試験では、左室駆出率が低下した慢性心不全(HFrEF)患者でのジャディアンスの安全性と有効性を評価した。主要評価項目は、判定心血管死または判定HHF(心不全による入院)の最初の事象までの時間。患者数は3,730人で、2020年に完了した。

 EMPEROR-Preserved試験では、左室駆出率が保持された慢性心不全(HFpEF)患者でのジャディアンスの安全性と有効性を評価した。主要評価項目は、判定心血管死または判定HHF(心不全による入院)の最初の事象までの時間で。患者数は5,989人で、2021年に完了する。

 欧州では、心不全は65歳以上の主な入院原因となっている。心不全は、心臓発作においてよくみられる重篤な合併症であり、心臓が全身に十分な血液を送り出せない場合に生じる。心不全患者では、息切れや疲労感が生じることが多く、QOLに大きな影響を及ぼす。

 EMPERORプログラムの治験医師を務めた、フランス・ロレーヌ大学の治療学名誉教授であるFaiez Zannad氏(M.D., Ph.D.)は、次のように述べている。
 「心不全は、進行性の衰弱性疾患であり、世界で6,000万人が罹患しています。欧州では、入院の主な原因となっており、患者さんの生活の質(QOL)に大きな影響を及ぼすだけでなく、医療制度に対しても大きな負担となっています。欧州委員会から承認されれば、ジャディアンスは、左室駆出率が低下した症候性慢性心不全を有する欧州の多くの患者さんにとって、新たな重要な治療オプションとなります」。

 なお、ジャディアンスは現在、血糖コントロール不十分な成人2型糖尿病患者の治療薬として承認されている。日本でのジャディアンス錠の効能・効果は2型糖尿病であり、心血管イベントおよび慢性心不全、腎臓病のリスク減少に関連する効能・効果は取得されていない。

Jardiance summary of opinion (post authorisation)(欧州医薬品庁(EMA) 2021年5月)
Cardiac and Renal Outcomes With Empagliflozin in Heart Failure(New England Journal of Medicine 2020年10月8日)
Improving care for patients with acute heart failure. Before, during and after hospitalisation(Oxford Health Policy Forum)
Empagliflozin Outcome Trial in Patients With Chronic Heart Failure and a Reduced Ejection Fraction - EMPEROR-Reduced(American College of Cardiology 2021年4月14日)

ジャディアンス錠10mg ジャディアンス錠25mg 添付文書 (医薬品医療機器総合機構)

ベーリンガープラス(日本ベーリンガーインゲルハイム)
日本イーライリリー

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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