1型糖尿病患者にSGLT2阻害薬を投与 腎機能と血糖管理の改善と高い安全性を確認 DKAリスク軽減の患者教育を実施

2024.07.24
 SGLT2阻害薬を1型糖尿病の若年患者に投与すると、腎機能と血糖管理を改善でき安全性も高いことが、米国で実施されたATTEMPT試験で明らかになった。

 低用量のSGLT2阻害薬の投与により、GFRの直接測定値が改善し8.44ポイント低下した。HbA1cも0.48%と大幅に低下した。

 「低用量のSGLT2阻害薬を1型糖尿病の若年患者に安全に投与することで、腎機能と血糖管理を改善できることが実証された。腎症などの合併症を含めた1型糖尿病の管理を最適化する方法を検討するうえで重要だ」と、研究者は述べている。

低用量のSGLT2阻害薬を1型糖尿病患者に投与
糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)リスク軽減のための患者教育も実施

 低用量のSGLT2阻害薬を1型糖尿病の若年患者に投与すると、腎機能と血糖管理を改善でき安全性も高いことが、米国で実施されたATTEMPT試験で明らかになった。

 研究の詳細は、6月にフロリダ州オーランドで開催された第84回米国糖尿病学会学術集会(ADA 2024)で発表された。

 ATTEMPT(The Adolescent Type 1 Diabetes Treatment with SGLT2i for Hyperglycemia & Hyperfiltration)試験は、12~19歳の1型糖尿病の若年患者を対象に、22週間のインスリンとSGLT2阻害薬(ダパグリフロジン)の併用が、糸球体濾過量(GFR)と血糖管理に及ぼす影響を検討した多施設共同・二重盲検・ランダム化・プラセボ対照試験。

 1型糖尿病は、米国で20歳未満の35万2,000人の小児・若年患者に影響を与えている。糖尿病は腎臓病の最大の原因であり、糖尿病患者に対する腎症予防策と介入の必要性が浮き彫りになっている。ADAでは、1型糖尿病の小児患者の65%は、年齢を重ねるにつれて慢性腎臓病(CKD)の発症につながる腎臓合併症を経験する可能性があるとしている。

 カナダのトロント大学などが実施した同試験では、1型糖尿病患者を対象にインスリンと低用量SGLT2阻害薬を22週間投与し、糸球体濾過率(GFR)、血糖管理(HbA1c)、安全性について直接測定して、詳細な腎メカニズムの評価を行った。

 研究グループは、SGLT2阻害薬群(n=106)にダパグリフロジン5mgを1日1回、プラセボ群(n=62)にはプラセボを22週間投与した。参加者の年齢は12~17歳で、全員が1型糖尿病でインスリンを使用し、約70%がインスリンポンプを使用していた。平均BMIは25、平均HbA1cは7.7%だった。

 その結果、低用量のSGLT2阻害薬の投与により、GFRの直接測定値が改善し8.44ポイント低下した。HbA1cも0.48%と大幅に低下した[P=0.001]。

 なお、SGLT2阻害薬の懸念される副作用として糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)がある。DKAはインスリン欠乏や作用不足などにより起こる、高血糖、高ケトン血症、アシドーシスをきたした状態。初期症状として、悪心・嘔吐、全身倦怠感、腹痛、過度な口渇、呼吸困難、意識障害などが発現する。

 SGLT2阻害薬群では、プラセボ群に比較し、有害事象、ケトン体レベルの大幅な上昇、低血糖、泌尿生殖器感染症を経験した患者の割合に有意差は示されなかったもの、軽度のDKAが1例(n=1)みられた。

 DKAの発生率は低く、SGLT2阻害薬群ではプラセボ群に比較して、血中ケトン体レベルの軽度の上昇は多くみられたものの、その値は抑えられていた[0.6mmol/L以上、P<0.001]。これは、研究中に実施された患者中心のDKAリスク軽減の教育戦略の成果としている。

 「この研究により、低用量のSGLT2阻害薬を1型糖尿病の若年患者に安全に投与することで、腎機能と血糖管理を改善できることが実証された。腎症などの合併症を含めた1型糖尿病の管理を最適化する方法を検討するうえで重要だ」と、研究主任研究者であるトロント大学小児内分泌学のFarid Mahmud氏は述べている。

 「心血管疾患(CVD)は1型糖尿病における早期死亡の主な原因であり、糖尿病関連の腎臓病はCVDと死亡のリスクと関連している。SGLT2阻害薬には腎臓保護作用があるため、1型糖尿病の初期段階での使用は腎障害を軽減し、慢性腎臓病への進行を遅らせることにつながると期待される」としている。

 ATTEMPT試験は、DKAのリスクを効果的に軽減するプロトコルにもとづき設計されており、DKAリスク軽減のための患者教育が行われた。これらの薬剤が臨床で広く使用されるようになる前に、そのリスクについて慎重に考慮する必要があると指摘している。

 日本でも2018年に、一部のSGLT2阻害薬が成人1型糖尿病患者でのインスリン製剤との併用療法として適応が取得されたが、ケトアシドーシスのリスク増加が報告され、2022年にはSGLT2阻害薬を服用中の1型糖尿病患者の在宅での血中ケトン体自己測定が可能となった。

 日本糖尿病学会の『SGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation』でも、「1型糖尿病患者の使用には一定のリスクが伴うことを十分に認識すべきであり、使用する場合は、十分に臨床経験を積んだ専門医の指導のもと、患者自身が適切かつ積極的にインスリン治療に取り組んでおり、それでも血糖コントロールが不十分な場合にのみ使用を検討すべきである」と記載されている。

 またMahmud氏は、同試験は1型糖尿病の補助療法のさらなるベネフィットをより良く理解するのに役立つものだが、「今後も長期の研究を行う必要がある」としている。

 同試験は、JDRFカナダによって支援され、カナダ保健研究機構(CIHR)、患者中心の研究戦略(SPOR)の提携により実施された。

Common Type 2 Diabetes Drug Shown to Safely Reduce the Progression of Kidney Disease in Adolescents with Type 1 Diabetes (米国糖尿病学会 2024年6月24日)
ATTEMPT trial shows kidney, glycemic benefits for SGLT2 inhibitor in adolescents with type 1 diabetes (米国糖尿病学会 2024年7月11日)
Adolescent Type 1 Diabetes Treatment With SGLT2i for hyperglycEMia & hyPerfilTration Trial (ATTEMPT) (ClinicalTrials.gov)

糖尿病治療におけるSGLT2阻害薬の適正使用に関するRecommendation (日本糖尿病学会)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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