血中ケトンを「迅速」に「定量」できることをご存じですか? 糖尿病ケトアシドーシス(DKA)における救急時の迅速診断と経過観察に有用

2020.07.29

提供:LifeScan Japan株式会社

DKA患者さんの代謝状態をよく反映する血中ケトン測定がその場で行える

[Q]POCTによる血中ケトン測定を導入されてから、臨床はどのように変わったのでしょうか
田中
 スタットストリップは、主にベッドサイドでの高精度の血糖測定を目的として導入しましたが、現在では、血中ケトン測定の頻度も高くDKA治療にも寄与していると感じています。
 従来の尿中ケトン測定では、測定対象がアセト酢酸であり、臨床の状態と一致しないことが多いのです。また採血して血中総ケトンを測るとなると、一般的に結果が分かるまで1週間程度を要します。DKAが治ってから結果が分かっても意味がありません。このため現状では血中総ケトンはそれほどDKAの診断や治療の役には立っていない可能性があります。
 今回のスタットストリップの導入で、患者さんの代謝状態をよりよく反映する血中ケトン(3-ヒドロキシ酪酸)の値がその場で分かるようになり、大きな意義を実感しています。
 ケトン体にはアセト酢酸、ヒドロキシ酪酸、アセトンの3種類があります(図1)。アセトンはすぐに蒸発し、アセト酢酸はクリニック等でも定性的に測定しますが、DKAの診断にはあまり有用ではありません。病態に関係するのは3-ヒドロキシ酪酸であり(図2)、これをPOCTで定量できることに関して、有用だと考えています。

図1 3種類のケトン体
図1 3種類のケトン体
●田島敬也. ケトン体(β-ヒドロキシ酪酸)による腎保護作用のメカニズム
図2 異なるケトン体とDKAの病態との関係
図2 異なるケトン体とDKAの病態との関係
●Lori Laffel, Improving Outcomes with POCT for HbA1c and Blood Ketone Testing.
Journal of Diabetes Science and Technology. January 2007. Volume 1, Issue 1

DKAの不適切な治療は生命に関わるため迅速に高精度な検査結果が求められる

[Q]DKAの診断や経過を観察するために必要な検査とは何でしょうか
田中
 臨床現場でDKAの診断や経過観察を行うには、迅速に高精度な結果が出る血中ケトン測定が不可欠です。いくら測定精度が高くても数日かかるのでは意味がありません。
 糖尿病診療ガイドラインでは、以下の通りです(図3)。実際のDKAの診断について紹介しましょう。一般的には、高血糖があり、意識レベルが低い、また消化器症状がある場合には、血液ガス分析で重炭酸イオンの低下を診ます。15mmol/Lを診断基準としますが、実際のDKAでは重炭酸イオンが5mmol/Lになっている場合が多いようです。
 高浸透圧高血糖症候群(高血糖昏睡)のように、血糖が高いだけならそれほど心配ありませんが、DKAでは酸性のケトンを生成して身体に危険な状況を招くことがあります。不適切な治療は生命に関わるため、当院ではDKAの患者さんはICUで1時間おきに血糖を測定し、点滴とともにインスリンの経静脈投与により治療します。DKAで緊急入院する外来患者さんは1~2ヵ月に1人ほどの頻度で、1型や未治療の患者さんに多い傾向です。若い患者さんもいらっしゃいます。

図3 糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)の診断
図3 糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)の診断
●糖尿病診療ガイドライン2019

時間単位で変化する病態を把握するにはPOCTによる測定が適している

[Q]実際にPOCTで血中ケトン測定を行った症例について教えてください
田中
 52歳・男性の症例をご紹介します。嘔気・嘔吐を主訴にクリニックを受診され、HbA1c12.5%、血糖値760mg/dLで、すぐに紹介で当院に来られました。来院時には意識状態が悪く、尿中ケトンは3+、血液ガスではpH7.27、重炭酸イオン5.6mmol/LとDKAの状態でした。この時もし血液ガス分析装置がない場合には、その代わりに血中ケトン測定を行えば良いのです。実際にPOCTで測定すると5.9mmol/Lでした(図4)。
 この患者さんには、インスリンを経静脈的に投与し、昼に治療を始めて夕方には血糖450mg/dL、血中ケトン4.3mmol/L。翌日には血糖200mg/dL、血中ケトン2.5mmol/L。翌々日には血中ケトンが0.1mmol/Lにまで減少しました。
 この患者さんのように、ケトン値は日単位だけではなく時間単位でも下がっていくはずですが、従来の臨床では迅速な測定データが得られず経時的な変化を確認できませんでした。それがPOCTにより可能になったわけです。ただ課題として、現在のガイドライン等に目指すべきケトン値の基準の記載がなく、治療の判断が難しいという側面が残されています。

図4 血中の3-ヒドロキシ酪酸値によるDKA判断例
図4 血中の3-ヒドロキシ酪酸値によるDKA判断例
●MANAGED Care The Importance of Blood Ketone Testing in Diabetes Management Dec. 17, 2003

クリニックでも大規模・急性期病院でも患者さんの迅速・適切な対応に貢献

[Q]クリニックと大規模病院・急性期病院には、POCT導入によりどのようなメリットがあるでしょうか
田中
 重要なこととして、例えばクリニックに血液ガス分析装置がなくても、スタットストリップのような小型で初期投資の少ない血中ケトン測定器があれば(図5/6)、DKAを疑うことができるという点でしょう。クリニックでケトン値が高い場合は、救急病院に搬送したほうがいいのですが、高血糖でもケトン値が高くない場合、点滴とインスリン投与を行いながら少し経過観察し、順調に下がれば「明日、大きい病院に行きましょう」と伝えれば済みます。クリニックでこの判断ができることはまさに革新的なことなのです。
 一方、大規模病院、救急病院でのメリットも明らかです。当院では、救急で意識が低下した患者さんには、全例POCTでケトンを測っています。意識障害のある患者さんの血糖を測るのは救急医療の基本ですが、当院では同時に血中ケトンも測ります。当初救急室に測定を依頼した際も、特別な手間もかからないので問題なく測定することができました。今では救急の先生や看護師も、血中ケトン測定の有用性に気づき、臨床活用に興味を持ってくれるようになりました。

図5 スタットストリップ エクスプレス製品仕様
図5 スタットストリップ エクスプレス製品仕様
図6 スタットストリップ ケトン テストストリップ
図6 スタットストリップ ケトン テストストリップ
●Ceriotti 2015. Comparative Performance Assessment of Point-of-Care Testing Devices for Measuring Glucose and Ketones at the Patient Bedside
●Kost G. Tran NK, Louie RF, Gentile NL Abad V. Assessing the performance of handheld glucose testing for critical care. Diabetes Technol Ther. 2008 Dec:10(6):445-51
●Karon BS et al: Impact of Glucose Meter Error on Glycemic Variability and Tlme in Target Range During Glycemic Control After Cardiovascular Surgery. 2016. Journal of Diabetes Science and Technology. Vol. 10(2) 336-342

SGLT2阻害剤の投与患者さんでは患者さんと医療者双方の安心に役立つ

[Q]SGLT2阻害剤を投与されている患者さんにおいて留意されていることはありますか
田中
 SGLT2阻害剤は1型適応が拡大され、当院でも多くの患者さんが使用されています。しかし血糖が減少することにより血中ケトンが増えることが知られています。特に糖質制限を行っている患者さんはケトンが出やすいようです。
 当院では、SGLT2阻害剤を使用し、ルーチン検査の尿中ケトンが陽性の患者さんは、スタットストリップで積極的に血中ケトンを測っています。他に、風邪気味や脱水などシック状態の患者さんも測るようにしています。POCTでモニタリングすることにより、「内服薬を飲んでも大丈夫ですよ」と伝えることができます。
 SGLT2阻害剤を内服している患者さんは、副作用に関してしっかり説明されているので、怖いと感じている場合もあります。そのようなときに迅速に測定し、「ケトンは0.1mmol/Lなので問題ありませんよ」と言えると、患者さんも医療者も双方が安心して薬物治療に取り組むことができます。DKAを疑ってもいないのに血中ケトンを測定するということは、従来は考えられなかったことです。
 また経験的に、単純なSGLT2阻害剤投与患者さんや、糖質制限の患者さん、また尿中ケトン陽性患者さんの血中ケトン濃度は大まかには分かっていますが、今後より正確なデータを得られることが不可欠だと考えています。

POCTは高精度で測定範囲が広い 医療安全の面からもメリットは大きい

[Q]改めてスタットストリップの有用性について感じておられることを教えてください
田中
 入院中の患者さんは、様々な干渉物質や薬剤の関係で、体が酸性やアルカリ性になったり、極端に高血糖や低血糖になったりする場合があります。これらの状況からSMBGではなかなか正確な血糖値の把握はできず(図7)、より高精度な測定を行う必要があります。また救急の現場では600mg/dL以上の高血糖も想定され、より測定範囲が広いことが求められます。例えば搬送時に900mg/dLであった血糖値が、1時間後に730mg/dLまで下がったことを確認する必要もあります。いちいち採血して検査室で測る時間の余裕はありません。
 いざという時にスタットストリップがあることで、その場で値を把握できます。
 また医療安全の面から、院内の患者さんの血糖測定は、患者さん向けのSMBGではなく本来採血するべきです。そこで医療施設向けのより高い精度が求められるPOCTがあれば、信頼性の高いデータを得ることができます(図8)。この点ではメーカー側の啓蒙を期待したいところでもあります。

図7 POCTとSMBGの違い
図7 POCTとSMBGの違い
PMDA: 独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 RCB: 第三者登録認証機関
図8 POCTガイドライン
図8 POCTガイドライン

今後、DKAと血中ケトン値に関するエビデンスの蓄積が待たれる

[Q]スタットストリップなどPOCTに関して、今後のご期待について教えてください
田中
 周術期管理の際にケトンを測定することも検討してほしいですね。特に1型に近い患者さん、要するにインスリン依存状態の患者さんに関しては、血糖に加えてケトンも見えていたほうがいいと思います。
 また院内測定を目的としたPOCTが、病院だけではなくクリニックレベルでももっと普及してほしいと思います。クリニックでは、高次医療機関に搬送するときのエビデンスとしても有用です。尿中ケトン陽性くらいでは送りにくいかもしれませんが、「血中ケトンが4mmol/Lでした」などの情報提供ができれば、お互いの共通言語として明確な有用性が認められます。
 SMBGでもケトン測定が可能な機種が存在しますが、干渉物質の影響下などでは、POCTによるケトン測定の方が精度が高いと聞きます。ケトンが高く出る時というのは、体に異常を来たして酸性になっていますので、医療施設向けで精度の高いPOCTで測ったほうがいいでしょう。
 また現状では血中ケトン値に関して、医学的に根拠のある基準というものはまだ存在していません。ですのでSMBGでセルフモニタリングの目的で頻繁に血中ケトンを測定することの意義に関しては、まだ検討すべき課題だと思います。
 POCTによる血中ケトン測定の臨床活用は、まだ端緒についたに過ぎません。DKAの患者さんにおいて血中ケトン値がどのように推移し、いかに臨床に役立てることができるのか、医療従事者とメーカーによるデータの蓄積が欠かせないでしょう。当院でもDKAの患者さんには、血中ケトン測定を1日4~5回行いますので、今後そのデータを蓄積していきたいと思います。その先には、血中ケトンがいくつ以下になったら症状は改善されたと判断できるかなどの基準が分かってくるのではと期待しています。
 今後エビデンスを重ねて、糖尿病医療における根拠あるPOCT活用につなげていきたいと考えています。

糖尿病・内分泌内科の皆様
病院2

スタットストリップによる血中ケトン検査の様子
病院2

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フリーダイヤル: 0120-113-903(営業時間:24時間365日)

発行元

LifeScan Japan株式会社
〒103-0022 東京都中央区日本橋室町3-4-4 OVOL日本橋ビル2F
https://www.onetouch.jp

販売名:スタットストリップ エクスプレス グルコース ケトン 届出番号:13B1X10094005013
    一般医療機器 特定保守管理医療機器 乾式臨床化学分析装置
販売名:スタットストリップ グルコース テストストリップ 届出番号:13A2X10071002010
販売名:スタットストリップ ケトン テストストリップ 届出番号:226AAAMX00158000

製造販売元:ノバ・バイオメディカル株式会社 東京都港区三田3-13-16 三田43MTビル
販売元: LifeScan Japan株式会社 東京都中央区日本橋室町3-4-4 OVOL日本橋ビル2F

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