SGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬の心腎保護効果の違いを明らかに 2型糖尿病患者の肥満やアルブミン尿に着目したメタ解析

2021.12.08
 横浜市立大学は、2型糖尿病患者での肥満およびアルブミン尿の有無や、2種類の糖尿病治療薬(SGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬)がもたらす、心臓と腎臓に対する臓器保護効果との関係を比較した研究を発表した。

 肥満のある2型糖尿病患者では、GLP-1受容体作動薬は、プラセボを用いた患者に比べ、心血管イベント(心筋梗塞や脳卒中など)のリスクを有意に減少させたが、SGLT2阻害薬は、有意に減少しないことを明らかにした。

 また、SGLT2阻害薬は、アルブミン尿の有無を問わず、GLP-1受容体作動薬より2型糖尿病患者の腎イベント(腎機能悪化、透析導入、マクロアルブミン尿など)を有意に抑制したが、心血管イベントのリスク低減効果には差がないことを明らかにした。

SGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬の多面的な作用を調査

 研究は、横浜市立大学医学部循環器・腎臓・高血圧内科学教室の畝田一司医師、川井有紀医師、山田貴之医師(ピッツバーグ大学留学中)、涌井広道准教授、金口翔助教、小豆島健護助教、田村功一主任教授らの研究グループによるもの。研究成果について、「Scientific Reports」(肥満に関する研究結果)、および「Diabetes Research and Clinical Practice」(アルブミン尿に関する研究結果)に掲載された。

 2型糖尿病は、心血管疾患、慢性腎臓病、死亡などの重要な危険因子であり、さらに2型糖尿病での肥満やアルブミン尿の存在は、心血管疾患や慢性腎臓病のリスクを高め、2型糖尿病患者の予後を左右する重要な要素となっている。

 SGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬は、ともに比較的新規の糖尿病治療薬であり、利尿作用・血圧低下・抗肥満作用など、多面的な作用を有している。近年2剤の心腎保護効果も多くの研究で示されるようになり、米国糖尿病学会(ADA)では、GLP-1受容体作動薬およびSGLT2阻害薬を、動脈硬化性心血管疾患や腎疾患のある2型糖尿病患者の第一選択薬として推奨している。

 しかし、肥満やアルブミン尿などの危険因子の有無に着目して、2剤の心腎保護効果を比較した調査はまだ進んでいない。

そこで研究グループは、Pubmed、Embase、Cochrane Libraryで文献検索を行い、2型糖尿病患者を対象に治療群(SGLT2阻害薬またはGLP-1受容体作動薬)とプラセボ群で肥満・アルブミン尿の有無に応じて心血管イベントまたは腎イベントのリスクを比較した結果を含むランダム化比較試験を用いて、ネットワークメタ解析を行った。

肥満合併2型糖尿病患者では、GLP-1受容体作動薬が心血管疾患を抑制
2型糖尿病患者ではアルブミン尿合併の有無にかかわらず、SGLT2阻害薬は腎保護効果を発揮

 肥満に着目した解析では、肥満のサブグループ解析のデータを含む12の研究で10万2,728人の患者を対象とした。

 その結果、肥満合併の2型糖尿病患者では、GLP-1受容体作動薬はプラセボに比べ心血管疾患のリスクが有意に減少していた(リスク比(RR) 95% CI:0.88[0.81-0.96])。一方、SGLT2阻害薬は減少傾向にとどまっており(RR 95% CI:0.91[0.83-1.00])、さらに、GLP-1受容体作動薬はSGLT2阻害薬に比べ心血管疾患のリスクに有意な差はなかった(RR 95% CI:0.97[0.85-1.09])。

肥満に着目した心保護効果

出典:横浜市立大学医学部、2021年

 アルブミン尿については、9つの研究から8万1,206人の患者を対象とした。

 その結果、アルブミン尿の合併例・非合併例ともに、SGLT2阻害薬はGLP-1受容体作動薬に比べ心血管疾患のリスクの減少はみられなかった(RR 95%CI:それぞれ0.96[0.82-1.12]および0.94[0.81-1.10])。

 一方、SGLT2阻害薬は、GLP-1受容体作動薬に比べ、アルブミン尿の合併例・非合併例ともに、腎イベントのリスクが有意に低下していた(RR 95%CI:それぞれ0.75[0.63-0.89]および0.59[0.44-0.79])。

アルブミン尿に着目した心・腎保護効果

出典:横浜市立大学医学部、2021年

2剤の薬剤効果を直接的に比較した調査に期待

 これらから、肥満合併2型糖尿病患者では、GLP-1受容体作動薬が心血管疾患を抑制する可能性が示された。また、2型糖尿病患者で、アルブミン尿合併の有無にかかわらず、SGLT2阻害薬はGLP-1受容体作動薬に比べて腎保護効果を発揮することが示唆された。

 今回の研究は、2型糖尿病患者ではじめて肥満およびアルブミン尿の有無に着目し、心血管イベント・腎イベントの低減効果をSGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬で比較したもの。

 SGLT2阻害薬とGLP-1受容体作動薬はどちらも血糖コントロール以外の多面的な効果をあわせもつことから、広く心血管・腎疾患のリスクのある患者に対して使用されるようになってきたが、良剤を直接比較した研究はまだない。

 「今回の研究では、肥満とアルブミン尿という心血管疾患・腎疾患でのリスク因子に着目して間接的に2剤を比較しました。今後も直接的な薬剤効果の比較を含めた、より効果的な2剤の使い分けに関する調査が進むことが期待されます」と、研究グループでは述べている。

横浜市立大学医学部循環器・腎臓・高血圧内科学教室
Systematic review and meta-analysis for prevention of cardiovascular complications using GLP-1 receptor agonists and SGLT2 inhibitors in obese diabetic patients(Scientific Reports 2021年5月13日)
Comparison of effects of SGLT2 inhibitors and GLP-1 receptor agonists on cardiovascular and renal outcomes in type 2 diabetes mellitus patients with/without albuminuria: a systematic review and network meta-analysis(Diabetes Research and Clinical Practice 2021年11月12日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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