Vol.19 ガイドライン改訂を踏まえ 「高齢者糖尿病」のケアを見直そう
関東労災病院 糖尿病・内分泌内科 前部長
浜野 久美子 先生
高齢者糖尿病では個人差が大きい
高齢者糖尿病では、脳梗塞などの動脈硬化性疾患や、フレイル・サルコペニア、認知症などの老年症候群を抱えていることが多くあります。またそのような状況では低血糖リスクの上昇やポリファーマシーなどが起きやすく、それがまた糖尿病や併存疾患を悪化させる悪循環となります。改訂ガイドラインでは、このような状態を「multimorbidity(多疾患併存症)」として注意が必要としています。また、この「multimorbidity」は均一ではなく個人差が大きいため、患者個々の状態に応じた治療を行うことが重要です。
患者の状態に応じた血糖管理目標の設定
前述の背景から高齢者糖尿病では、患者の認知機能、ADL、併存疾患・機能障害からみた健康状態・特徴から3つのカテゴリーに分け、年齢、重症低血糖リスクが危惧される薬剤の使用の有無に基づきHbA1cの目標値を設定することが推奨されています。カテゴリーの判断についてはこれまで「DASC-21」という質問票が用いられていましたが、改訂ガイドラインでは、質問項目を簡便化し外来で使いやすくした「DASC-8」が新しく掲載されました。ぜひご活用をお願いします。
「サルコペニア肥満」への対応
改訂ガイドラインでは、新しく「サルコペニア肥満」が提唱され、高齢者糖尿病では頻度が高くなるとしています。また、単純な肥満と比較して転倒や死亡のリスクが高いことが報告されています。肥満というとエネルギー制限をしないといけないと思われるかもしれませんが、むしろサルコペニアへの対策として十分なたんぱく質摂取とレジスタンス運動を含めた食事運動療法を行うことが望ましいとされています。また腎症の場合も、腎機能低下が軽度であるうちはたんぱく質制限は推奨されず、サルコペニア対策が優先されます。
インスリン療法の単純化
インスリン療法をしている高齢糖尿病患者では、頻回の注射が負担となり、アドヒアランス低下の要因となり得ます。その対策として、改訂ガイドラインでは「インスリン療法の単純化」が挙げられています。具体的にはメトホルミン、SGLT2阻害薬などの非インスリン製剤を追加することで追加インスリンの減量または中止を図ります。実際に血糖管理状況を悪化させずに低血糖を低減させたとの報告が複数あり、患者個々の状態を鑑みて判断する必要がありますが、もしインスリンの注射回数などが負担になっている患者がいれば、一度担当医師や患者本人と相談していただければと思います。
高齢者糖尿病のサポート制度と多職種連携
高齢者糖尿病では要介護の患者も多くなりますが、改訂ガイドラインでは地域包括ケアを中心としたサポート制度に関する項目が追加されました。地域によって利用できるサービスに違いがある場合がありますが、具体的には訪問栄養指導、訪問薬剤指導、訪問看護などが挙げられます。何が利用できるかは患者の居住地域の地域包括支援センターに問い合わせるとよいでしょう。
前述の通り、高齢者糖尿病は一様ではなく、患者個々の状態に対応するためには、医師、看護師だけでなく、管理栄養士、薬剤師などの医療スタッフ、また上記のような地域の介護職など、多職種での連携が大事となってくると思います。この機会に、目の前の患者には何が必要で、どういった連携が必要かを考えてみていただければと思います。