脳内アミノ酸トランスポーターの機能異常により肥満やインスリン抵抗性を誘発 岐阜大学
神経細胞のアミノ酸トランスポーターLAT1の不活化が肥満を誘発
アミノ酸は、タンパク質合成の材料としての受動的な働きだけではなく、シグナル伝達分子として能動的に働いている。
脳の視床下部では、神経細胞がアミノ酸を含むさまざまな栄養素を感知・統合し、内分泌系や自律神経系を介して、体温、血圧、摂食、生殖、睡眠・覚醒などの多様な生理機能を精密に調節している。
アミノ酸シグナルの開始には、細胞膜上にあるアミノ酸トランスポーターを介したアミノ酸の細胞内流入が欠かせない。
アミノ酸トランスポーターのひとつであるLAT1(L-type amino acid transporter 1)は、ロイシンやイソロイシンなどの分岐鎖アミノ酸を細胞内へ輸送している。
岐阜薬科大学と岐阜大学は、は今回、神経細胞のアミノ酸トランスポーターLAT1の不活化が、肥満を誘発することを発見し、LAT1が、脳内アミノ酸バランスを感知し、体重コントロールに重要な役割をになっていることをはじめて明らかにした。
視床下部神経細胞のLAT1の働きを抑えると、交感神経系の不活化を介して、肥満やインスリン抵抗性などが誘発されることを確かめた。
LAT1は、mTORC1(mechanistic target of rapamycin complex-1)経路を介して、全身エネルギー代謝を調節していることも突き止めた。
脳内アミノ酸トランスポーターが、肥満やメタボリックシンドロームに対する新しい治療標的となることが期待されるとしている。
視床下部神経細胞のLAT1が脳内アミノ酸バランスを感知 全身のエネルギー代謝を調節
研究グループは今回、まず遺伝子改変マウスを用いて、視床下部神経細胞のLAT1はどのような機能をになっているのかを検討。視床下部神経細胞特異的にLAT1を欠損させたマウス(LAT1欠損マウス)を作製し、その表現型の解析を行った。その結果、LAT1欠損マウスは、肥満やインスリン抵抗性などのさまざまな代謝異常を呈した。
次に、なぜ視床下部神経細胞のLAT1の働きを抑えると、さまざまな代謝異常を呈するのかを明らかにするため、代謝異常に先駆けて起こる変化を詳細に解析した。その結果、LAT1欠損マウスでは、肥満を呈する前から、交感神経系の不活化が認められるとともに、視床下部神経細胞でのレプチン抵抗性が確認された。
最後に、視床下部神経細胞のLAT1がどのようなメカニズムで全身エネルギー代謝を調節しているのかを検討。組織学的解析から、LAT1欠損マウスの視床下部神経細胞では、mTORC1経路が不活化していることが分かった。さらに、遺伝学的なmTORC1経路の活性化によって、LAT1欠損マウスで観察されるさまざまな代謝異常が著明にレスキューされることも分かった。
研究は、岐阜薬科大学薬理学研究室の深澤和也助教、岐阜薬科大学薬理学研究室・岐阜大学大学院連合創薬医療情報研究科・岐阜大学高等研究院One Medicineトランスレーショナルリサーチセンター(COMIT)の檜井栄一教授らの研究グループが、米ノースウエスタン大学、金沢医科大学、金沢大学、名古屋市立大学、国立障害者リハビリテーションセンター、東京医科歯科大学、米国国立衛生研究所(NIH)と共同で行ったもの。研究成果は、「JCI insight」に掲載された。
「本研究成果より、視床下部神経細胞のLAT1は、脳内アミノ酸バランスを感知し、mTORC1シグナル経路を介して交感神経系を調節することで、全身エネルギー代謝調節に重要な役割を果たしていることが明らかになりました」と、研究グループでは述べている。
「本研究成果は、肥満センサーとしての脳内アミノ酸トランスポーターという新しい概念を提供するとともに、栄養素の感知・統合による中枢性の体重コントロールに対し、新たなエビデンスを付与するもので。研究成果を展開することで、肥満やメタボリックシンドロームに対する革新的治療法の提供につながることが期待されます」としている。
岐阜薬科大学 薬理学研究室
L-type amino acid transporter 1 in hypothalamic neurons in mice maintains energy and bone homeostasis (JCI insight 2023年3月2日)