糖尿病でペプチド分解酵素「DPPIII」が心・腎保護作用を発揮するメカニズムを解明 滋賀医科大学
糖尿病はさまざまな合併症を引き起こし、とくに心臓や腎臓への障害は致命的となることがある。研究成果を糖尿病合併症の新たな治療の開発に発展できる可能性がある。
免疫補体ペプチド2が糖尿病による心臓、腎臓への障害を悪化
研究は、滋賀医科大学生化学・分子生物学講座(分子病態生化学部門)の扇田久和教授らによるもの。
研究グループはこれまでに、高血圧モデルマウスで、ペプチド分解酵素である「ジペプチジルペプチダーゼIII(DPPIII)」が血圧降下機能を発揮することを見出していた。しかし、糖尿病でのDPPIIIの役割については不明だった。
そこで今回の研究で、DPPIIIを糖尿病モデルマウスに投与した場合の効果について検討した。DPPIIIを糖尿病マウスの静脈内へ投与すると、血糖値の変化はみられなかったものの、糖尿病による心臓、腎臓への障害が軽減した。
次に、DPPIIIがどのような血中ペプチドを分解してこの軽減作用を発揮しているかを、血中の全ペプチドを対象にしたペプチドミクス解析を行って調べた。
その解析過程で、糖尿病マウスの血中で増加しているペプチドの中から3つまで候補(ペプチド1、ペプチド2、ペプチド3)を絞り、最終的に、免疫機能に関わる補体C3の一部分に相当する「ペプチド2」(9アミノ酸で構成)が、DPPIIIによって2アミノ酸と7アミノ酸の2つに速やかに分解されることを発見した。
さらに、ペプチド2は血管の内側を覆う内皮細胞の表面に発現する受容体と結合してアナフィラキシー様作用をもたらすことや、それに応じて血管透過性が高まり炎症細胞などの遊走が増加することを見出した。
その結果、炎症細胞などが過剰に心臓、腎臓に蓄積しやすくするなどの悪影響が生じ、糖尿病による心臓、腎臓への障害をさらに悪化させることが示唆された。
DPPIIIによってペプチド2を分解したり、ペプチド2が受容体を介して細胞内シグナル伝達機構を活性化する経路を遮断すると、この悪影響は抑制された。
これにより、DPPIIIが臓器障害を起こす血中のペプチド2を分解して心・腎保護作用を発揮するメカニズムを、主に、糖尿病マウスを活用することで明らかにした。
「今後は、この成果を新たな糖尿病合併症治療開発に発展できればと考えています」と、研究者は述べている。
滋賀医科大学生化学・分子生物学講座(分子病態生化学部門)
Cardio- and reno-protective effects of dipeptidyl peptidase III in diabetic mice(Journal of Biological Chemistry 2021年5月8日)