日本の2型糖尿病患者の1%が「寛解」 "体重減少が大きい"などが条件 JDDMの4.8万人の臨床データを解析
日本人でも2型糖尿病患者の1%が「寛解」
約4万8,000⼈のビッグデータを分析
「糖尿病を発症すると、⼀⽣付き合わなければならない(治らない)」と⾔われているが、実際には、いったん2型糖尿病と診断され、治療を開始した患者であっても、⾷事療法、運動療法をはじめとした⽣活指導や、⼀時的な薬物療法、肥満外科⼿術、あるいはそれらの組合せによる減量などを通して、⾎糖値が正常近くまで改善し薬剤が不要な状態(糖尿病の「寛解」)となるケースが経験されている。
⽇本⼈では、どの程度の2型糖尿病患者が「寛解」しているのか、またどのような患者が「寛解」しやすいのか、さらにはどのような⼈が⻑期間にわたり「寛解」状態を維持できるかについては明らかにされていない。
そこで新潟⼤学の研究グループは、糖尿病データマネジメント研究会(JDDM)が保有する⽇本全国の糖尿病専⾨施設に継続して通院している糖尿病患者約4万8,000⼈の⻑期間の臨床データを解析した。
その結果、約1%の患者で2型糖尿病が「寛解」していたことをはじめて明らかにした。主な研究成果は次の通り――
- ⽇本⼈の2型糖尿病患者の約100⼈に1⼈が寛解し、寛解の頻度は、1年間の減量幅が5〜9.9%の患者で2.5倍、10%以上の患者では5.0倍、それぞれ増加していた。
- ▼2型糖尿病と診断されてからの期間が短い、▼HbA1c値が低い、▼BMIが⾼い、▼1年間の体重減少が⼤きい、▼薬物治療を受けていない患者で寛解する傾向がみられた。
- 1年間の減量幅が5%以上の人では、寛解後に再発する傾向が低かった。逆に、体重が増加した⼈では再発が起こりやすい傾向が示された。
研究は、新潟⼤学⼤学院医⻭学総合研究科⾎液・内分泌・代謝内科学分野の藤原和哉特任准教授、曽根博仁教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Diabetes, Obesity and Metabolism」に掲載された。
⼀⽅、罹患期間が5年未満、HbA1c値が8.0%以上、1年でBMIが増加、薬物治療中の場合、寛解発⽣割合は0.5%未満となった。
2型糖尿病の寛解にいたる可能性の⾼い患者の特徴は?
研究グループは今回、全国の糖尿病専⾨施設に通院中で、登録時に寛解の状態ではなく、HbA1c値や体重を継続的に測定されている18歳以上の2型糖尿病患者4万7,320⼈を対象に、1989年~2022年に寛解(薬物治療を中⽌され、HbA1c値6.5%未満が3ヵ月以上継続)したかを追跡して調査した。その後、寛解が1年間続いたかを判定し、「寛解」や「寛解後の再発」と関連する要因を検討した。
その結果、追跡期間(中央値)5.3年に3,677⼈が寛解にいたり、その頻度は1,000⼈を1年追跡すると10.5⼈(約1%)となった。
観察開始時の患者の特徴を詳細に検討した結果、(1) 男性、(2) 40歳未満、(3) 糖尿病と診断されてから1年未満、(4) HbA1c値7.0%未満、(5) BMIが⾼値、(6) 1年間の減量幅が5%以上、(7) 薬物療法を受けていない患者では、寛解にいたる割合が⾼かった。
なかでも1,000⼈年あたりの寛解発⽣数は、▼薬物療法を受けていない患者で21.7⼈、▼HbA1c値7.0%未満の患者で27.8⼈、▼1年間の減量幅が5〜9.9%の患者で25.0⼈、▼10%以上の患者で48.2⼈と、それぞれ上昇していた。
さらに、1年間の体重変化に関しては、BMIが0〜4.9%低下した場合を基準とした寛解の発⽣は、5.0~9.9%低下した場合で2.2倍、10%以上低下した場合で4.7倍に、それぞれ上昇した。
逆に、体重が増加すると寛解が発⽣しにくくなる傾向も確認された。さらに、寛解に達した3,677⼈を追跡した結果、1年間寛解を維持した⼈は1,187⼈にとどまり、3分の2にあたる2,490⼈が再発(再び⾎糖値が上昇)したことが判明した。
再発した患者の観察開始時の特徴を分析すると、▼糖尿病と診断されてからの期間が⻑いことや、▼BMIが低いことに加えて、▼体重が増加した⼈で再発が起こりやすい傾向が明らかになった。
また、▼糖尿病罹患期間の増加、▼観察開始時のHbA1c⾼値、▼1年間の体重増加にともない、寛解しにくいことが示された(左から2段⽬)。
寛解を1年にわたり継続する要因に関しても、おおむね同様の結果になった(左から4段⽬)。
1年間の体重増加にともないい、寛解達成後に再発しやすいことが示された(左から6段⽬)。
▼糖尿病罹患期間の増加、▼観察開始時のHbA1c高値、▼1年間の体重増加、▼薬物治療ありにともない、寛解しにくいことが示された。
1年にわたる寛解に関する結果もおおむね同様の結果になった(左から4段目)。
1年間の体重増加にともない寛解達成後、再発しやすいことが示された(左から5段目)。
日本人でも5%程度の減量から糖尿病の寛解を期待できる
「⽇本⼈を含む東アジア⼈は、欧⽶⼈に⽐べてインスリン分泌能⼒が低く、同じ2型糖尿病患者でも発症メカニズムや肥満の影響が異なります。そのため、⽇本⼈では欧⽶⼈より寛解率が低いことが予想され、これまで、"糖尿病は治らない"と認識されていましたが、実際には⽇本⼈でも、欧⽶⼈と同様に1%程度の寛解がみられることがはじめて確認されました」と、研究グループでは述べている。
これまでの研究は、体重やHbA1c値の測定間隔は3~6ヵ月と⻑く、寛解の頻度やその関連要因を正確に把握することは困難とされていたが、今回の研究では、糖尿病専⾨施設に継続的に通院している患者のデータを使⽤することで、体重、HbA1c値や薬物治療の経過を1〜2ヵ月の短い範囲で、漏れなく追跡することができたとしている。
さらに、約4万8,000⼈のビッグデータを分析することで、年齢、⾎糖値、BMI、体重減量の度合いを詳細に層別化することができた。また国際的に統⼀された基準を使⽤したことで、⽇本⼈だけでなく、欧⽶の研究と⽐較することも可能になり、⼈種による⾎糖改善のメカニズムの違いを考察することも可能になった。
「⽇本⼈は、BMIが⾼くなくても糖尿病になる⼈も多いのですが、今回の研究結果から、早期からの⾷事、運動、薬物療法への取組みにより、5%程度の減量から糖尿病の寛解を期待できる可能性が⽰されました。また、⼀度寛解にいたった場合でも、体重を適正に管理し、定期的に診察を受けることが、寛解後の再発を予防するにあたり重要である可能性が⽰されました」としている。
なお、今回の研究は観察研究であり、原因と結果の関係を⽰したものではなく、今後、⽣活指導や薬物による介⼊研究を⾏うことで、実際にどの程度の⼈が寛解し、寛解の状態が持続するかを確認する必要があるとしている。
「今後は、構築したデータをもとに、寛解に関連する要因の分析を継続し、より多くの⼈が寛解を達成できるようにするにはどうしたらよいかについて現場診療に活かす予定です」と、研究グループでは述べている。
海外では糖尿病の「寛解」について、米国糖尿病学会・米国内分泌学会・欧州糖尿病学会などの専門家グループが、「薬物療法を行っていない状態で少なくとも3ヵ月間、HbA1c6.5%未満が持続している状態」などと定義している。
新潟⼤学⼤学院医⻭学総合研究科⾎液・内分泌・代謝内科学分野
Incidence and predictors of remission and relapse of type 2 diabetes mellitus in Japan: Analysis of a nationwide patient registry (JDDM73) (Diabetes, Obesity and Metabolism 2023年5⽉8⽇)
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