健診での糖尿病指摘後に医療機関を受診しない人を4因子のみで予測 効率的に受診率向上につなげる

2022.04.26
 東京大学の研究グループは、機械学習を用いて、健診で糖尿病を指摘された後、未受診となる集団を予測するモデルの構築に成功したと発表した。診療報酬請求明細書・健診のデータを含む大規模疫学データベースを用いて、4つの因子のみで未受診を予測できるという。

 4つの予測因子とは、(1) 過去12ヵ月の受診頻度、(2) HbA1c値、(3) 脂質異常症薬処方、(4) 降圧薬処方であり、とくに健診前の12ヵ月の医療機関利用月数が少ないことが、未受診の重要な予測因子になるという。

 研究の成果は、糖尿病の合併症の予防を目的とした政策立案に大きく貢献するエビデンスとなるとしている。

4つの因子のみで未受診の人を予測するモデルを構築

 東京大学は、特定健診などの生活習慣病の健診を受診した成人のうち、糖尿病の診断基準を満たし、受診勧奨を受けたにも関わらず、医療機関を受診しない(未受診の)人を予測するモデルを、機械学習を用いて構築するのに成功した。

 診療報酬請求明細書・健診のデータを含む大規模疫学データベースを用いて、従来の13個の因子で予測するモデルに比べ、予測能が高いモデルを、4つの因子のみで構築できることを明らかにした。

 とくに健診前の12ヵ月の医療機関利用月数が少ないことが、未受診の重要な予測因子だという。少ない因子で効率よく未受診を予測できれば、早期にハイリスクの集団を同定して介入することが可能になり、糖尿病の合併症を抑制するための医療政策立案に役立つ可能性がある。

 研究は、東京大学大学院医学系研究科の岡田啓特任助教、山口聡子特任准教授、山内敏正教授、南学正臣教授、康永秀生教授、門脇孝名誉教授(虎の門病院院長)らの研究グループによるもの。研究成果は、「Diabetes Care」にオンライン掲載された。

健診で糖尿病を指摘されても半数以上が受診していない

 糖尿病の治療を受けずに放置することで、深刻な合併症になるリスクが高まるので、糖尿病と診断された場合には、受診して治療を受けることが非常に重要となる。適切な治療の継続により、合併症の発症を抑えられる可能性が増加する。

 しかし、糖尿病は一般に無症状であることも多いため、健診で糖尿病を指摘された後も医療機関の受診率は低く、半数以上の患者が受診していないという現状がある。受診率の向上が求められている。

 過去の報告によると、糖代謝異常で受診勧奨を受けた患者のうち、35%しか受診していない。こうした健診後に受診しない集団についての研究は、世界でも数が少なく、どのような集団が受診しにくいのかはよく分かっていなかった。

HbA1c値、脂質異常症薬処方など4因子で従来モデルより高精度に予測

 そこで研究グループは、機械学習を用いて、糖尿病の受診勧奨後の未受診を予測するモデルの構築を試みた。

 2019年10月までの健診情報が登録されている、診療報酬請求明細書・健診のデータを含むJMDCデータベースのなかから、健診受診から半年以上追跡が可能な成人のうち、健診で糖尿病の診断基準(HbA1c値が6.5%以上かつ空腹時血糖値が126mg/dL以上)を満たした1万645人を解析対象とした。

 このうち5,450人(51.2%)が、受診勧奨を受けたにも関わらず、糖尿病に関して医療機関を受診しなかった。対象を4:1に分け、前者をモデル構築用、後者をモデル検証用の集団とし、モデル構築用の集団でLasso回帰を行い、未受診を予測する重要な因子を同定した。

 より少ない因子で予測能を保つことができるといわれるLasso回帰の1標準誤差ルールを用いて、39個の因子のなかから予測因子を選択した。対照となる予測モデルとしては、2014年に科学誌に掲載された、13個の因子を含む予測モデルを用いた。

 Lasso回帰の1標準誤差ルールで選ばれた予測因子は、(1) 過去12ヵ月の受診頻度、(2) HbA1c値、(3) 脂質異常症薬処方、(4) 降圧薬処方であり、この4つだけで予測したモデルの方が対照モデルの予測性能よりもDelong検定で有意に高い予測能を示した(c統計量:Lassoモデル0.71[95%信頼区間0.69-0.73]、対照モデル0.67[95%信頼区間0.65-0.69]、P値<0.001)。

糖尿病合併症予防と健康寿命延伸への貢献に期待

 これまで日本では、13個の因子を用いた予測モデルの報告はあったが、今回の研究で、機械学習を用いることで、より「良く」「効率的に」糖尿病受診勧奨後に未受診となる集団を予測できることが明らかになった。

 こうした高リスクの集団に早期に介入することで、受診率を上げて合併症を予防する医療政策立案に役立つ可能性がある。

 「糖尿病の合併症予防は、日本のみならず、世界中で大きな公衆衛生上の問題であり、本研究の結果が活用されれば、日本全体における糖尿病患者の受診率が向上する可能性があります」と、研究グループでは述べている。

 「受診率が向上すれば、心筋梗塞、脳卒中や慢性腎不全などの合併症を予防できる可能性が増加し、心筋梗塞や脳梗塞といった急性期疾患の予防につながり、ひいては健康寿命の延伸にもつながることが期待されます」としている。

東京大学大学院医学系研究科 糖尿病・生活習慣病予防講座
A Machine Learning–Based Predictive Model to Identify Patients Who Failed to Attend a Follow-up Visit for Diabetes Care After Recommendations From a National Screening Program (Diabetes Care 2022年4月18日)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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