糖尿病患者は高温により致死的な高血糖・低血糖の入院リスクが上昇 猛暑日の増加に注意 東京医科歯科大
気温29.9℃での入院リスク比 高血糖緊急症は1.64倍 低血糖は1.65倍
地球温暖化にともない猛暑日が増加し、最高気温が上昇するなど、高温環境に曝露される日が増加しており、高温曝露による疾病リスクの上昇が懸念されている。
糖尿病患者での高温曝露による影響として、全死因死亡や入院リスクの上昇が報告されているが、具体的な疾病発症のリスクについては明らかになってない。
そこで東京医科歯科大学は、高温曝露と、糖尿病患者の致死的な合併症である糖尿病性ケトアシドーシス、高血糖高浸透圧症候群、低血糖による入院リスクとの関連を調べた。
その結果、気温上昇にともない、糖尿病患者の入院のリスク比は、下記の通り上昇することが明らかになった。
【90パーセンタイルの気温 (26.7℃) の場合】 | ||
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高血糖緊急症による入院のリスク比 | 1.27 | 95%信頼区間:1.16~1.39 |
低血糖による入院のリスク比 | 1.33 | 95%信頼区間:1.17~1.52 |
【99パーセンタイルの気温 (29.9℃) の場合】 | ||
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高血糖緊急症による入院のリスク比 | 1.64 | 95%信頼区間:1.38~1.93 |
低血糖による入院のリスク比 | 1.65 | 95%信頼区間:1.29~2.10 |
また、高血糖緊急症のタイプ(糖尿病性ケトアシドーシス、高血糖高浸透圧症候群)、糖尿病病型(1型糖尿病、2型糖尿病、その他の糖尿病)、年齢群(15歳未満、15歳~64歳、65歳以上)、地域によるサブグループ解析でも、おおむね高血糖緊急症および低血糖による入院リスクは同様に上昇した。
気温30℃で糖尿病合併症で入院するリスク1.6倍に増加
高温環境に留意した介入が予防対策として有用である可能性
これらのデータは、2012~2019年の全国「Diagnosis Procedure Combination(DPC)」データから、高血糖緊急症(糖尿病性ケトアシドーシス、高血糖高浸透圧症候群)、低血糖による緊急入院時のデータを抽出、気象庁の全国日平均気温データと統合し、気温と入院との関連を3日間のラグ効果を考慮し分析したもの。
過度の高温の健康への影響は、同日にとどまらず一定期間持続することが知られ、その遷延性はラグ効果と呼ばれている。
今回の研究は、高温環境への曝露が、糖尿病患者の致死的な疾病である糖尿病性ケトアシドーシス、高血糖高浸透圧症候群、低血糖による緊急入院のリスクと関連することをはじめて明らかにしたもの。高温環境に留意した介入が、高血糖および低血糖入院の予防対策として、重要である可能性が示唆された。
これまで糖尿病患者では、高温曝露により全死因死亡や入院リスクが上昇することは報告されていたが、具体的な疾病への影響はよく分かっていなかった。アジアで糖尿病患者が激増しており、高い気温の地域が多く、日本発の研究が海外の医療介入に貢献できる可能性がある。
「高血糖緊急症のリスクが高いコントロール不良の糖尿病患者や、HbA1cが低くインスリンを使用しているような糖尿病患者では、高温環境による血糖への影響を事前に調べ共有し、薬剤を調整するなどの治療介入を積極的に行うことが、致死的な高血糖、低血糖による入院を予防するために有用となる可能性があります」と、研究グループでは述べている。
研究は、東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科国際健康推進医学分野の藤原武男教授、医療政策情報学分野の伏見清秀教授、宮村慧太朗氏らの研究グループによるもの。研究成果は、「Environment International」にオンライン掲載された。
東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科国際健康推進医学分野
Association between heat exposure and hospitalization for diabetic ketoacidosis, hyperosmolar hyperglycemic state, and hypoglycemia in Japan (Environment International 2022年9月)