運動習慣をつけるために必要なのは「⾏動変容ステージが⾼いこと」 勤労者の生活改善を⽀援 筑波⼤学

2024.11.25
 生活指導を受けた中年の勤労者の、運動習慣を獲得するために好影響を与えるものとして、「⽣活習慣改善に対する⾏動変容ステージが⾼い」「⾝体活動レベルが⾼い」「HDLコレステロール値が基準範囲内」の重要度が⾼いことが、筑波⼤学などの研究で明らかになった。

 ⼀⽅で、「アルコールの飲みすぎ」は、運動習慣の獲得に悪影響を及ぼすことも示された。

 「今後、これらの要因を考慮した⽀援策を構築することで、より効率的な保健指導事業の展開につながると期待される」と、研究者は述べている。

運動習慣の獲得は保健指導の効果を⾼める

 運動不足は、⾼⾎圧、喫煙、⾼⾎糖に続き4番⽬の死亡リスク因⼦であり、健康の維持・増進のために⽇常的に⾝体を動かす習慣を⾝につける(運動習慣を獲得する)ことは重要となる。

 ⽇本では、特定保健指導により、メタボリックシンドロームやその予備群に該当する人に対して、運動習慣を含む⽣活習慣の改善を⽀援している。

 運動習慣の獲得は、保健指導による体重減少効果や減量した体重の維持の効果を⾼めることが分かっている。

 そのため、より効率的な保健指導の事業展開に向けて、運動習慣の獲得に影響する要因を明らかにすることが重要になっている。

 そこで研究グループは、特定保健指導(動機付け⽀援)を受けた中年勤労者のデータを、機械学習により分析し、運動習慣の獲得に影響する要因を探索するとともに、各要因の重要度について検証した。

 健康保険組合などの保険者が、2017〜2018年の保健事業で取得したデータを⼆次利⽤し、機械学習を⽤いて分析した。

運動習慣の獲得に好影響を及ぼす要因が明らかに

 その結果、運動習慣の獲得に好影響を及ぼす要因として、「⽣活習慣改善に対する⾏動変容ステージが⾼いこと」の重要度がもっとも⾼く、次いで「⾝体活動レベルが⾼いこと」「HDLコレステロール値が基準範囲内であること」が続いた。

 ⾏動変容ステージは、⽣活習慣を改善しようとする意図と⾏動の変容状況を、5つのステージで⽰したもので、「無関⼼期」→「関⼼期」→「準備期」→「実⾏期」→「維持期」の順になっている

 ⼀⽅で、「アルコールの飲みすぎ(1⽇3合以上の飲酒)」は、運動習慣の獲得に悪影響を及ぼす可能性も⽰唆された。

 「より効率的な保健指導を展開するために、保健指導の効果に影響する要因(対象者の特性や⽣活習慣など)を特定することが重要です」と、研究者は述べている。

 「研究により、特定保健指導の動機付け⽀援を受けた中年勤労者が有する特性やライフスタイルのなかには、運動習慣の獲得に好影響を及ぼす要因とそうでない要因があることが明らかになりました」。

 「今後、これらの要因を考慮した⽀援策を構築することで、より効率的な保健指導事業の展開につながると期待されます」としている。

 研究は、筑波⼤学体育系の中⽥由夫教授、⼥⼦栄養⼤学栄養学部の津下⼀代特任教授、名古屋⼤学医学部附属病院の尾上剛史氏、⼗⽂字学園⼥⼦⼤学⼈間⽣活学部の若葉京良氏らによるもの。研究成果は、「Preventive Medicine Reports」に掲載された。

運動習慣の獲得に好影響を及ぼす要因の重要度
出典:筑波⼤学、2024年

機械学習のアルゴリズムを⽤いてモデル構築

 研究グループは今回、健康保険組合などの保険者が2017〜2018年の保健事業で取得したデータを⼆次利⽤し、データに⽋損値がある者を除外して、2017年時点で運動習慣のない人(1万6,471人、うち⼥性は4,469人)を対象に分析した。

 運動習慣の獲得に影響する要因を探索するため、まず2018年時点での運動習慣獲得状況(運動習慣ありを「獲得」、それ以外を「⾮獲得」)を従属変数、基本特性(性別、年齢、受診⽇など)、⽣理指標(BMI、⾎糖値、⾎圧など)、調査票回答結果(⾷⽣活、睡眠、⽣活習慣改善に対する⾏動変容ステージなど)を独⽴変数(他の要因に影響されずに変化する変数)に投⼊し、予測精度を向上させる⼿法であるLASSO回帰により、機械学習のモデルに⼊⼒するデータを選択した後、10種類の機械学習のアルゴリズムを⽤いてモデル構築した。

 次に、データセット内の運動習慣獲得者の割合が均⼀になるよう、ランダムに機械学習⽤のトレーニングセット(1万1,529人、うち獲得者は1,105人)と、機械学習の答え合わせ⽤のテストセット(4,942人、獲得者は402人)に分け、10分割交差検証を⽤いてモデルの効率的な学習にもっと適なハイパーパラメーターを設定し、その精度をROC曲線とその曲線下⾯積(AUC)で評価した。

 最後に、10種類の機械学習アルゴリズムのうち、もっとも精度が⾼かったモデル(BGLM、AUC=0.68)を⽤いて、運動習慣の獲得に影響する要因を探索するとともに、各要因の変数重要度(満点100点、点数が⾼いほど重要なデータであることを⽰す)を算出し、各要因が運動習慣の獲得にどの程度重要であるかを評価した。

 その結果、運動習慣の獲得に好影響を及ぼす要因として、⽣活習慣改善に対する⾏動変容ステージが⾼いこと(維持期、回帰係数 0.35、実⾏期、回帰係数 0.35)の重要度がもっとも⾼く、次いで、⾝体活動レベルが⾼いこと(回帰係数 0.32)、HDLコレステロール値が基準範囲内であること(回帰係数 0.21)の順に重要度が⾼いという結果が得られた。

 ⼀⽅、1⽇3合(60gのアルコール)以上の飲酒(回帰係数 -0.20)は、運動習慣の獲得に悪影響を及ぼす可能性が⽰唆された。

研究のフローチャート
出典:筑波⼤学、2024年

筑波⼤学体育系
Factors associated with acquiring exercise habits through health guidance for metabolic syndrome among middle-aged Japanese workers: A machine learning approach (reventive Medicine Reports 2024年12月)

[ TERAHATA / 日本医療・健康情報研究所 ]

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