NAFLDの病態進行に「肝臓のセロトニン受容体」が関与 自律神経を介する「肝-脳-腸連関」を解明
NAFLDの病態に自律神経を介する「肝-脳-腸連関」が関与
研究は、新潟大学医学部医学科総合診療学講座/大学院医歯学総合研究科消化器内科学分野の上村顕也特任教授、同分野の大脇崇史氏、寺井崇二教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Disease Models & Mechanisms」に掲載された。
⾮アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は、世界的に増加傾向にある。NAFLDには、生活習慣、遺伝的素因、環境因子を含むさまざまな要因が関わり、肥満や糖尿病、ホルモン分泌異常、遺伝的素因などさまざまな病態形成に複雑に関与しており、その病態解明と有効な治療法の開発が喫緊の課題となっている。
研究グループはこれまでに、NAFLDの病態に自律神経を介する「肝-脳-腸連関」が関与し、セロトニンやグレリンなどの消化管ホルモンの働きで、腸内細菌叢、短鎖脂肪酸、腸管バリア機能や下垂体ホルモンに影響して、NAFLDの進行に関与することを明らかにしていた。
セロトニンは、主に小腸にあるクロム親和性細胞で産生されるホルモンで、90%が消化管粘膜にある。腸の蠕動亢進や血液凝固、血管収縮の調節を行い、脳内セロトニンは生体リズム、睡眠などに関与することが知られている。最近では、腸管バリア機能への影響や、肝障害時の肝再生を促す働きなども報告されている。
セロトニンの受容体は、全身のさまざまな臓器や組織にあり、いろいろな機能を担っている。しかし、自律神経路を介した肝-脳-腸連関の活性化にともなうセロトニン分泌が、肝臓のセロトニン受容体を介して、どのようにNAFLDの病態に関わるのかはよく分かっていなかった。
そこで研究グループは、NAFLDの病態進行と、自律神経経路を介する、セロトニンおよびその肝臓での受容体(Htr2a)の発現、脂肪合成関連の遺伝子発現の変化を検討した。
また、肝臓に起始する自律神経経路の遮断によって、NAFLDの病態が制御できるかを検討した。さらに、肝細胞表面のHtr2a拮抗薬により、病態の制御が可能かを検討した。
自律神経経路を介したセロトニンと受容体の調節がNAFLDの進行抑制に有用である可能性
研究グループが、NAFLDモデルマウスを用いて、自律神経経路の制御、Htr2a拮抗薬が有効か検討したところ、脂肪食の給餌により、小腸からのセロトニンおよびHtr2aの発現は上昇し、肝臓からの求心性交感神経の遮断によって、その変化が軽減。さらに、その受容体の下流では、中性脂肪合成に関わる遺伝子の発現が低下した。
さらに、これらの結果は、NAFLDモデルマウスにHtr2a拮抗薬を投与することで再現された。NAFLDモデルマウス、NAFLD患者の血清セロトニン濃度がNAFLDの進行にともなって低下することも明らかとなり、病態進行の指標にもなりうることが示唆された。
今回の研究により、NAFLD患者で、自律神経経路を介したセロトニンおよびその受容体の調節がNAFLDの進行抑制に有用である可能性が示唆された。
「研究成果は、有効な新規治療薬の開発につながると考えられます。一方で、この効果は脳内で食欲が制御できないマウスでは弱く、今後、中枢性の食欲制御と末梢自律神経系の関連を解明する必要があります」と、研究グループは述べている。
新潟大学大学院医歯学総合研究科 消化器内科学分野
The liver-gut peripheral neural axis and nonalcoholic fatty liver disease pathologies via hepatic serotonin receptor 2A (Disease Models & Mechanisms 2022年6⽉29⽇)